続痕−ぞく きずあと−第十三回 投稿者:佐藤 昌斗
 「それって・・・。本当・・・なの?」
 それが、柏木梓が月山日向と屋上で話をしていた同時刻、柏木家の居間で柏木千鶴
の話を聞き終わった、隆雨(たかさめ)ひづきの発した第一声がこれであった。
 千鶴も、柏木耕一も、真剣な表情(かお)で頷く。そして、
 「貴女の話が真実であるように、私の話したことも全て事実です・・・」
 と、千鶴はとても疲れたような、そして、悲しそうな表情でひづきに言う。そして、
 「もし、・・・もしも嘘なら、どんなに良かったでしょう・・・」
 誰に言うでもなく、呟くように言った。
 耕一は胸が締め付けられるような思いだった。多分、話しながら千鶴は、過去のこと
を思い出してしまったのだろう。
 もし、もしもできたのなら変わってやりたかった・・・、と耕一は思ったが、過去は
過去であり、記憶はそう簡単には消せない。
 
 特に・・・心の痕(きずあと)は。
 
 「あれが・・・”奴”が、兄さんだって言うの?・・・何かの間違いよ!!」
 悲痛な叫びを上げるひづきを鎮めるような、そして温かく包むような声音で、千鶴は
ひづきに、
 「確かに・・・そうと決まったわけではありません。現に、私の時も耕一さんじゃ、
ありませんでしたし」
 と、優しく微笑みながら言う。耕一も続けて、
 「そうそう、犯人は別の奴だって可能性も無いわけじゃないさ」
 と、見る者を安心させるような笑顔でひづきに言う。ひづきは二人の優しさに包まれ
たような気がして、ここしばらく忘れていた、安らぎを感じた。
 「そう言えば・・・私、助けてもらっておいて、お礼も言ってなかったわね。助けて
くれて、ありがとう」
 心に余裕ができたからだろうか、ひづきはそう言うと、二人に頭を下げた。すると、
ひづきの黒く長い髪がゆっくりと、流れるように垂れる。
 「あっ、髪が解(ほど)けてる・・・。ちょっと直したいんだけど・・・」
 こういうところは流石に女の子だな、と耕一は改めて思った。千鶴が、私の部屋にあ
るので良ければ、と言ってひづきを自分の部屋に連れて行く。
 「耕一さん、ちょっと待っていて下さいね。さっ、ひづきさん。こちらです」
 そう言い残して、二人は二階にある千鶴の部屋に向かった。待つしかできない耕一は、
この時間にひづきから聞いた、例の事件が新聞に載ってないかと確認することにした。

 「え〜と、あの娘(こ)の話からすると・・・」
 そう呟きながら、耕一は廊下の隅に置かれた古新聞の束を探した。そして、探しなが
らふと、
 (しかし、本当にこういうところキチンとしてんな〜。俺とは、大違いだ)
 と、自分の部屋を思い返して思わず耕一は、苦笑いしてしまった。と、そうこうして
いる内に、
 「あった!これか・・・。よし、戻ってよく読もう!・・・と、その前にこれ戻しと
かないと梓の奴になに言われるか解ったもんじゃないな」
 耕一は、古新聞を仕舞いながらふと、握り拳を振るわせながら怒っている、梓の顔が
浮かぶ。そして、思わず苦笑いが口元に浮かぶのだった。
 片付け終わった耕一は、居間に戻り、腰掛けると持って来た新聞を改めて読み直した。

 ひづきの言った出来事は、丁度、ここ−隆山の事件と同じくらいに起こっており、ど
うやらそのせいで完全に見落としていた様だった。改めて見てみると、そこそこの大き
さで記事が取り扱われており、見出しは「平和に隠れた猟奇殺人」と書かれ、ひづきが
語った話と大体同じ様なことが書かれていた。
 もっとも、こちら(記事)はいかにも、お涙頂戴、と言わんばかりに脚色されていた
が・・・。
 「おっ、これがあの娘の兄さんか・・・。名前は隆雨日向。へ〜ェ、こんな顔なのか
・・・。何かあんまりあの娘と似てないなぁ」

 −この時、もしも梓がいて、この記事を見たなら驚いたことだろう。耕一はまだ知る
由もないが、そこに写っていた顔は、転校生−月山日向のものであった・・・。




  
                              <第十四回に続く>


                     






耕一:おいおい、梓はどうなったんだ?!
佐藤:いや、演出の都合だけど・・・
耕一:本当か?・・・まあ、流石に話が進んでないからな・・・
佐藤:はうっ?!当初の予定を完璧に越えてるしな・・・
耕一:まあ、とにかくは、書くしかないんじゃないか?
佐藤:そうだな。前向きに考えていこう!
耕一:それでは・・・
耕一・佐藤:第十三回でお会いしましょう!!
初音:あの・・・あたしはもう出番ないのかなぁ・・・?


                                   <幕>