続痕−ぞく きずあと− 第十二回 投稿者: 佐藤 昌斗
 「・・・で、あんたの話って?」
 と、柏木梓は、屋上のフェンスにもたれかかりながら、転校生の月島日向(つきしま
ひゅうが)に向かって言う。
 もう、九月も中旬と言うのに、まだまだ日差しはきつく、時々吹く海からの風が、日
差しで火照った肌に心地よかった。
 日向は相変わらずの微笑みを口元浮かべながら、
 「貴女のお話は宜しいんですか?」
 と梓に尋ねたが、梓の表情を伺うように見ると、「解りました」と、答えて話し始め
る。
 「私の話というのは・・・ただ、本当に貴女と話をしたかっただけです。・・・別に
これと言って話というのは無いのですが・・・せっかくの機会だと思いましたので」
 微笑みを浮かべて、日向はさらりと話を梓に戻した。こう言われてしまっては、相手
の出方を伺おうと考えていた梓も、話がある、と言った以上、話さなくてはならなくな
った。
 一瞬どうしようかと考えたが、もとよりこういうことは苦手な梓は、単刀直入に自分
が一番訊きたいことを聞くことにした。すなわち・・・。
 「あたしの話は・・・あんたの正体がなんなのかって、ことさ」
 日向は、相変わらずの笑みのまま、首を傾げて見せた。まるで、何を言っているのか、
という風に。梓は、日向の態度にむっとしつつも、
 「じゃあ、聞くけど、なんであたしのことを見てたんだ?」
 もう一つの質問を日向に問う。そう言いつつ、梓は先程の日向の視線を思い出してい
た。あの、全てを汚し、奪い去るような視線を。
 「それは・・・貴女の美しさに見とれていたからですよ・・・柏木梓さん」
 そう言うと、日向は梓の方に向かって歩き出した。そして呟くように、
 「本当に美しい・・・」
 梓が怪訝な表情(かお)をしたのと同時に、日向は手が届く位置にまで来た。そして、
梓の瞳を見つめる。あの時、梓が感じたような眼差しで。
 (だめだ!こいつの目を見ちゃ!!)
 エルクゥの本能だろうか、根拠はないのだが、確信にも似たものを感じ、梓は慌てて
日向の視線から瞳をそらそうとした。・・・が、
 「ほう、流石・・・と言いたいところですが、少し遅かったようですね」
 そう言う日向の表情は、今までのものとは違っていた。そう、例えるならば獲物を見
つけた、野生の猛獣と言ったところか。
 (?!身体が動かない!!)
 慌てて日向から離れようとするが、何故か梓は動けないでいた。それどころか、視線
すらそらせない。まるで射竦(いすく)められたかのように身体が動かない。
 「あんた・・・あたしに何を・・・?」
 梓は叫んだつもりだが、開いた口から漏れたのは、呟きと言っていいくらいの声だっ
た。
 「・・・まだ話せるのですか?やはり間違いないようだ。貴女は私と同じですね」
 梓はこの瞬間も必死に体を動かそうとしていた。しかし、日向の”同じ”と言う台詞
を聞いて、初めて日向の方を見つめた。そして、問う。
 「あたしが・・・あんたと同じ?」
 その時、ひときわ強い海からの風が吹いた。、まるで真冬に吹く風のような、冷たい
風が・・・。
 「そう・・・。同じです」
 そう言いながら、日向は右手を伸ばし、梓の頬に触れる。梓は頬に触れる日向の手を
払いのけたい衝動に駆られた。しかし、そんな本人の意志に反して、身体は動いてくれ
ない。
 (くっ、身体さえ動けば、こんな奴・・・!!)
 と、その時、悲鳴に近い声を上げながら、意外な人物が屋上に現れた。
 「梓センパーーーーーイ!!なにしてるんですか?!」
 その人物とは、梓の後輩の日吉かおりであった。日向もいきなりの大声に振り返る、
その一瞬、梓の瞳から視線がそれた。
 (身体が・・・動く!?)
 日向の視線が瞳からそれた瞬間、身体が意志通りに動く。そう解ると梓は、まだ頬に
触れている、日向の手を払いのけ、かおりの方に小走りで向かった。
 「行こう、かおり」
 そう言う、梓にかおりは戸惑うように、
 「でもっ、あの人!!」
 と言うが、梓は強引なくらいに、手を引っ張って、屋上から、階下に続く階段を下り
て行った。
 (もし、かおりが来なかったら・・・)
 実際、あのまま誰も来なかったら、どうなっていただろう?そう考えてから、梓は、
いつもは、ちょっと迷惑な後輩にお礼を言いたくなった。
 「助かった。ありがと、かおり」
 と、笑顔でかおりに梓は言った。かおりはよく事情が解っていなかったが、
 「どういたしまして!梓センパイ」
 と、元気に答えたのだった・・・。

 −一方、一人屋上に佇む日向は、かおりの姿を思い浮かべ、新しい獲物を見つけた、
猛獣の笑みを口元に浮かべ、一言、呟いていた。見つけた、と・・・。




                              <第十三回に続く>


耕一:何か・・・危ない奴だな、転校生・・・
佐藤:まあ、ね・・・
耕一:ところで・・・また出番なしか?
佐藤:君達は次回復活の予定だ。安心しろ
耕一:そうか・・・。達ってことは、千鶴さんとひづきちゃんもか・・・
佐藤:そういうこと。では、そろそろ・・・
耕一・佐藤:第十三回で、お会いしましょう!!
 楓:あの・・・私は・・・?

                                   <幕>