続痕−ぞく きずあと− 第十一回 投稿者: 佐藤 昌斗
担任が教室を後にすると、生徒たちのほとんどは転校生の席に殺到した。もちろん、
自分たちの好奇心を満たすためだ。転校生−月山日向(つきやま ひゅうが)は、嫌
な顔一つせずに口元に微笑すら浮かべ、生徒たちの質問に丁寧に答えていた。
 一方、話に加わることなく思い思いの事をしている生徒たちもいた。柏木梓も、そ
んな生徒の一人だった。
 「ねえ、梓は行かないの?」
 と、友人の一人が梓に尋ねた。梓が視線を友人に移すと、行きたそうにちらちらと
日向の周りにできている人の輪を見ている。どうやら話の輪に加わりたくて仕方がな
いようだが、梓が話の輪に加わろうとしないので気が引けるのだろうか?遠慮してい
るようだった。
 「あたしはいいから、行って来なよ」
 と、梓は友人に答える。友人はちょっと考えてから、「うん」と一言答えて輪に加
わるために、歩いて行った。そんな友人の背中を見ながら梓は、
(気にせずに加わればいいのに。でも・・・あの娘(こ)には無理かもね)
 そう思い、視線を友人が向かった先の輪に移す。梓の席からは丁度、隙間を縫うよ
うに、輪の中心にいる日向の姿が見えた。梓はぼんやりと日向の方を見ながら、改め
て、あの時感じた違和感について考えてみた。
 何故、変に感じたのか?何故それがすぐに消えたのか?など、考えてはみたものの、
当然であろうが、納得できる、いい答えは浮かばなかった。
 梓がふと気付くと、いつの間にか授業の開始を告げるチャイムの音が鳴っている。
見ると、生徒たちが慌てて席に戻るところだった。梓は、慌てて一時間目の用意をし
つつ、心の中で、
 (考えて我を忘れるなんて、あたしらしくないな)
 と、苦笑いをしていた。そして、黒板の方に視線を向け、出入口のところにある時
計で時間を確認する。何気なく視線を窓の方に向けると、日向の席が視界に入った。
すると、日向もこちらの方を見ていたらしく、偶然なのか視線が重なる。
 一瞬のことだったが、梓には日向の瞳に言い様のない嫌悪感を感じた。
 (何だ?あいつの視線に感じた・・・嫌悪感は?こんなこと初めてだ・・・)
 改めて日向の方を見るが、もう日向は前を向いており、そのことを確かめることは
できそうもない。
 (さっきの違和感と言い、あの視線と言い・・・あいつは一体?)
 梓は観察するような視線で日向の方を見たが、何もおかしなところはないように見
えた。・・・少なくとも外見は。
 
 一時間目の授業が終わると、梓は疑問を解決する一番の方法を実行に移すことにし
た。すなわち−
 「ちょっと話があるんだけど良い?」
 直接本人に聞いてみることである。
 日向は優雅ににっこりと微笑んでから、
 「ええ、私も貴女とお話がしたいと思っていたところです」
 と、答えを梓に返した。この二人の会話に、クラス中がざわめきだった。この光景
からすればはっきり言って無理もない。端から見れば間違いなく告白か何かだと、十
分に思えるシュチュエーションだ。生徒たちの反応は当然と言えば当然であろう。
 「ここじゃあなんだから・・・ついて来て」
 周りのあまりの五月蠅さに、梓は日向に場所を変えるように提案した。日向も同じ
意見なのか、一つ頷くと席を立ち、それを見て歩き出した梓に続いた。梓があまりに
も真剣な表情をしていたからだろうか、クラスの誰も二人の後をつけようとはしなか
った。ひょっとしたら、行こうにも行けなかったのかも知れない。
 梓は横に並んで歩く、この学校とは違う制服に身を包んだ男を見上げる。こうして
見ると男は、整った容姿をしているところ意外は、普通の男子生徒と変わったところ
はないように思える。では、自分が感じた違和感は何なのか?どうして一瞬、強い嫌
悪感をこの男に感じたのか?・・・その答えはもうすぐ解るだろう。いや、全て解ら
なくても、話すことで何か解ることはあるはずだ。

 −そう考えたところで、二人は目的の場所である屋上の扉の前に到着した。扉を開
ける時に上がる軋んだ音が、この時の梓にはやけに大きく感じられた・・・。





                             <第十二回に続く>




耕一:今回は出番なしか・・・
佐藤:まあ、仕方ないだろう。舞台が舞台だし・・・
 梓:そうそ、仕方ないよ
耕一:梓か。くそ、今まで影が薄かったくせに・・・
 梓:何だと?!てんめーーーーっ!!耕一!!
耕一:げっ、本当のこと言われたからって怒るなよ!?
 梓:問答無用!!これでも喰らえーーーっ!!
耕一:わっとっと・・・!?やめろって梓!!
佐藤:やれやれ・・・。では、皆さん、
耕一・佐藤:第十二回目でお会いしましょう!!
 梓:待てーーーーっ!!耕一ーーーーっ!!

                                  
                                  <幕>