「マル……チ……?」 瀕死の浩之は辺りを包み込む眩い光に気が付いた。 太陽の輝き。 それはマルチの放つ光だった。 「……生命ノ……炎……?」 鬼が呟く。 光の中、マルチは腕を組み、しっかりと鬼を見据えて立っていた。 スーパーLEAF大戦 第9話『FIGHT BACK!』 ……ようやく思い出しました……私の生まれた理由(ワケ)……。 マルチの瞳は優しい。 しかし、そこには決意があった。 平和な日常との『決別』の決意が。 「マルチとセリオ……来栖川の最新メイドロボの試作機。しかし、それは隠れ蓑に過ぎない……。」 長瀬が語り出す。 その表情は苦渋に満ちたものだった。 罪悪感。 自分の娘とも呼べる者を戦いの運命に投げ込まなければならない故に、彼は苦しむ。 ……来たるべき鬼との戦い。その時のために私たちは生まれました……。 「彼女たちは来栖川の……いや、全人類の科学の粋を結集させて造られた、対鬼用の決戦兵器なのです。」 「決戦兵器……あんな娘が……」 千鶴は画面に映るマルチを見つめて呟いた。 「セリオのコンセプトは『個体レベル最強の兵器』――いかなる戦況にも適応し、最 善の戦術で、常に期待値以上の攻撃を行い、敵を殲滅させる……それがセリオ。」 「では……あの娘は?」 「……どんなに強力な兵器も限界があります。科学は万能ではありませんからね…… しかし、唯一、限界のない無限の力があります。それが……」 ……大切なものを……愛する人を守りたいという心! 「!!!!!!!!!!!!!!」 マルチが駆け出した。 目にも止まらぬ速さで、鬼の前に急接近し、拳を放つ! 「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 鬼が絶叫をあげる。 そのまま、鬼は数百メートルも彼方に吹き飛ばされた。 ……長瀬が続ける。 「そう……『愛』と『努力』には限界がありません。すなわち、これがHMX−12 のバスターモード! 名付けて……!」 「マルチバスタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」 マルチバスター。 それは感情をエネルギーとした究極の決戦兵器である。 人の心が生み出す、無限の可能性。 それを長瀬たちはマルチに導入したのである。 マルチが真に人を愛したとき。 人の心に目覚めたとき。 マルチの封印されていた力は解放され、最強の戦乙女が降臨するのだ。 しかし…… 「先程も言ったとおり、バスターモードはまだ未完成……現行では10分しか保たない!」 10分立てば、マルチは全エネルギーを使い果たし活動を停止する。 そうなればもう打つ手はない。 だが、マルチは自信があった。 (10分……それだけあれば充分ですぅ!) マルチの額に力が収束する。 「マルチビームぅぅぅぅぅぅ!」 一閃。 マルチの額から光の直線が生じた。 その光は触れるもの総てを切断しながら、鬼に接近する! 「ぐるわあっ!?」 野生の勘が、鬼の身体を動かした。 間一髪、切断を逃れる。 しかしマルチの攻撃は終わらない。 「マルチミサぁイルぅ!」 マルチの手から放たれるミサイルの雨が鬼を襲った。 鬼はギリギリの線でそれらを避ける。 ミサイルの着弾した地点は、球形にえぐり取られていた。 どうやら空間ごと敵を消滅させる攻撃のようだ。 ……危険極まりないと思う……。 ともかく、圧倒的強さを誇っていたあの鬼が、今度は防戦一方になった。 「浩之さんもセリオさんも……みんな、私が守ってみせますっ!」 マルチは戦士として目覚めたのだ。 「……まずい……まずいぞ……。」 長瀬の額から汗が流れ落ちる。 ……マルチと鬼の戦いが始まってから、既に8分が経過していた。 マルチの活動限界まであとわずかである。 鬼はマルチの力を警戒し、自分からは仕掛けてこない。 常にマルチと一定の距離を保ち、焦りを押さえ、反撃の機会を虎視眈々と狙っている。 逆に焦るのはマルチの方だ。 回避に専念する鬼に、マルチの攻撃は一向に命中しない。 このままでは10分が経ってしまう。そうなれば……。 「………………。」 マルチはちらっとセリオの方を見る。 ……無惨な残骸。 しかし、AIが死んでいなければ、修復は可能のはずだ。 「………………。」 次に浩之の方を見る。 脇腹から血が絶え間なく流れ出ている。 おびただしい血の量だった。 それでも浩之の身体は、まだかすかに動いている。 生きているのだ。 来栖川の医療スタッフなら浩之の命を救えるだろう。 だが……。 ……ここで私が負ければ、みんな死んでしまう……。 そう。 負けるわけにはいかないのだ。 マルチは毅然と鬼を見据えた。 そして…… 「……行きます!!!!」 鬼に向かって一直線に、無謀とも言える突撃を開始した。 「なっ……何をするつもりだ、マルチ! やめろ!」 