幸いにして誰の目にも触れず、ひづきを連れ帰れた三人は、驚く千鶴(流石に起きていた)と梓 の二人に説明もそこそこで、ひづきの怪我の手当をした。当然ながら耕一は、外に出されたが・・・。 やがて、ひづきの手当が終わったらしく、千鶴と梓の二人が出てきた。どうやら、楓と初音の二人 はまだひづきについているらしい。 「千鶴さん、あの娘(こ)は?」 心配そうに耕一は、千鶴に聞いた。千鶴は、少し考えこんでいる様だったが笑顔で、 「心配しなくても大丈夫ですよ耕一さん」 と答えた。そして、耕一にだけ聞こえる様な小さな声で、 「妹達が出かけたら、お話があります」 耕一は、かるく頷いてから何事もなかったように、 「そうか、取り合えず一安心てところか。それであの娘は?」 部屋の方を見ながら耕一が聞くと、今度は梓が耕一に答えた。 「今は、取り合えず安心したのか、それとも疲れてたのか知らないけど眠ってるよ。でも耕一、あ の娘一体どうしたっての?刀なんか持ってるしさ・・・。それに、服だってボロボロじゃないか?」 梓の質問に耕一は、こっちが聞きたいくらいだと思いつつも梓に知っている限りのことを話した。 だが、あの刀については何故か話さない方がいいと思い、伏せることにした。 「ふーん・・・。じゃあ、あんた何も解らないのと同じじゃない。よくそれで連れて来たもんだ」 「じゃあ、お前は、そのままにしてた方が良かったていうのか?」 耕一は梓が、本当はそんなこと思っていないことを知っていて、わざとそう言った。耕一の思惑ど うりに梓は狼狽しながらしどろもどろに、 「そっ、そりゃー、そのままにしていいワケないけどさ・・・。でも、少しは疑うとかさ・・・。 だいたい耕一は、ただでさえ、声かけ安い上にお人好しなんだから・・・」 うつむいて口ごもる梓を見ながら、耕一は昔の梓を思い出していた。 (あれは・・・そう、あの魚釣りに行った時・・・) つい最近まで思い出せないでいた想い出が、頭に映像となって浮かぶ。 −「うえーん。せっかく買ってもらったのにー」 「泣くなよ、あずさ。おれがとってきてやるから」 おれは、いつも元気なあずさが、泣いているのを見てとてもかわいそうに思えて、水の中に落とし てしまったクツを取るために水にもぐろうとした。水のほうにむかって、おれがすすもうとすると泣 いていたあずさが、泣くのをやめておれに、 「いいよ、こういち、とりに行かなくても。べつに、ひっく、あれは、ひっく、いらなかったんだ」 あずさは、とってもむりをしていた。落としてしまったクツは、おじさんたちに買ってもらったあ ずさのおきにいりだってかえでちゃんたちが言ってたから。でも、あずさはむりにへいきな顔をして おれに言ったんだ。そう− −そう、今みたいな俺のことを心配してわざと、心にもないことを言ってしまった時の、無理に平然 とした、そのくせ何処かすねた様なこの顔を。 「なんだよ耕一?人のことじっと見つめちゃってさ」 その梓の顔が又、昔の梓と重なる。耕一は微笑みながら、梓の髪を片手でクシャクシャとさせなが ら、 「いや、お前って全然昔と変わってないと思ってさ」 梓は、手を払いのけながらすねた様に、 「何だよ、悪かったな進歩のない奴で」 と言った。そんな二人のやりとりを微笑ましくそして、少し寂しそうに見ていた千鶴が口を開いた。 「梓、そろそろ学校に行く時間じゃない?楓と初音にも教えてあげて」 「あっ、ほんとだ。楓ーっ、初音ーっ時間だよ!」 自分の腕時計で時間を確認すると、慌てて二人に知らせに行く梓を見ながら、千鶴は耕一に笑顔で 話しかける。 「本当に騒がしいこと」 「うん。本当だね」 耕一も微笑みながら千鶴に答える。やがてバタバタした音とともに、梓達三人の、 「いってきまーす!」 という元気な声が聞こえてきたのだった。 −平和な時間。しかし、耕一と千鶴は見えない何かに巻き込まれれてしまった様な、そんな言い様の ない漠然とした不安を感じていた・・・。 <第六回に続く> 耕一:又かよ。もうあきらめた 佐藤:ははは・・・(乾いた笑い)。回数だけが過ぎていく・・・ 耕一:まあ、けじめだけはつけろよ 佐藤:それは解ってる。終わらしてみせる 耕一:後何回で? 佐藤:うっ・・・ 耕一:はあ、やれやれ・・・。では第六回でお会いしましょう! ひづき:私もださせろー! <幕> ***あとがき*** −ほとんどの方達が、連載が終わっていく中、まだまだ終わる気配がない<佐藤>です(泣)。 でも、書いたからには最後まで書くつもりでいますので、気長にお待ちいただけるとうれしいな と思います。感想は明日にでも書きますんでこれで。