タイム・ラグ 投稿者:鈴木 夕美
 ある日、大学に遅刻しそうになり、俺は猛スピードでダッシュしていた。
「あっ!ヒロじゃないの?
久しぶり!」
 どこかで聞き覚えのある声
 どこかで見覚えのある顔。
「あ…お前。」
 …志保だった。
「ひさしぶり。
 お前どこに行ってたんだよ?」
「…変わってないわね?
 あんた。」
 そんな感じで(こみあげてくる懐かしさを押さえながら)話しはじめる。
 あいかわらず憎まれ口をたたきながら。  
「じゃあね。ヒロ。この車はあんたにあげる。」
「…おまえ、成功してんだな。」
「まあね。」
 そう言い残すと、真っ赤なスポーツカーは、軽快なエンジン音を残して走り去った。
 
 アクセルをきつく踏む。 
「…ヒロのばかやろう。」
 まるでその一言をかき消すかのように…。

 ―――思えば、高校の時にヒロとあたし、一度だけやっちゃったんだよね。
 なんで一度だけかっていうと…やっちゃったあと、別につきあうとかしなかったから。
 やったからって、つきあうってのは変よね?
 まっ、体から始まる恋愛もあるんだろうけどさ。
 あたしの場合はちがかった。
 始まりようがなかったんだ。
 だってそれは、大切な親友を裏切る事になるから―――。


 あたしとあかりは中学の時に知り合ったんだ。
 最初、あかりはあたしの事『強引な子だなぁ』って思ってたらしい。
 まぁ、あたしはあたしで『むちゃくちゃおとなしいやつぅ』って思ってたから、どっちもどっちか。
 で、いろんなことを話したんだ。
 お互いの卒業した小学校の事。そこにいた友達や先生の事。
 初恋はいつだったか。その相手には告白したか。
 最初はあたしばっかり話してたんだけど、そのうち、あかりも少しずつ話してくれて。
 三日もすると、お互いのことを誰よりも詳しくなった。
 あたしに比べてあんまり話さないほうだったあかりが、うれしそうに話す話題があって。
 そのことを話すあかりは、とってもかわいくって、あたしは聞いてるだけで幸せだった。

「あ〜かったるいなぁ…。」
 あたしは週に一度の部活に出ていた。
「ったくぅ…誰よ、この部活が楽だっつーたの…。」
 『菊同好会』という部活(うちの学校は、部活の時間に同好会に入るのもOKだった)で、先輩のい
  うには『部活も週1だし、やることたいしてないし』っていうことだった。
 …なのにっ!
 なんで雑草取りなんてしなきゃいけないの!!
 ああんもういやーっ!!
「…何やってんのおまえ?」
 …なんか、むかつくこと言われたような気がする。
「なによ!見ればわかるでしょ??」
 そう言いながらキッ…とにらみかえす。
「お〜こわい。
 …なんだ。草むしりか。」
 そう言った男の子は、見るとサッカー部のジャージを着ていた。
「そうよ。悪い?」
「ああ言えばこう言うってやつか?
 …ったく、可愛くねーやつだなぁ。」
「あんたに言われなくても、もっとかっこいい人に言ってもらうからいいわよ〜だっ!」
 あっかんべ〜っ。
「―――んだと〜?
 こいつ…」
 一触即発。
 まさにそんな感じだった。
 その時。
「浩之〜っ。
 早く行かないと、また先輩に怒られるよ〜?」
 遠くでそんな声がする。
「おうっ。わり〜わりぃ。
 …じゃあな。あんま怒ってっと将来しわしわになるぞ?」
 ぷちっ。
「あんた、一言多いわよっ!!」
 ―――そう叫んでも、もう聞こえないらしい。
 一緒にいる、ちょっと小柄な男の子となんか話してた。
「…あのばかやろう。」 

「…ってことがあったのよ。むかつくわよね〜っ。」
 次の日、給食の時間に昨日の出来事をあかりに話す。
「そいつがさぁ。
 なんか、サッカー部のジャージ着ててぇ〜。
 で…」
「あっ!!志保。
 その人って、ちょっと目つきがきつい?」
「うん。」 
「髪の毛がこんなで…」
 あかりが身振り手振りで教えてくれる。
「うん…って、なんでそんなに詳しいの?あ!!
 ―――さては、あかりにもちょっかいだしたの??」
 がたんっ。
 思わず立ち上がる。
「ううん。
 だってその場面、私見てたもん。」
 ずこっ。
 思わずこける。
「あ…そっか。
 調理室って、花壇の方に面してるもんね。」
 あかりの部活は料理研究会で、活動場所は調理室。
「なぁんだ。
 見てたなら一声かけてくれれば…」
 そこまで言ったとき。
「それに―――その人、私のおさななじみだよ。」

 そう。
 その人こそが、あかりがいつもうれしそうに話す、『おさななじみで初恋のひと』だったんだ。

 その後、あかりとあたしの間にあかりのおさななじみの二人、雅史とヒロ(むかつくやつ!!)が加わ
  り、なかよし四人組になったんだ。
 表面上は、とっても仲がいい―――でもあかりはヒロに片思いを―――四人だった。
 あたしたちはどこへ行くのもいっしょだった。
 
 早足で歩くヒロ。
 一生懸命追いかけるあかり。
 自分のペースで歩く雅史。
 そして。
 その光景を見続けながら歩くあたし。
 ―――ずっと、続くと思ってた。

 そして。
 “あの日”が来た。
 
 未来のヒロは、あかりにあげる。
 だから。
 現在のヒロは、あたしにちょうだい。
 
 それ以上は、望まないから…。
 後悔は、決してしないから…。

「あんたは、あたしにとっては通過点でしかないんだからね?」
「このことをあかりに言ったらただじゃおかないからね?」

 せいいっぱいの強がりで隠したこころを。
 ずっとずっと、とじこめなきゃ。


 でも、もしあの時、素直に言えたのなら。
 そうしたら、きっと―――。
 ―――ううん。やめよう。
 あたしらしくないよね。

 タイム・ラグはおきないから。
 きっと―――。

                                           <Fin>

 …というわけで、あとがきです。
 小説を書いてみました。感想をお待ちしてます。

 この話(『タイム・ラグ』)には、続きがあったりします(笑)。
 なんと6つ(大爆笑)。
 でも、志保ちゃんの話以外にも、マルチの(4つ)話や委員長のとか、色々書いてるので、推敲し
  つつ…ってとこですね。
 ぜんぶ、恋愛の話です。
 けど、実は、芹香先輩のファンに怒られそーなの(死)とかもある。←これは、ブラック・ユーモ
  アってやつですが。
 いつか、ここに書き込もうと思います。その時は、どうぞあたたかい目で(?)見てやってくださいね。
 
 では今日はこの辺で。
 
  by.鈴木『クリアしたら、他のキャラの話も書きたいです(予定は色々あるんですよ)。』夕美