梓は料理が上手い。 なんでも、はじめての素材でも、そつなく調理をしてくれる。 それは料理の”さしすせそ”を覚えているとか毎日の炊事によって養われる功夫(コ ン・フー)とかじゃなくって、もっと根源的な胸が大きいとかいった要素と同じ天性や 才能によるのだろう。 「あたしは本当は料理は上手くないよ、しょうがないからやっているだけなんだから」 「そうだね、いつか最高の素材にであったら本気で料理をしてみたいね」 「その時は、こ、耕一にだけ食べさせてやるよ……」 似合わない小さな声で、包丁を片手にそう言った。 目が少しうるんでいる。 この瞬間、”最高の素材”ってのは俺の目の前にいたと思う。 いますぐ味見させてもらいたい気分だった。