ほわいと・くりすます 投稿者:ジン・ジャザム


じんぐるべる、じんぐるべる、じんぐるおーるざうぇい……

 お決まりのクリスマスソングが夜の街に響き渡る。
街路樹を飾るイルミネーション、派手に点滅するネオンの煌めき、偽物のサンタクロース、
車の騒音、それに混ざる話し声、笑い声……クリスマス・イブの光景。
 今夜の街はいつもよりも浮かれているようだった。
 赤い包装紙に包まれたおもちゃの箱を片手に帰路につく人、街頭のケーキ売りからクリス
マス・ケーキを買う人、仕事から解放され飲み屋を探している人……イブの夜の住人たち。
 本当なら、俺もその中の一人であるはずだった。
 ……俺はしがない三流大学の学生である。
 大した特技もないが、致命的な欠陥もない。
 サークルに所属していて、それなりの友人たちもいる。
 くだらないパロディ小説を書いて、それをインターネットで流したりする、何てことのな
いごく普通の人間だ。
 ごく普通の、人間。
 別にそのことに失望もしていない。
 だが……
 今日の俺はまわりの雑踏から取り残されていた。
 なんてことはない。ただ単に不幸が重なって、憂鬱なだけだ。
 バスの渋滞に巻き込まれ、道の真ん中で滑って転んで、しかもレポートのことで口うるせ
えジジィに大目玉喰らっただけのことだ。
 さらに贅沢言えば、いま街をうろついている馬鹿どもみたいに、イブの夜、一緒にいちゃ
つく女もいない……ってだけのことだ。
 つまらない、些細なことだ。
 ……でも俺を憂鬱にさせるには充分だった。
 俺をイヴの夜から追い出すには充分だった。
 本当なら今夜、親しい友人たちと一緒に飲みに行くはずだった。
 実際、そのために街までわざわざ出てきた。
 だが……
 憂鬱だ。
 とてもじゃないが、あいつらと一緒に馬鹿やれる気分じゃない。
 下品な酔っぱらいどもの仲間に加われる気分じゃない。
 ……女子高生のバカ笑いや目の前をちんたら歩く年寄り。
 何もかもが不愉快だった。
「………………。」
 ふと、空を見上げる。
 雪だ。
 ホワイト・クリスマス。
 そう言えば、聞こえは良い。
 だが、そんなことは当たり前のことだ。
 そう。この北の街では。
 ……ここは一応、北で一番大きな街らしい。
 だが、ここに住むは自惚れた田舎者たちだけだ。
 カッコつけてるつもりが、何かずれている。
 『時計台』なんて、そんな大したモンじゃねぇよ。
 『雪祭り』なんて、車が渋滞になるだけじゃねぇか。
 ……また、不愉快な気分なっちまった。
 憂鬱だ。
 家に帰ろう。
 それで買ったばかりのエロゲーでもやっていよう。
 そう決めて、俺はいま来た道を振り返った。
 そのときだ。

「ふええええええ! 浩之さぁぁん、あかりさぁぁん、どこにいるんですかぁぁぁぁ!」

 そんな泣き声が聞こえたのは。


 ……どうやら迷子のようだった。
 いつもの俺だったら、そんなものは無視していただろう。
 だが、今夜は違った。
 憂鬱が俺を狂わせたのか。
 それとも俺と同じように、このイブの夜、独りぼっちの迷子に仲間意識を感じたのか。
 俺は迷子に近づいた。
 ……迷子と言うには、少し大きすぎた。
 年頃なら14〜15の女の子。
 涙で顔をクシャクシャにしながら、必死にはぐれた相手を捜していた。
「ちょっと……迷子かい、君?」
 俺は声をかけた。
  女の子が振り返る。
 そのとき俺ははじめて、彼女に違和感を感じた。
 ……耳の辺り。
 変な、白い耳飾りをつけている。
 な、何だコレ?
 ……子供が冬につける耳当てにしては、デザインが変わりすぎている。
 まるでSFに出てくるロボットの耳のような……
 ロボット?
 そう言えば、うちにあるパソゲーでこんなのを耳に付けた女の子が出てきたような……。
 そんなことを考えているときだった。

