続痕−ぞく きずあと− 第九回 投稿者:佐藤 昌斗
 「「それだ、その顔が見たかったんだ・・・。ふふふふふっ・・・。ははははははは
っ・・・。嬉しい、嬉しいよ。又その顔が見れて・・・。まさかもう一度、見られると
は思っていなかったからね。・・・本当に嬉しいよ。私は君のその顔が見られるのなら
ば、何でもするよ・・・そう、何でもね。・・・気が変わった。君に、直接会うとしよ
う」」
 嫌になるくらいきれいな声。しかし・・・?。
 (ここに・・・来る?)
 私は部屋の扉の方に慌てて注意を向ける。しかし、しばらく待ってもいっこうに誰も
来る気配はしない。しかし、私がほっとして気を抜いたその時−

 −窓の方から、奴がいきなり現れた。
 「今晩は、ひづきちゃん。約束道理に来たよ」
 私は、いきなり背後から声をかけられて、心臓が止まるかと思った。気配も、物音す
らない、いきなりの登場だった。慌てて私は振り返った。そこにいたのは・・・明らか
に人間ではない、”化物”だった。
 (なっ、なんなの・・・?この化物は・・・。なんで、こいつから兄さんの声がする
の?。それに・・・どうやって入ってきたというの?)
 私は言いようのない恐怖を感じていた。もしかしたら、人間の本能がこの化物の存在
に怯えているのかもしれない。身体が震えて立っていられない。私は倒れるようにベッ
トに座り込んだ。
 「おや?そんなに怖いのか?。初めて会ったというわけでは無かろう?・・・いや、
やはり、”初めて会ったことになる”のか?。今の世では・・・」
 (何・・・言っているの?私は・・・こいつなんて知らない?!)
 化物は・・・いや、”奴”は、私には解らないことを言った。私は震える声で先ほど
からの疑問を聞いた。すなわち、兄がどうなったのかを。
 「わ、私の、兄さんはどうしたの?!何故、あなたの声は兄さんと同じなの?!」
 はっきり言って怖かった。兄の消息を聞くのも、そして・・・奴の存在も。しかし、
私は聞かずにはいられなかった。もしかしたら開き直っていたのかもしれない。虚勢で
も無いよりは、遙かにマシだ。
 「ほう・・・。話せるだけでも大したもの・・・というところか・・・。そうだ、言
い忘れたが、口調は我のものに戻させてもらった。今の世の言葉使いは、どうも我には
合わぬようだ。”あやつ”にとっては我の方が合わぬようだが・・・まあ、今は”我”
だからな。合わさずともよかろう」
 奴は又、私に解らないことを呟いた。
 「質問に答えなさい!。あなた兄さんをどうしたの?。何故こんなことをしたの?さ
あ、答えて!!」
 二度目はさっきよりもスムーズに話すことができた。不思議と恐怖が薄れていく・・
・そんな感じがした。そして、麻痺していた感情が、怒りが目覚めてきた。身体の奥が
熱くなっていく。力がわいてくる。今まで感じたことのない、もの凄い力が・・・。

 ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、ドックン・・・。

 心臓が凄い勢いで脈打つ。眠っていたものが目覚めたような、無くしていたものが見
つかったような、そんな不思議な感覚。今、私は目の前の奴と同じくらいの力を持って
いる。そう確信できる、どう言えばいいのか解らない、”力”が私に、私の身体に宿っ
ていた。私は立ち上がり、自分でも信じられないくらいの早さで、奴に向かって殴りか
かっていた。生まれて初めての行為だった・・・殴ろうとしたのは。
 「何?ぐっぅーっ!」
 奴は完全に油断していたらしく、私の初めての攻撃は見事に奴の顔らしき所を捕らえ
ていた。奴の身体は、驚くほどの早さで窓ガラスを割って下にある庭へと落下した。ガ
ラスの割れる、派手な音が響く。どうやら、着地は上手くしたらしく激突音はしなかっ
た。信じられないほどの反射神経だ。私は躊躇せずに、すぐに割れた窓から奴がいるで
あろう庭に飛び降りた。思ったとうり、庭には難なく着地できた。
 「ぐっ・・・。貴様目覚めたのか?。・・・そうか、我の力に呼応したということか。
そう言えば、”あやつ”も力を秘めていたのだ。貴様が持っていても不思議ではないか
・・・。今ので騒ぎになるな・・・。ここは、引くとしよう。では、さらばだ」
 そう言うと奴は、驚くほどの跳躍で夜の闇へと消えて行った。まるで、闇にとけ込む
ように・・・。私もすぐに追おうとしたが、騒ぎを聞きつけた人たちが集まってきて、
追うことはできなかった。
 (絶対見つけてみせる・・・。そして・・・殺す!!)
 殺意を持って奴が消えた先を私はしばらくの間見つめていた。決意とともに。

 「−それから、私は両親のお葬式を済ませた後、神社の神主をしている祖父たちの所
に行ったの。そこで、この刀と・・・それから奴の居場所が解る不思議な石のお守りを
手に入れたの。そして、昨日・・・になるのかな?。まあ、とにかく、奴をあの水門の
所で見つけて・・・戦ったんだけれど・・・やられちゃった、ってわけ。・・・これで
私の話は全部よ。さ、信じる、信じないはあなたたちの勝手よ。でも、私が話したこと
は、全部本当のことよ」

 −耕一と千鶴は、ひづきの話を聞き確信した。ひづきの言う”奴”が、鬼であると。
しかも、その正体が鬼を制御できなかった、ひづきの兄であろうことを・・・。




                               <第十回に続く>


 耕一:ヘ、ヘビーだ・・・
ひづき:どう?解ってもらえた?耕くん
 耕一:君って・・・苦労してるんだね(しみじみ)
ひづき:私は、ここに宣言するわ。必ず奴を殺してみせる!!
 耕一:(おい、佐藤。お前非道い奴だな・・・)
 佐藤:(すまない・・・。どうやらそうだったらしい・・・)
ひづき:えい、えい、おーーーっ!!
 耕一:(彼女、あんなに張り切っているぞ。いいのか?)
 佐藤:(何を言っている。まだ奴の正体がそうだと、判明して無かろうが?!)
 耕一:(確かにそうだけど・・・)
ひづき:そこ、何こそこそしてるの?
耕一・佐藤:いえ、別に・・・
ひづき:そう?では、そろそろ・・・
耕一・佐藤:皆さん、第十回目でお会いしましょう!!
ひづき:私はやってみせる!!