夜空ノムコウ 投稿者: 鈴木 夕美
夜空ノムコウ


「ねぇ、祐くん、ゆびきりしようっ。」
 そう言うと、沙織ちゃんは僕に笑いかけながら、そっと指を差し出した。
「―――ゆびきり…?」


『長瀬ちゃん、ゆびきり、しないの?』

 
 一瞬、瑠璃子さんの顔が横切った。

 瑠璃子さんと僕が交わした、約束。
 “僕と叔父さんが話してたことを誰にも秘密にしてて欲しい”
 たったそれだけの、他愛のない約束だった。
 その後、僕達はゆびきりをした。
 提案したのは、瑠璃子さんだった。
 僕は最初、戸惑いを隠せなかった。
 けど、瑠璃子さんは、あまりにも真剣だったから。 
 そのうちに、僕は自分から瑠璃子さんの小指に絡めていた。
 ―――瑠璃子さんの指はすごく冷たかった。

 
「?祐くん?
 どうしたの?」
 はっ…。
「どうしたの?ボーッとしちゃって。
 ―――あーっ。さては照れてるんでしょーっ。
 祐くんってばかあいいんだからぁ。」
 そんな事を言いながら、沙織ちゃんは、僕の小指に自分から絡めてきた。
 ―――沙織ちゃんの指はとても暖かい。
「ゆーびきーりげーんまん。」
 沙織ちゃんが歌い出す。
「うっそつーいたーらはーりせーんぼんのーますっ。」
 僕も歌う。
「「ゆーびきったっ。」」
 そういうと、絡めていたお互いの指をはなす。
「祐くん。
 飲む針は自腹切って買うのよ。」
 しんっけんな顔で、僕にいう。
「え?
 あれって、“ハリセンボン”っていう魚を釣ってきて丸呑みするんじゃないの?」
 と、ちょっとボケてみる。
「えーっ?
 そうだったの?
 あたし知らなかったー。」

 その日は、クラブの友達と用事があるといって、別々に帰った。
 “クラブが終わるまで待ってて”て言ったのは沙織ちゃんなんだけどなぁ。
 まぁ、クラブを抜け出して、わざわざ教室まで言いに来てくれたし…。
「結構、暗いんだなぁ。」
 今の時間は、六時半。
 春に近づいたとはいっても、これぐらいの時間になれば、もう真っ暗なんだなぁ。
 星が、とっても奇麗だ。
 普段はあまり気づかなかったけど、このへんも結構星が見えるんだなぁ。
 ―――とはいえ、どれがどの星座か、なんてわかんないんだけどね。
 うう。もっと真面目に勉強すれば良かったかもなぁ。
 あ。月だ。
 奇麗だなぁ。
 …銀色に光る、下弦の月。
 まるで女神の弓のように、清冽な光を放つ。
 僕の心に、その矢が突き刺さる。


 『長瀬ちゃん、ゆびきり、しないの?』
 あのときの、瑠璃子さんの顔を思い出す。
 くすくすと、まるで童女のように―――扉を『開いた』顔をしていた。
 瑠璃子さんは、何かを伝えようとしてた気がする。
 でも、僕はわからなかった。
 あのときの、瑠璃子さんの指の感触は、冷たくって、細くって。
 何か、心に痛かった。
 何故だろう…?
 何故、心をこんなにしめつけられるんだろう…?

 ―――やめよう。
 こんなの、ただの妄想だ。
 あの日以来、僕は妄想しなかったのに、なんで今日に限って―――?

 『長瀬ちゃん、ゆびきり、しないの?』

 家の扉を開ける。
 誰もいない。
 いつもの、家。
 いつもの、玄関。
 いつもの・・・。

 気が付くと、僕は、泣いていた…。


 僕は、自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。

 悲しい気持ちって、いつかは消えていくものなのだろうか?
 それとも、記憶として残り、いつか血となり肉となり、僕という個体を形成するものとなるのだろうか?
 生きてても、死んでてもいいようなこの体で・・・?
 僕には、きっとわからない。
 けど―――。
 
 僕はこれから、誰かの事―――たとえば、沙織ちゃんとか―――や、何かを信じて生きて行くのだろうか?
 それとも、誰も、何も信じずに生きて行くのだろうか?
 今まで、音も色も失っていた、この世界で・・・?
 僕には、きっとわからない。
 けど―――。
 
 全てが、うまくいく、なんていうことのない、この世界で。
 瑠璃子さんを忘れて 生きて行くのだろうか?                           
 瑠璃子さんを忘れずに生きて行くのだろうか?
 僕には、きっとわからない。
 けど―――。

 あの夜空の向こうには、明日は、待っているから。
 人の都合も考えずに、明日は、やってくるから。
 誰の上にも、平等に、明日は、訪れてくるから。

 きっと、夜が来るたびに、僕は妄想するのだろう。
 童女のような、あの子のことを―――。 

                                                                 <Fin>
 
 というわけで、あとがきです。
 小説を書いてみました。感想をお待ちしてます。

 この話にも、イメージソングがあるんですね。
 やはり、SMAPの、同タイトルの歌だったりします。
 この歌は、ミュージック・V(SMAPが、どこかの屋上にいたり、キム
タクが車に乗ってる方ね。)が映像的にはぴったりだと思う。
 (どーでもいいけど、つよぽんが煙草喫ってるのはいったいどーゆーこと
でしょうか…。)
 
 さて。本題に戻しまして。
 この話は、今でこそ『さおりんヒロインと見せかけて、実は瑠璃子さんヒ
ロイン』ですが。
 実は、他の人をヒロインにするバージョンもあったんです。
 1)祐介主人公・瑠璃子さんヒロイン(つまり、この話)
 2)瑞穂主人公・香奈子ちゃんヒロイン
 3)拓也主人公・瑠璃子さんヒロイン
 4)拓也主人公・香奈子ちゃんヒロイン
 5)浩之主人公・マルチちゃんヒロイン
 ・・・我ながら、この想像力(え?“妄想力”の間違いだって?)にはび
っくりですねー。

 で、“1”にしたわけですが。
 何故かというと、“2”は、色々な人が漫画や小説にしてるし、“3”は、
拓也さんって嫌われてるみたいだし…と。
 “4”や“5”も、ありふれてるかな、って。
 (実際、“5”は、以前書きましたし。いや、まだ“5”は、ネタがある
ので書く予定ですが。)
 あと、“雫”をやってみて、の私的感情も入ってるかも(笑)
 もし、“2”〜“5”で、読んでみたいのがありましたら、メールにてリ
クエストしてください。
 少なければ、リクエストくださった人限定で、多ければここに書き込み用
に書き直してみようかなと、思います。
 ただし、期限はこれが載ってから一ヶ月。
 一ヶ月後から書き込みや、リクエストくださった人に配送しますね。
 けど、私はここに頻繁に来れない事情がありますので、メールにてお願い
いたします(m(_ _)m)ペコリ。
 あと、それとは別に、このあとがきにも『秘密のあとがき』というのがあ
ります。
 そっちは、やっぱり感想をくれた人で、希望者のみプレゼントします。
 でも…正直言って、人に読ませるものじゃないかも。
 言葉づかいとか、表現が汚らしいし、下品だし。
 それでもOKなら、どうぞ。
でも、実際にこんな奴(祐くんね)がいたら、『嫌いだけどすごく気にな
って、そのうち好きになる』と思う(笑)。
 どうしようもなく、ね。
 それこそ、感情とか快適かはおいといて。
 
 では今日はこの辺で。

 by.鈴木『中谷 美紀のアルバム欲しい(泣)』夕美