スーパーLEAF大戦・第14話 投稿者:ジン・ジャザム
「月島さん……!」
 ついに。
 ついに見つけた。
 月島さん。
 瑠璃子さんを苦しめる人。
 滅ぼさなければならない人。
 ついに……ついに!
「がああああああああ!」
 月島の姿を確認した途端、祐介は咆哮した。
 圧縮された電波が月島めがけ飛んでいく。
 だがその電波もまた、月島によって散らされた。
「……久しぶり、長瀬祐介君。1ヶ月ぶり……だったかな? 元気そうで何よりだよ。」
「がああああああああああああああ!」
 悠長に語り出す月島の言葉には耳も貸さず、祐介は立て続けに2発、3発と電波を放つ。
 だが、電波は月島には届かない。
 そんな祐介の様子を見て、月島は楽しそうに笑った。
「どうしたんだい?……僕が憎いんだろ? 壊したいんだろ?……ほら、僕はここにいる。
僕を壊してみせろよ、君の電波で。」
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 4発、5発、6発、7発。
 ……電波は、届かない。
 月島はやれやれとため息を吐いた。
「つまんないよ、君。」

ひるおおおおお……がしっ!

 香奈子の包帯が祐介を捕らえた。
 そして

み゛じぃ……み゛じぃ……み゛じぃ……

 万力の強さで、祐介の身体をゆっくりゆっくり締め付ける。
「くっ……くそっ!」
 身体中の骨が軋む痛みに祐介は耐えていた。
 狂気の宿る瞳で月島を睨みつける。
 月島もまた、そんな祐介を同じ瞳で睨む。
 口元が残忍な笑みで歪んでいた。
「長瀬君……もっと楽しませてくれよ……ライターで炙(あぶ)られた芋虫みたく、もがき
苦しむ姿を僕に見せておくれよ……!」

ぶべきっ!

 身体のどこかの骨が砕ける音がした。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
 絶叫する祐介。
 しかし瞳の中の狂気は揺るがない。
「つ……き……しまっ!……殺す!」


スーパーLEAF大戦 第14話『愛ト狂気ト悲シミ、ノ』


ひよろおおおおおお! だんっ! だんっ! だんっ!

 香奈子は祐介を包帯で縛ったまま、何度も何度も地面に叩きつける。
 血まみれになっていく祐介。
 骨も何本折れたかわからない。
「ゆ……祐くん……」
 沙織は青ざめた顔で硬直している。

だんっ! ぐべきっ!

 また、折れた。
 意識が朦朧としてくる。
「どうだい長瀬君、僕が造った玩具は? なかなかよく出来ているだろ?」
 月島が得意げに語り始める。
「彼女たちにはね……エルクゥの細胞を移植したんだよ。」
「エル……クゥ?」
 意識を何とか現実に繋ぎ止めながら、祐介は聞き返す。
「そう、エルクゥ……君たちが『鬼』と呼んでいる存在だよ。隆山に伝わる『雨月山の鬼』
の伝説を聞いたことがあるかい?」
 雨月山の鬼。
 かつて隆山の雨月山――その山がどこにあったのか、今ではもう伝えられていない――
に何処となく現れた鬼が住み着いた、という伝説がある。
 その鬼たちは人狩りを楽しみ、次々と村を襲った。
「だがその鬼たちも次郎衛門という侍によって討伐される。そう……自分たちと同じ、鬼
の血を引く者によってね……。」
 次郎衛門は一度、鬼に敗れ、死にかけている。
 だが、彼を愛した鬼の娘がその血を分け与えることにより、次郎衛門は鬼として甦った。
 そう、鬼として……。
「!……まさか!?」
 祐介が月島の言わんとしていることに気付き、声をあげた。
 月島がにやりと笑う。
「そう……この『雨月山の鬼』が過去に飛来したエルクゥ――『鬼』であることは知って
いるだろう?……柏木がその末裔だ。『エルクゥの細胞を移植された』次郎衛門の……な。」
 月島の声が徐々に高調していく。
「つまり! エルクゥの細胞が適格すれば、人間もまたエルクゥとなれるのさ! そして僕
には電波がある! 電波の力で拒絶反応を押さえ込み、さらに細胞の持つ力を最大まで引き
出せば……彼女たちのようなバケモノを造ることができる……!」
「!……月島ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ばりばりばりばりばりっ!

 祐介の電波が爆発した。
 爆発は紫電を走らせながら、香奈子の包帯を吹き飛ばす。
「くっ……!?」
 自由になった祐介は、己の限界を超えた電波を集め始める。
 祐介の髪は逆立ち、その瞳には血のように紅い、光を宿した。
 いや、闇を宿した。
「月島さん……僕は貴方を許さない。太田さんたちを狂わせ、瑠璃子さんを辱めた貴方を!
決して! 許しはしないっ!!」
「……ふんっ」
「壊れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 祐介は電波を月島にぶつけようとした。
 ……だが、そのとき。

ふゅるおおおおおん ざっしゅ!

べるんっ! べるぅん! べるぐぅぅぅん! だがぁぁぁぁぁぁぁんっ!

ひゅひゅひゅひゅひゅひゅ……ざく! ざく! ざくっ!

