耕一と楓と初音の三人は、裏山にある水門まで行くことにした。何故水門に行くことにした のかといえば、水門が一番近く、なおかつ散歩するにはもってこいの場所だったからである。 まあ、思い出深い場所でもあったからであるが。 「見てみて、耕一お兄ちゃん。ほらっ、飛行機雲だよ」 澄んだ九月の青空を見上げながら初音が、嬉しそうに笑いながら耕一に言った。耕一は、 言われたとうりに雲を見上げながら、 「今日もいい天気になりそうだな」 と、どちらに言うでもなく呟いた。しかし、二人はちゃんと聞いていたらしく、それぞれに、 「うん。そうだね」 「ええ、そうですね」 と、答えた。たったそれだけのことだったが、三人は顔を見合わせて微笑み合った。 「よし、二人とも行こうか。あんまり時間もないことだしな」 二人に笑顔を向けながら、耕一は言った。二人も笑顔を返しながらうなずいて歩き出す。 それから三人は、昔のことや他愛もない話をしながら水門を目指して歩いた。そして、しば らくの楽しい一時がたち、三人は水門の麓の広場に着いた。 「よし、ちょっと休んで−」 そう二人に言おうとしたその時、耕一は誰かに呼ばれているような気がして辺りを見回した。 「どうしたの?耕一お兄ちゃん?」 「耕一さん?」 訝しげに二人が尋ねるが、耕一は構わすに、自分を呼ぶ声の出所を探した。やがて、 「こっちだ!」 そう言って耕一が、駆け出したその先に水辺にほど近い茂みが見える。耕一は、構わずに掻き 分けて進んだ。するとそこには、一振りの見事な刀を持った少女が、下半身を水に埋もれさせな がら岸に横たわっていたのだった。 (この娘(こ)が呼んだのか?) そう思って耕一は、その少女をよく見てみた。その少女は、黒くい長い髪をポニーテイルに し、結んだ髪をさらに三つ編みにするというなんとも個性的(変わった)な髪型をしていた。 服を見てみると所々に何かで切った様な跡があり、しかもそこそこに黒ずんだ赤いものが付いて いた。 (一体どうしたんだ?何が・・・) そう考えていると、 「耕一さん?」 「耕一お兄ちゃん?」 楓と初音の二人が追いついてきた。そして倒れている少女を見て驚いた顔で、耕一の方を見た のだった。その時− 「うっうーん・・・」 と、倒れている少女が呟いた。どうやら、今まで意識を失っていて、気付いたところらしい。 三人は、声をかけてみることにした。 「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」 「大丈夫?お姉ちゃん?」 「大丈夫ですか?」 それぞれに声をかけると、やがて、目を開けて少女が起き上がった。そして、第一声が、 「うーん・・・、後5分・・・」 だった・・・。そして又、少女は目をつぶり倒れ様とする。あまりのことに呆然としていた三 人だったが、ハッと気付いて慌てて声をかけた。 「ちょっと、待てよ!おい!寝るな!」 代表して耕一が、少女に呼びかける。すると、 「なによ・・・うるさいわね・・・。解ったわよ、起きるわよ、兄さ−」 少女がそう言ったと思ったその時、いきなりガバッと跳ね起き、そして、常人で は考えられない程に跳躍したかと思うと、刀を構えて身構えた。そして、後を追う様に水しぶ きが上がった。舞う水に光が射しこみ虹色に輝いて光る。それと、少女が考えられない程の跳躍 をしたこともあり、三人は夢の中の様な錯覚を覚えた。 「誰?あなたたちは!?」 殺気すらはらんだ構えだが、三人はどうしていいのかとっさには反応出来ない。どうしようか と考えていると、突然、少女が顔を歪めて膝を付く。三人は優れた嗅覚で、血の匂いを感じた。 どうやら、少女は怪我をしているらしい。 「怪我をしてるのか?俺達はなにもしない・・・だから、刀(それ)を下げてくれないか?」 耕一は、努めて少女を刺激しない様に言った。