画面を見ていた長瀬が叫ぶ。 しかし、その叫びはマルチには届かない。 「ぐるるるるはわああああああああああああああああああああああああああああああ!」 この隙を逃す鬼ではなかった。 鬼は飛翔し、一気にマルチに襲いかかる! 「マルチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」 がきぃぃぃぃぃぃぃん! 鬼の爪がマルチを腹部を貫いた。 長瀬の視界で、先程のセリオとマルチとが重なる。 だが、マルチはこれを狙っていたのだ。 「……つ、捕まえましたぁぁぁぁぁぁ!」 マルチの小さな手が、鬼の腕をしっかりと掴んだ。 「ぐるるう!?」 鬼は腕を引こうとする。しかしマルチは離さない。 続けて、マルチの腕から金属の管が何本も現れた。 それらは鬼の腕に突き刺さる。 そして、 「マルチコレダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」 マルチが吠えた。 刹那。 「ぐるはああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 辺りに鬼の絶叫が響き渡った。 マルチコレダー。 敵の体内に直接、高圧電流を流し込む技である。 この攻撃なら闘気の壁も役には立たない。 鬼は黒こげとなり、マルチの足元に倒れた。 まだ死んではいない。 「ぐ……るぅ……。」 鬼は痙攣しながら、小さなうめき声を洩らした。 マルチと鬼との視線が合う。 「……あっ……。」 マルチは小さく悲鳴をあげた。 その表情には脅えが見て取れる。 そのとき、長瀬から通信が入った。 「よくやったマルチ! さあ早くトドメを刺すんだ!」 しかしマルチは答えない。 小さく震えている。 そんなマルチの様子を長瀬は怪訝に思った。 「……どうした、マルチ?」 「わた……私……ころ……ころ……殺した……『おに』さん……殺した……!」 マルチは泣いていた。 裁きのときを恐れる罪人のように。 それに気付いたとき、長瀬は愕然とした。 「何を!……そいつは敵なんだぞ、マルチ! こうしなければみんなが殺されていたんだ! お前は間違っちゃいない! だから早くトドメを刺せ!」 しかし、そんな理屈が通じるはずもない。 マルチはもはや、見るのも哀れなくらいに、ガタガタ震えていた。 涙が止まらない。 長瀬はさらに叫ぶ。 その叫びはもう、慟哭に近かった。 「マルチ!はやくトドメを刺せぇぇぇぇぇぇ! 敵は……敵は!」 「!」 「まだ生きているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」 ぐべおぶうっ 一条の光がマルチの左目を貫いた。 瀕死の鬼が放った力だった。 「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 今度はマルチの絶叫が響き渡る。 「ま……マルチ……。」 長瀬はがっくりと膝を突いた。 そして…… 5……4……3……2……1…… 『0:00:00』 マルチ、活動限界。 つづく ………………………………………………………………………………………………………………… ジン・ジャザムです。 いやあ、スゴイことになっちゃいましたねぇ〜(爆) でも、今回の展開は第3話書いている頃にはもう決まっていたんですねぇ〜(爆2) だから…… マルチファンの皆様、ごめんなさいっ!(土下座) ……しかしホント、スゴイですな。 マルチが戦う! しかも強い! でも最後は悲惨!(核爆) 何かエ○ァパロも復活しているし(笑)……あっ、次回マルチが「殺してやる……殺してやる ……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……」 ってな風にはなりませんので、ご安心を(^^;) いやでも展開が俺らしくなってきたなぁ……。 このままダーク路線で突っ切るのかなぁ……? さあここで大予想! スパリフ大戦の最終回は!? 1.みんなスープになっちゃう。 2.「俺は人は殺さない! その怨念を殺す!」とか言いつつ、結局、殺す。 3.全部の記憶を失って、車椅子(←ロボット……か?) ……分かりづらいぞ、このネタ。特に3番(爆) 逃げるように次回予告だっ! マルチ、活動限界。 絶望に打ち拉がれる長瀬たち。 しかし戦場に、思わぬ人物が現れた。 彼の正体はいったい……? 次回、スーパーLEAF大戦・第10話『ELECTRIC LORD』 銀河の歴史にまた1ページ(←ロボットぢゃねぇ) ………………………………………………………………………………………………………………… 追伸 スパリフ大戦のおまけ、鋭意制作中。 くだらないバカ話や、裏設定等が語られる予定。 でも完成はきっと4月(爆、風○ランプ) 気長にお待ち下さいませ。