すぅ……

 いきなり目眩がした。
 視界が暗くなる。
 頭から血が引いていくような感覚。
 俺は目をつむり、頭を振った。
 そして再び目を開ける。
 ……再び目に映った街は、どこか俺の知っている街と違うような気がした。
 ………………。
 何、考えていたっけ?
 ……そうだ。彼女の耳飾りについてだ。
 何てことはない。
 彼女はメイドロボなのだ。
 最近のメイドロボは本当によく出来ていて、人間とほとんど見分けがつかない。
 だから、耳にこういうものを付けることで区別するのだ。
 ……メイドロボ。
 人間が人間に似せて造ったもの。
 人間に奉仕するために生を受けた存在。
 人間のエゴの具現。
 ……俺はどうも古い保守的な人間のようで、このメイドロボという存在に良い印象を持っていない。
 人間が神の如く命を造るという、禁忌的な行為に危惧を抱く。
 それを恐れない人間に嫌悪を抱く。
 この心のない命が悲しくもあり、不気味にも感じる。
 この心のない命が……
「びええええ……ぐしっ、ぐしっ」
 この心のない……
「ぐしっ……ぐしっ……ひくっ、ひっく、びえ……びええ……。」
 この心の………………
「びええ、びええ……びえええええええええええええええええええええええええええええ!」
 ……な、何なんだコイツ?
  ホントにメイドロボか?
 普通の女の子が耳飾り付けているだけじゃないのかぁ?
 う〜ん、でもそんなことする意味ねぇよな……。
「びええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!
びろ゛ゆ゛ぎざぁぁぁぁん゛、あ゛がり゛ざぁぁぁぁん゛!」
 …………あああああああああああああああ! もうっ!
「ちょっと、ちょっと、泣きやんでよ……ほら、涙拭いてぇ」
 俺はそう言って、そのメイドロボ……だよな、やっぱり――にハンカチを差し出した。
「ずびま゛ぜん゛っ、ご親゛切゛に゛ぃぃぃぃっ……ぐしっ、ぐしっ、ぐしっ……うっうっ
うっ……ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!」
 ……いや、その、鼻をかむのは勘弁して欲しいんだけど……。
 ………………まあ、いいか……。


 しばらくして、ようやく彼女が泣きやんだ。
 ……しかし、迷子になって泣き出すメイドロボなど聞いたことがない。
 あと、鼻をかむメイドロボもな……。
 制作者のこだわりか?
 だとしたら、ほんの少しだけ敬意をおぼえる。
 ……落ち着いた彼女の話によると、どうやらやはり、持ち主とはぐれたらしかった。
 俺はしばらく考える。
 メイドロボは盗難が多い。
 理由は……言うまでもないだろう。
 中にはメイドロボにしか興奮しないフェチも存在するぐらいだ。
 2次元コンプレックスのオタクどもにとって、メイドロボこそ実現化した理想の女性像だ。
 実際、アニメキャラやゲームキャラを模したメイドロボも製造されている。
 ……不愉快だ。
 俺も世間様から見れば充分オタクだか、それでもそんな危ない連中と一緒にして欲しくない。
 さらに不愉快なことが一つ。
 たとえ誰かがメイドロボ相手に暴力をふるったところで、そいつがメイドロボ相手に罪を負
うことはない。
 罪を負うのは、そのメイドロボの持ち主に対してのみだ。
 メイドロボは人ではなく、モノなのだから。
 そこに罪の意識のすれ違いがある。
 ……まったくもって不愉快だ。
 見れば、この娘の外見もまたその手の人間が好みそうな幼児体型だ。
 そしてここは、有名な(悪名高い?)繁華街。
 迷子がうろつくには少々危険だろう。
 ……モノに対してそのような心配を抱くのはナンセンスだと思う。
 しかし、ここまで人間的な一面を見せつけられて、このまま見捨てるのも気が引けた。
 どうせ、家に帰っても、ダラダラ過ごすだけ。
 なら、この変なメイドロボに付き合うのも悪くはない。
 憂鬱が、俺からいつもの俺を奪っていた。
「わかった……じゃあ、一緒にその連れを探そう。どうしても見つからなければ交番まで行け
ばいいことだし。」
「えっ!? で、でも、そんな悪いですぅ! これ以上、迷惑をかけることは……。」
「いいって、いいって。どうせ暇人なんだから……それで、どこら辺ではぐれたんだ?」
 遠慮する彼女を無視して、俺は彼女を連れ、歩き出した。