「くはっ……!」
 香奈子の包帯と由紀の弾丸と美和子の羽根とが同時に祐介を襲った。
 迸る血で、祐介の視界が真っ赤に染まる。
「……畜……生……」
 月島に指先ひとつ触れることの出来ない自分を呪いながら、祐介は今度こそ倒れた。


 祐介もまた月島と同じく、現実を憎む者だった。
 代わり映えのしない、くだらない日常。
 自分の存在する場所のない世界。
 それはいずれ狂気の世界への憧れを抱かせた。

 彼にとって狂気の扉を開く鍵は、妄想だった。
 色と音を失う現実とは逆に、どんどんと臨場感を増す妄想。
 妄想の世界で彼は絶対者だった。
 いつか狂気の扉を開く、そのときまで
 彼は妄想(ゆめ)を見続けた。

 それは赤。
 血の赤。
 夕焼けの赤。
 ……彼の見る妄想(ゆめ)はいつも赤い。
 溶鉱炉の中の金属が、飴色になって溶け堕ちるような赤。
 火花の赤。
 線香花火の赤……

 炎の赤。

 炎。
 そうだ、炎だ。
 それに気付いたとき、祐介は笑った。
 どうしようもなく、おかしかった。
 なんだ……月島さんを壊す武器は、こんなに近くにあったじゃないか。
 ……炎だよ。
 総てを焼き尽くす炎。
 そう、それは

 僕の爆弾。


「なに……!?」
「祐くん!?」
 月島と、沙織は驚愕した。
 完全に倒れたはずの祐介に、とてつもない量の電波が集まっていくからだ。
 電波はまるで小型の太陽のように、明るく、激しく、辺りを照らす。
 いずれ電波は嵐となって吹き荒れた。
 この場にいる全ての者の精神を叩き壊すように。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ぐおっ! ぐああああああああああああっ!……バ、バカな! 自分ごと全部を破壊する
つもりかっ!!!!」


 爆弾。
 僕の見る妄想。
 これは世界を総て焼き尽くす、新型の爆弾だ。
 燃える世界の中、人々は逃げ惑う。
 指と耳を吹き飛ばされ、あらゆる穴から血を垂れ流しながら。
 彼らの傷口はいずれ腐れ堕ち、蛆が湧く。
 蛆はあっという間に孵化して、蠅になり、飛び立って、空を真っ黒に染め上げる。
 蠅の顔は、苦悶の表情を浮かべる人間どもだ。
 蠅たちは、また別の誰かに卵を産み付ける。
 卵はすぐに孵って、蛆はすぐに孵化して、蠅はまた卵を産んで……
 世界中のみんなが、蠅に生まれ変わるまで、儀式は続くのだ。
 真っ赤に燃える、炎の中で。

「……滅びろ……みんな、みんな……滅んでしまえ!」
 祐介は小さく、しかしはっきりと、そう呟いた。


「いいいいいややややややああああああ!たたたすすすけけけけてててててええええ!」
 頭を押さえながら、泣き叫ぶ沙織。
 しかしその叫びも、祐介には届かない。
 香奈子たちは既に電波の前に倒れ、動かない。
 月島だけが精神に障壁を張り、なんとか耐えていた。
「ちっ……まずいな。まさかこれほどの力を秘めているとは……。」
 月島の額から冷や汗が伝った。


「滅びろ……みんな、みんな……滅びろ……」
 祐介は破壊の悦楽に酔いしれていた。
 もう、何もかもがどうでもよい。
 総てを破壊してしまえば、それで終わりだ。
 そして今度こそ、狂気の扉の鍵を手に入れられるんだ。
 祐介は燃える世界を見下ろしながら、最後の爆弾を投下しようとした。
 そのとき。

「……駄目だよ……長瀬ちゃん……。」

 妄想の世界に、懐かしい声が聞こえてきた。
「?……この声は……」

「……駄目だよ……長瀬ちゃん……憎しみの毒電波は……。」

 優しい響き。
 空に溶けてしまうような、そんな透明色の声。
「!……ま、まさか!」

「……長瀬ちゃん……助けてくれるよね?」

「瑠璃子さん!」
 その叫びと共に、祐介は現実を取り戻した。

                                    つづく

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 いや〜! ようやっと14話完成!
 皆様、おはこんばんにちわ。
 ジン・ジャザムです。
 第14話、確かにお届けしました。
 ……もう、この14話は難産でした。
 書きたいことは決まっているのに、ペンが……いや、キーボードが進まない。
 1日1行、3日で3行、3行書いたら2行削る(爆)……ってな感じで……いや、
比喩でなくでホントに。
 タイトルまではすんなり書けたんですが、そこからが……(汗)
 ちなみにボツった案では、月島さんが黒い翼と角を生やしてエルクゥ化するというの
がありました。(←マスターガン○ムね)
 ……なんか月島さんらしくないからボツ。
 月島さんはやっぱり肉弾戦はしないでしょう。
 絵的にはカッコええと思うけど……。

 祐介の妄想シーン……暴走してます(^^;)
 あああああっ! またやっちまったよっ
 かなりノリノリで書いてるし(爆)
 あんまし、やりすぎると作品全体の雰囲気がバラバラになる(第3話とか浮いてるし)
から、程々にせんとな……(10話の浩之なんか、本当はもっとアブナイ感じに怒り狂
ってましたが、浩之らしくないのでボツにしました。) 
 雫編って、もっと軽いノリのつもりだったのに蓋を開ければ、TH編よりダーク(^^;)
 俺っていったい……(^^;;;)

 では、次回予告です。


 祐介と沙織を救う、謎の人物。
 その口から語られる内容とは?
 そして祐介たちの前に新たな道が開ける!

次回・第15話『瞳ニ映ル優シサ』

 ……君は時代の涙を見たか?

追伸…はぅ〜、レスはまた今度っ!(いろいろお返事したいのにぃ〜)