耕一の言葉に二人もうなずく。 やがて、妙に永い数秒がたった後、三人を探る様に見ていた少女が、口を開いた。 「どうやら・・・私の勘違いらしいわね・・・ごめんなさいね。うっ!」 気がゆるんだせいで傷がうずくのか、又も少女は痛そうに顔をしかめた。それを見て三人は、 慌てて駆け寄った。肩を貸そうと耕一達が近づくと、突然、少女の持っていた刀が光り出した。 「こ、これは?!」 「何だ?どうしたんだ?!」 少女と耕一が驚いた声を同時に上げる。それに答える様に楓が静かに話した。 「レザムエオルト・・・エルクゥの武器です・・・。でも何故、あなたが?」 (レザムエオルト・・・?何だ?何処かで・・・) そう考えたその時、耕一の頭にある光景が浮かんだ。 −それは、かつての自分の記憶・・・次郎衛門のもの・・・。 「これか?これが、鬼の武器なのかリネット」 耕一−いや、次郎衛門は一振りの見事な刀を手に取って見上げていた。その言葉に対して、傍ら の女性が口を開く。 「はい、それがあなた達が鬼と呼ぶ、エルクゥの兵器、レザムエオルトです・・・」 「何処が、我らが使う刀と違うのだ?」 その言葉に対して女性が答える。だが−急に景色がぼやけ、声が遠のいていく・・・。耕一が最 後に見た光景は、あの女性の顔であった。そしてその顔が誰かと重なる。その顔は− (初音ちゃん?!) 「・・・兄ちゃん。耕一お兄ちゃん」 はっとして耕一は、辺りを見回す。そして、現状を思い出す。 (そうか・・・今のは、かつての俺の記憶か・・・。でも、最後に見たあの女性は・・・) 黙っている耕一に、初音が気遣わしげに声をかける。 「どうしたの?耕一お兄ちゃん。大丈夫?」 気付いてみると、楓と初音は心配そうに、少女はきょとんとした顔で、耕一を見ていた。耕一は、 苦笑いしながら、 「何でもないよ・・・。さてと、話は後だ。この娘を家に連れて行こう。傷の手当をしないと」 その言葉に、二人も頷いて賛成した。しかし少女は、 「ダメよ!私に関わっちゃ!あなた達を巻き込むことに−うっ・・・」 と言いかけて、傷に響いたのか苦しそうな顔をした。 「ほらほら、怪我人は無理をしない。さて、自己紹介がまだだったな。俺は柏木耕一、君は?」 少女は、やや考えてから、 「私は、隆雨ひづき(たかさめ ひづき)・・・」 と、答えた。耕一は、この時初めてひづきの顔を間近で見た。大きな黒い瞳が印象的な、綺麗と いうよりは、かわいい感じのする顔だった。 (かわいいなあ・・・。うーん、身体の方はどだろう?) と、耕一は思い、視線をひづきの身体の方に落とした。ひづきは、なかなか整ったプロポーショ ンをしていた。耕一曰く、千鶴さんより胸があるらしい。と、そんな視線に気付いたのか、ひづき が、 「この娘達は?」 と、耕一に聞いた。ジト目になっているのは、気のせいだろうか・・・。 「あっ、ああ、従姉妹なんだ。おかっぱの娘が、柏木楓ちゃんで、こっちの長い髪の方が、柏木 初音ちゃん」 耕一を除いた三人は、同時によろしくとあいさつを交わした。 −そして四人は柏木家へと向かった。ひづきを助けたことにより、戦いに巻き込まれていくこと を、この時、誰も思わなかった・・・。 <第五回に続く> 耕一:さて、五回目だが・・・えらく長いぞ佐藤・・・しかもあまり進んでないし 佐藤:うーむ・・・二回に分けるはずだったんだけど・・・送れなかったんでつい・・・ 耕一:ま、今回だけだろう? 佐藤:えーと・・・どうだろう?では、今回はこの辺で・・・ 耕一・佐藤:五回目にお会いしましょう!! 千鶴:あのー、私の出番は? <幕> ***あとがき*** おひさしぶりの<佐藤>です。無事に届いていたら<まさた>さんのおかげです。<まさた>さん どうもありがとうございます!。今回は、ここら辺でさようならー。