続痕−ぞく きずあと− 第八回 投稿者:佐藤 昌斗
 「・・・信じてもらえないかもしれないけど・・・。今から話すことは、みんな本当の
ことよ・・・。あれは・・・そう、ずいぶん前のことのように感じるけれど・・・ほんの
数日前のこと。私には一つ違いの兄がいるんだけど、その兄が交通事故にあって入院する
ことになったの・・・あっ、ちなみに骨折だけですんだんだけどね。私ががいつものよう
にお見舞い行ったその日−」

−そう、その日私は奴に会った・・・あの化物と。
 私は初め”それ”を見たとき何があるのかすぐには解らなかった。兄がいるはずの病室
には、兄以外の人がベッドに寝ていた。そうだ、文字道理、”ねていた”のだった。 
 私は、兄が寝てると思いふざけて
「に・い・さ・ん・・・おきろーっ。かわいい妹が見舞いに来てやったぞっ」
そう言って布団をはいだ。しかし、そこにいたのは兄ではなく、血塗れの、看護婦の死体
だった。・・・しかも、ここにくるようになってから、よく話す看護婦だった。
(・・・えっ?何・・・これ?赤いものは・・・血?)
 事態を把握するのに、私は少しの時間を必要とした。ムッと臭ってくる鉄臭い匂い。そ
の匂いを嗅いだ後、少しして、私の口からやっと出てきたのは、言葉でなく悲鳴だった・
・・。この時聞いた自分の悲鳴は、どこか別の場所で聞いてるような、そんな違和感のす
るものだった・・・。
 
 それから程なくして、病院は大騒ぎとなった。警察が駆けつけ、第一発見者として、警
察から事情聴取を受けた。その後、私はようやく回りだした頭で兄のことを思いだし、色
々と聞いて回ったがしかし、誰も行方を知らず、警察でも消息が掴めないとのことだった。
 その日、色々とあって私の帰宅は深夜となった。何故か家とは連絡が取れなかったため
に、色々とすることになったからだ。
 (父さんも、母さんも一体どうしたのかしら?こんな大変な時に連絡が取れないなんて。
もう、文句の一つも言わないと気が済まないわ)
 そう思いながら私は家に向かっていた。気が付くと家の前まで来ていた。いつもと同じ
自分の家。しかし私は、何故か言いしれぬ不安を感じていた。急いで玄関の鍵を開けて家
に入る。
 「ただいまーっ。母さん?父さん?いないの?」
 そう言いながら玄関の鍵をかけ、廊下の先の居間の方を見る。見てみると、居間には煌
々と明かりが付いていた。それに、微かだがテレビのものらしい音も聞こえてくる。
 (何だ、やっぱり気のせいじゃない・・・。何であんな気がしたんだろ?。・・・まあ
いいか。さて、文句を言いに行きますか)
 私はこんなことを思いながら靴を脱いで居間に向かって廊下を進んだ。軽い気持ちで居
間の扉を開ける。すると、そこには、ソファーに座りこちらに背を向けて、向かい側にあ
るテレビを見ている、父と母の姿があった。私はいつも話しかけるように、母の肩を軽く
叩いて話しかけた。
 「母さん、どうして電話でなかったの?私、何度もかけたんだよ?」
 しかし、いつもならすぐに温かい表情で振り返りながら答えてくれるはずの母が、何故
か何も答えてくれなかった。いや、”答えられなかった”のだ。
 「母さん?・・・どうしたの?」
 訝しく思いながら私は母に、今度は身体を揺さぶるようにしながら、話しかけた。その
とたん、母の身体が床にずり落ちた。・・・下半身を残して。
 「え?・・・何?」
 私は又もすぐには理解できなかった。完全に麻痺した頭で、ふと見ると、同じく母に並
ぶようにして、父の上半身が床に落ちるところだった。まるで悪夢のような光景だった。
テレビから聞こえてくる声が、さらに現実味を消しているのかもしれない。ふと気付くと、
辺りには不自然なくらい強い、いい匂いがしていた。まるで微かに臭う血の匂いを隠すよ
うに・・・。
 「警察に・・・電話しないと・・・」
 頭が麻痺したせいだろう。私は驚くほど冷静に電話をかけに行った。
 (1・1・0・1・1・0・1・1・・・)
 心の中で反すうしながら、番号を押す。コール音がすぐ聞こえてくるはずが、何故か何も
聞こえてこない。一度切ってからかけ直すが、やはり結果は同じだった。電話線を確かめる
と、
 (切られてる?!そんな、どうして?!)
 しかも、引きちぎったような感じで。私はしばらく考え、自分が持っているPHSのこと
を思い出した。
 (そうよ、あれからかければ・・・)
 私は、急いで階段を上り、二階にある自分の部屋に戻った。そして、部屋の明かりを点け、
PHSを見つた。急いで電話をかけようとしたその時−
 
−”奴”から電話がかかってきた。

 PIPIPIPIPIPI・・・。PIPIPIPIPIPI・・・。

 突然のコール音に私は驚いたが、家に電話が繋がらないので、警察にもPHSの番号を教
えていたことをどうにか思いだし、兄が見つかった知らせかもしれない、と私は思い慌
てて電話に出た。
 「はい、隆雨です・・・」
 多少声が震えていたのかもしれないが、構ってはいられない。私は相手の反応を待った。
すると・・・。
 「「ひづきちゃんかい?プレゼントは喜んでもらえたかい?」」
 という声が聞こえてきた。多少くぐもってはいるが、とてもきれいな声だった。そう、
私のよく知っている声だ。
 「兄さん?!その声は日向(ひゅうが)兄さんね!?今まで何処にいたの?大変なこと
になってるのよ?!」
 私は、一気にまくしたてようとした。しかし、
 「「知っているよ。だって、全て私がしたことだからね。だから聞いているのさ・・・
プレゼントは気に入ってくれたかい?・・・っとね」」
 という言葉に口をつぐんだ。
 「「血の匂いはお気に召さないようだから、あの二つのプレゼントには気を使ったつも
りだが・・・どうだい?」」
 私は何も言えなくなった。突然の告白に理解できなかったからだ。しかし、兄らしき人
物は続けて話しかけてきた。
 「「おや?その顔はお気に召さなかったようだね。やれやれ・・・じゃあ、新しいプレ
ゼントを作りに行くとしようか・・・。そうだな・・・次は君の友達にでもしようか。こ
れなら・・・喜んでくれるかい?ねえ・・・ひづきちゃん」」
 「やめて!私はそんなプレゼントなんかいらない!あなたは誰なの?!兄さんじゃあな
いんでしょう?!兄さんなら、私のこと”ちゃん”なんて呼ばないもの!!」

−ようやく全てを理解でき、私は思わず電話に向かって叫んでいた。相手を喜ばせるだけ
とも知らないで・・・。
 




                                <第九回に続く>