 小一時間がたった。
 彼女の連れはまだ見つからない。
 雪はまだ降り続けている。
 はっきり言って寒かった。
 俺は北国生まれの北国育ちのくせに寒さに弱い。
 かといって、暑いのも苦手だ。
 ……ただ単にワガママなだけか。
「うわああああ……私、雪って初めて見るんですけど、真っ白ですっごく綺麗ですねぇ〜」
 すっかり自分を取り戻した彼女は、空を見上げてそう俺に語りかけた。
 ……初めて?
 ということは、ここの住人じゃないのか。観光客か何かかな?
「こういうの『ほわいと・くりすます』って呼ぶんですよね?……素敵ですぅ〜」
「そう言えば聞こえは良いけどね……寒いだけだよ。バスは遅れるし、道は滑る。しかも雪
かきは大変だ……いいことなんてないぞ。」
 今日一日の不幸を思い出して、俺はまた憂鬱になった。
「ええ〜っ、そうなんですかぁ?」
「ああ、そうなの。」
「……でも、やっぱり素敵だと思います。ほら、見て下さいっ」
 そう言って、彼女は再び空を見上げた。
 俺もつられて、空を見上げる。
「……………………………………。」
 灰色の空。
 そこに舞う数多(あまた)の雪。
 雪はジングル・ベルの光を受けて、きらきらと輝く。
 雪は、空に近づくほど暗い色になる。
 それは夜の湖のようだった。
 空に吸い込まれそうな、そんな錯覚を覚える。
 ……いつしか俺は、聖夜の空に魅了されていた。
 街の喧噪が、やたら遠くに聞こえる。
「ねっ、綺麗でしょう?」
 彼女がどこか誇らしげに言った。
 確かに綺麗だった。
 雪も捨てたものではないと、そう思えた。
 …………。
  さらに小一時間がたった。
 彼女の連れはまだ見つからない。
 俺は彼女と歩きながら、彼女の持ち主について色々なことを聞いた。
 いや。
 持ち主ではなかった。
 彼女の連れは、彼女の友人なのだ。
 彼らは、彼女のことをロボットとして扱っていない。
 一人の友人として、彼女を見ているようだった。
 そして彼女も、彼らのことを心から慕っているようだ。
 幸せそうに話す彼女を見て、俺は嬉しくなる反面、多少の嫉妬を感じていた。
 そんな自分に驚いていた。
「あっ……これ可愛いです!」
 ふと彼女が足を止めた。
 路上で売られているアクセサリーに見入っている。
 彼女が指を指しているのは、天使の形をした安物のブローチだった。
「……気に入ったのかい?」
「ええ! 可愛いと思いませんか?」
 笑顔で答える彼女。
「…………ちょっとすいません。コレもらえますか?」
「えっ?」
 俺はピアスをつけた長髪の男に料金を渡すと、そのブローチを受け取った。
 そして彼女の胸につけてあげる。
「それ、あげるよ。」
「えええええっ! そ、そんな!こんな高いもの受け取れません!」
 ……いや、安物だって。
「いいよ……クリスマス・プレゼントさ。それにお礼……」
「お礼?」
 そう。
 素敵なものに気付かせてくれたお礼。
 そう言おうとして……やっぱり止めた。
 俺に似合う台詞じゃあない。
「いや……なんでもない。プレゼントは贈る側も嬉しいものさ。断る方が失礼ってものだ。」
 俺はそう、うそぶいた。
 しかし彼女はまだ納得していないようだ……と思ったら何か閃いたらしく、ガサゴソと鞄
の中をあさり始める。
「では、私もお返しにクリスマス・プレゼントですぅ! はいっ!」
 渡されたのはUFOキャッチャーのぬいぐるみだった。
 ちょっと生意気そうな、クマのぬいぐるみ。
「さっき浩之さんと一緒に遊んだとき、生まれてはじめて取れたんですぅ! 浩之さんも褒め
てくれましたっ!」
 そう言って微笑む。
「……いいのか?」
「ハイ!」
「じゃあ、とっかえこだな。」
 そう答えて、俺も微笑んだ。
 ちょうどその時。
「あっ! 浩之さんにあかりさんですぅ!」
 彼女が、俺の後ろを指さして叫んだ。
「えっ、どこどこ?」
 俺は彼女の指さす先を探す。
 それらしき2人がいた。
 どうやら彼らも彼女を探していたらしい。きょろきょろ辺りを見渡している。
「あわわわわわわっ、どうしましょ〜う!」
「おいおい……早く行ってやれよ。」
「えっ……でもぉ」
「俺のことはいいから、早くっ」
「は、はいっ!……それでは……本当に色々とありがとうございましたっ!」
 おじぎをする彼女に俺はただ黙って微笑んだ。
「それじゃあ……!」

