続痕−ぞく きずあと− 第六回 投稿者: 佐藤 昌斗
 梓、楓、初音の三人が学校に出かけた後、千鶴は鶴来屋に欠勤の電話を入れていた。
 「・・・ええっ、そうです。はい・・・すみません足立さん。はい・・・では失礼します」
 カチャッという電話を置いた音が聞こえたと耕一が思った後、すぐに千鶴が障子を開けて部屋に
入ってきた。耕一は早速、入ってきた千鶴に話しかけた。
 「いいの?千鶴さん。会社休んじゃって。足立さん・・・何て言ってたの?」
 耕一の質問に苦笑いを浮かべて千鶴は、
 「仕方がありません・・・。耕一さんだけに任すわけにはいきませんから。それに・・・耕一さ
んのこと、信じていないわけではありませんが、何かあってはいけませんので」
「そりゃないよ、千鶴さん。俺は、怪我した女の子を襲ったりはしないよ」
 千鶴の言葉に耕一も苦笑いして答える。ふと、耕一は、
 (そう言えば・・・よく三人が素直に学校に行ったな?)
 と思ったが、すぐに、
 (なんだ、考えることないじゃないか。千鶴さんが、説得したに決まってるじゃないか。なんて
いったって、千鶴さんはあの三人の母親代わりなんだから。・・・母親か・・・)
 耕一は自分の、すでに他界した母親のことを思い出していた。いつも自分に笑いかけてくれてい
た母。いつも側にいてくれた母。豪華ではないが温かい料理を作ってくれた母。そして、時々見か
ける、寂しそうな母。もう、記憶の中にしかいない・・・母親。耕一は最近まで、母は幸せだった
のか、ずっと考えていた。父親と別居同然に暮らし、未亡人と何ら変わらなかった日常。母と自分
を置き、仕事に没頭していた父親をずっと恨んでいた。
 −そう、柏木の血の宿命を知るまでは。
 (母さん・・・親父と会えたかな・・・)
 そんなことを考えていると、千鶴が怪訝な顔で、
 「どうしたんですか?耕一さん。急に黙り込んで。何か考え事でも?」
 耕一は、今思っていたことを話せば千鶴の痕(きずあと)に、又触れることは解っているので、
あえて笑顔で言うことにした。
 −心の痕はゆっくりとは癒せるが、けっして急には癒せないものだから・・・。
 「なんでもないよ。それより、そろそろあの娘(こ)の様子を見に行かない?」
 話題を変えるつもりと、本当に気になっていたのでそう言ったのだが、千鶴は、急に思い出した
様に真剣な顔になり、
 「耕一さん。後で話がある、と言ったのを憶えていますか?」
 「うん、憶えているけど?」
 「では、よく聞いて下さい・・・。あの、隆雨(たかさめ)ひづきさんでしたか?あの娘・・・
かなり薄れているようですが・・・鬼の血を引いています」
 「えっ?それ本当なの千鶴さん?!」
 耕一は、千鶴が鬼のことについて嘘を付かないことを知りつつも、もう一度確認するためにあえ
て聞いた。千鶴は頷くことで本当だと答える。しかし、薄く鬼の血を引くものならこの隆山にもた
くさんいる。
 −柏木家程の濃い血を受け継ぐ、力が使えるものなら別だろうが。
 「でも、鬼の子孫なら隆山(ここ)にも大勢いるじゃないか・・・。まさか?!あの娘、力を
使えるのか・・・」
 「はい、私達よりはかなり弱いようですが・・・。鬼の力を持っていることは・・・事実だと思
います」
 耕一はさらに疑問を抱いた。いくら鬼の力を使えると言っても、女性ならば心配は無いはずであ
る。しかし千鶴のこの様子はただごとではない。耕一はその疑問を尋ねることにした。
 「でも、女性なら別にそれ程心配することはないんじゃないの?」
 「いいえ。よく聞いて下さい、耕一さん。確かに女性ならば、狩猟本能もそれ程ひどくはありま
せん。・・・しかし、男性なら・・・話は変わってきます。あの娘はうわごとで、”兄さん”と、
言っていました」
 これには、流石に耕一も驚きを隠せなかった。いくら弱い鬼の力と言っても、人よりは遥かに強
い。そして、狩猟本能は女性よりも遥かに強い・・・制御できぬ程に・・・。

 −二人が、真実を知るためには、ひづきが目を覚ますのを待つしかなかった。しかし、そのひづ
きは、まだ目覚めない・・・。


                                    <第七回に続く>


耕一:やっと進み出したかな?
千鶴:ええ、そうですね
耕一:あれ?千鶴さん。佐藤はどうしたの?
千鶴:なんでも体の調子が悪いらしいですよ。それで私が代わりに来ました
耕一:へーっ・・・そうだったのか
佐藤:ちょっとまったーーー!!
耕一:佐藤?!調子が悪かったんじゃないのか?
千鶴:もう脱出したのね・・・。
耕一:千鶴さんなにか言った?
千鶴:いいえ、なにも。それよりも佐藤さん・・・体調が悪かったのでは?
佐藤:全然大丈夫ですよ。それよりも大変だったんですよ。誰かに背後から襲われて、気を失い、
   気が付くと、どこかの部屋に閉じこめられて、あげくの果てにその部屋は爆弾が仕掛けら
   れているし・・・生きてここにいるのが不思議なくらいだよ。まったく・・・
耕一:どうやって助かったんだ?お前は・・・
佐藤:ああ、それは・・・自力でなんとか部屋の扉を壊して脱出したんだよ。幸い、古い部屋だ
   ったからな
千鶴:二人とも、もう終わりの時間ですよ
耕一:もうそんな時間か・・・
耕一・佐藤:では、第七回でお会いしましょう!
千鶴:次は気を付けなくっちゃ・・・
                                        <幕>