き〜んこ〜んか〜んこ〜ん。 今日の授業が終わった。 「ふぅ…。」 そっと、ため息を落とす。 「どうしたの?琴音?」 声のする方向を見ると、少女が立っていた。 「あ、夕美ちゃん。 ―――ん、あともう少しでバレンタインなんだなぁ、って。」 今日は二月七日。 バレンタインまであと十日しかないのだ。 「わたしはおにいちゃんに買うだけだけど…。 琴音はあの先輩にあげるんでしょ?」 “あの先輩”というのは、去年の春からつきあいはじめた、一つ上の同じ学校の先輩だ。 「うん。」 なにせ、暗かった琴音(理由はいろいろあった。出生による家庭不和、不吉なウワサによる友人不和(どんな言い回しだ)など。)をここまで更正してくれたのだ。 そのおかげで、夕美という友達もできて、今は幸せな高校生活を送ってる。 次第に恋心が芽生えても不思議ではないだろう。 「でも、先輩の周りって素敵な女の人がたくさんいるし。」 神岸先輩に、長岡先輩に…。 「でも、先輩に『“妹”って思われてるのかも』なぁんて言ってたでしょ?」 「うん。」 うなずく。 実は、先輩に一度しか手を出されていないのだ。 そのせいで、ちょっぴり心配なのだ。 「だったら、チョコ買いに行こうよ。 あそこのお店ならかわいいのあるってウワサだし。」 夕美が指差した店は、下校途中に二人がよく寄るファンシーショップだった。 「たしかあのお店って、チョコに文字入れてもらえるはずだし。」 そう言いながら、お店に入る。 「いらっしゃいませー。」 そのお店には、様々なチョコや手作りキット、色とりどりのラッピング用品がところせましとならんでいた。 「でもさー、手作りもいいよねー。」 「うんうん。 ラッピングに凝ったりー」 あ。 あのくまの入れ物にこのちいさいハート型のチョコをつめるのもいいかも。 そう思いながら、くまの入れ物を手に取ろうとしたとき。 誰かが同じくまを取った。 「あっ、ごめんなさい。」 手を引っ込め、顔を見合わせる。 「あ…。 …えっと、姫川さんだっけ? こんにちわ。」 そこには神岸先輩が、いた。 その隣には―――。 「…琴音ちゃん。」 浩之先輩が、いた。 「浩之ちゃん。 雅史ちゃんのはサッカーボール型のがいいかなぁ。」 「ん…。」 浩之先輩は、こっちをちらちら見ながら神岸先輩につきあっている。 がーん。 「ねぇねぇ、琴音?」 浩之先輩って、わたしより、神岸先輩と一緒にいる方が楽しいのかな? 「ねぇってば!! こ・と・ね!!」 はっ。 「あっ、ごめん。 ついついぼーっとしちゃった。 なに?」 ひそひそと小声でしゃべる。 「先輩って、琴音とつきあってるんじゃなかったの?」 「たしかそのはずなんだけど…。」 ショックが隠せない。 だが、琴音は誤解している。 確かに琴音と先輩はつきあっている。しかし、今日は一緒に帰る約束はしていない。 第一、先輩はあかりの義理チョコ選びにつきあわされているのだ。 しかも、今日にかぎって志保は「用事ができた」と言ってきて二人きりで来ているのだ。 「まぁ、とりあえず今日はチョコを買って退散しとこ。 で、今度、先輩に聞くなり、なんなりしなって。」 「うん…。」 とりあえず、この手作りキットとこれとそれと…。 買い物をすまして、店を出る。 ―――と、その時。 くいっ。 誰かが琴音の袖を引っ張る。 振り返ると、黒髪のつややかな女の子が立っていた。 店の制服を着ている。 ということは店の店員か。 「…え?忘れ物があります…? ああ、わたし、買ったものをレジに忘れたんですね。ありがとうございます。 え?あとこれはおまけです?」 こくり。 その店員は、琴音に茶色い小瓶を渡した。 「え?お客さんは手作りキットを買ったでしょう? だから、これをあげます。 これを混ぜればイチコロ?」 こくり。 「あと、これは、チョコをあげる前にあなたが食べてください? これでばっちり?」 こくり。 キャンディのようだ。 「へー。 おまじないかー。 なんか、気持ちが楽になりますよね。 ありがとうございます。」 そうして、バレンタイン当日。 茶色い小瓶の中身はリキュール(お菓子作りに使う、香りづけ)だった。 なかなか、おいしそうにできた。 今日は、デートの約束もしてあるし。髪型もきまってる。 うん、完璧。 さーて、あとはあの店員さんのくれた、キャンディーを食べて…。 うん。甘くておいしい。 もうそろそろ浩之先輩が来る頃…。 一方、来栖川邸。 「ねぇ、姉さん。 なんで、いきなりアルバイトしたの? おこずかいならいっぱい貰ってるのに。」 ひそひそ。 「え?私の邪魔をする人をけおとすため? …ふぅん。なんか物騒ね。」 「あれ? 琴音ちゃん?」 ああ…先輩の声が遠くに聞こえる…。 <Fin> というわけで、あとがきです。 小説を書いてみました。感想をお待ちしてます。 ―――とは言っても、ここにちょくちょく来れないので、感想は、メールでおねがいいたします。 (せっかく感想いただくのに無視するのは切ないので) ただ、このメールアドレスは、私のじゃないので、とりあえず感想などにしてくださいね。 この話は時季ネタということなのですが。 …なんか、芹香先輩のファンよりも、琴音ちゃんファンに怒られそう(以前“けど、実は、芹香先輩のファンに怒られそーなの(死)とかもある”と言っていたものです)。 これの元ネタは私が小学六年生の時に書いた小説です。 タイトルは恋人をさす、英語の俗語です。 そういえば、どなたか委員長のセリフを翻訳してくれませんか?(泣) 周りに関西(というか神戸)の人がいなくって。 では今日はこの辺で。 by.鈴木『書こうとしている話が瑠璃子さんのイメージに合う気がするので、“雫”をやらないと書けないよう(泣)』夕美