海より・2  投稿者:ギャン


8/8 PM1:07

目的の町、アーカムに到着したのは8月に入った頃だった。
本当なら7月中にはもう着いている予定だったのだが、
準備その他もろもろに時間がかかり結局予定通りにはいかなかったワケだ。

俺のアーカムの第一印象は『古びた町』というものだった。
もっとも芹香に言わせれば『素敵な感じのする町』、
セバスのじじいに言わせれば『風情がある』、
セリオに言わせれば『─人口は〜(以下省略)』、
マルチに言わせれば『なんだか怖い感じがしますぅ』、
綾香にいわせれば『まぁ、いい感じじゃない』、
…要するに皆それぞれ違った印象を持ったということだ。
後から知ったことだが、過去この近辺では奇怪な出来事が頻繁に発生していたらしい。
そして町の大学、ミスカトニック大学には数々の魔術書が保管されているとのことだった。
恐らくは魔術関係に造詣の深い芹香の目にそこらへんが止まったのだろう。

着いたその日はホテルで休み、それから一週間は皆で観光などを楽しんだ。

8/16 AM11:39

芹香が二人で出かけたい場所があると言った。
新婚旅行なんだし、俺としてもそうしたいと思ったいたので快く承諾した。
喧騒から逃れ二人きりで外出、しかも新婚旅行中、ムードたっぷりとも思っていたが
行き着いた先はムードのかけらも無い場所だった。

行き先は近郊の漁村、インスマウス。

到着したのは昼過ぎ…ちょうど二時頃だったと思う。
日は高く照っていたと思うが村の中は全体的に薄暗く、思わず寒気を感じる程だった。
村に入って、まず感じたのが人通りの少なさだった。
先に述べた様に日は高く真昼間だというのに誰一人通りに出ようとせず家の中に閉じこもって
いるのだ。
たまに会う奴がいても視線すら合わせようとしない。
他人だから…といえばそれまでだが異国の旅人が訪ねて来ているのだ、興味を持つぐらい
してもいいと思うのだが…。
また、住民の容姿もまた奇怪なものだった。
とびでた目玉に、狭い額、…まるで魚のような顔つきだ。

俺から見ると『知り合いにしたくない奴等ベスト3』にランクインしそうなのだが、
そんな連中とも芹香は平気で話してした。
後の芹香の話によるとこの地に纏わる異界との契約の儀式に興味があり、そのことについて
話していたらしい。
話を聞いている芹香は『表情研究家』の俺から見てもかなり熱心そうだった。
尤も端から見ると、話す方も聞く方も非常に小さな声なので
只でさえ暗い雰囲気に拍車がかかっているように思えた。

結局、その日はそれで帰った。
二人きりの外出、というには少し不満が残るが周りに見知った人間が無く
二人きりという点でおいては正しかったのでまぁ良しとした。

芹香の様子に変化が見られたのはそれからだった…。