とててててててててててっ

 2人に向かって駆け出す彼女の背中を見守ってから、俺も歩きだした。
 そのとき、ふと、あることに思い当たり、俺は足を止めた。
 そして、彼女を呼び止めようとする。

「ねぇ! そう言えば、君の名前は……!?」

 振り返ろうとしたその瞬間、

くらっ

 俺は再び目眩を感じた。
 視界が暗くなる。
 頭から血が引いていくような感覚。
 ……でも、それは一瞬のことだった。
 目眩から覚め、すぐに背後を見渡す。
 ……彼女はもうどこにもいなかった。
(……行ってしまったか。)
 それにしても随分早すぎないか? 
 まだ遠くに背中ぐらい見えてもいいと思うが……。
 ……まあ、いいか。
 彼女は、彼女の世界に帰ったのだろう。
 俺の心に暖かな気分を残して。
 なら、俺も俺の世界に帰ればいい。
 俺は歩き出した。
 ……本当に変わった女の子だったな。
 歩きながら考える。
 ……結局、あの耳飾りは一体何だったんだ?
 分からずじまいだったな。
 なぜ俺は、彼女にそのことを尋ねようとしなかったのだろう?
 うーん。
 悩みながら俺はふと腕時計を見た。
 ……やばい。もう待ち合わせの時間が過ぎているじゃないか!
 俺は駆け出した。
 どうしてかな、俺は今、あの悪友たちが愛しくすら思えていた。
 あいつらは俺の遅刻をなじるだろう。
 ……罰ゲームだと言って、俺にイッキをさせるだろう。
 酔っぱらった俺を見たくて、こっちの都合などお構いなしに次から次へと酒を注ぐだろう。
 そして、俺はそれが嬉しくて、つい飲み過ぎてしまうだろう……。
 俺はその様子を想像して苦笑した。
 ……俺の憂鬱は、もうどこかに飛んでいってしまったらしい。
 俺は妙に浮かれた気分で、
 いまだ降る雪を綺麗だなと思いつつ、
 クリスマス・イブの街に溶けこんでいった。

ジングル・ベル ジングル・ベル ジングル・オール・ザ・ウェイ!

 お決まりのクリスマスソングが夜の街に響き渡る。
 俺は走る速度を上げた。
 生意気そうなクマのぬいぐるみを、片手に抱えたままで。

                                       Fin

……………………………………………………………………………………………………………………

 クリスマス特別番組いかがでしたか?
 ジン・ジャザムです。
 ををっ! 何かパロディも、ギャグも、ダークでもないぞ!
「嫌〜! こんなの私の知っているジン様ぢゃないわっっっっっっ!」
 誰だよ、お前。
 それはさておき、今回の感想、聞かせて下さいませ。
 なんか一気に書き上げたので、自分でも上手く書けなかったところが多々ありますが。
 これも修業の一環ということで。

 さて、何人かのお方にはもう伝えてありますが
 今年の活動限界は12/25、つまり明日までです。
 そして1月半ば、数日の活動を行うと、あとは4月まで動けません。
 これ、学校のパソコンですから。
 う〜ん、その間ここが読めないのは辛すぎる!
 休みの間の小説、誰か俺のために送ってくれないかな〜(←ものすごく図々しいやつ)
 特に連載しているお方は(←狩るぞ)

>スーパーLEAF大戦について
  …終わりませぇぇぇぇぇぇぇぇん(第二次衝撃的爆)
  とりあえず続きは年明け。一部完は…4月?(汗)
  いや、できるだけ頑張りますが…。

第6話の感想を下さった皆様へ
  前書きばっかり話題になってますな(水爆)
  ちなみにあの前書きの元ネタは、俺が連載始めるときに我が悪友
セリスが、テキストのタイトルを見て一言。
「リーフ大戦かぁ…僕もやろうとしてたんだけどネタがなくてさぁ…サ○ラ大戦パロディ。」
「そりゃ大戦違いじゃああああああああ!」
という実話から(笑)
  本当のあらすじのほう「エ○ァ」は前からやろうと企んでました(笑)
  
  ところで「スーパーLEAF大戦」のタイトル、長くて面倒だから、
これからは「スパリフ大戦」の略称を使用しようかと。
  よろしくね。

>リレー小説
  明日までに仕上げてみせる!
  でも次の人のこと考える余裕はねぇぜ!(コロニー落し的爆)
  …しかし、リレーの今までのお話、復習して
  岩下さまの第5話を読んで
  パソコンに向かって、思考すること数分

「…こんなの出来ないよ父さん! リレー小説なんて書いたこともないのに出来るわけないよ!」

  …と緒方○美の声で叫んでました(←引き受けたのはお前だ)
  でも、何とかなるものだよな〜。
  多分、今までの中で一番えれぇ話になるだろ〜な。
  次の人、メチャクチャ大変だろ〜な(おひ)


  …それでは皆さん、今回はこの辺で。

  メリークリスマス!