海より  投稿者:ギャン


8/23 AM2:06

…どうすればいいのだろう…

薄暗い部屋の隅で独り考えている。
恐怖と不安が入り混じった心で答を求めている。
思わず絶望に身を委ねそうになりながらも、それを理性で押しとどめている。
以前、隆山で共に戦ったことのある知人、長瀬祐介の言葉を借りれば
これが…今俺の心を支配しようとしているモノが『狂気』というものなのだろう。
しかし、冷静に考えることが出来るのならわかったハズだ。
俺自身だけではなく周りのモノ全てが狂気に包まれようとしていることが…。

自分はどちらかといえば冷静な方だと思っていた。
明らかに人間とは違うモノと戦ったこともあったし、
なにか想像を絶する出来事が目の前に立ちふさがっても何とかして
切り抜けられると思っていた。
しかし、今現在自分を取り巻いているこの状況に…俺、藤田浩之は
文字通りなすすべも無かった。

ふと、気づくと答を模索することを止め、今までの経緯を思い返していた。
この狂った状況に至るまでの出来事を…。

…約4年前

高校を卒業後、俺は在学中に恋人となった先輩、来栖川芹香との結婚の承諾を
得るために足繁く来栖川邸に通っていた。
そんな簡単に許しがもらえるとも思っていなかったが、先輩に会えるのは
嬉しかったので毎日のように足を運んでいたワケだ。
そんなこんなで俺が大学を卒業する頃になってやっとこさ許可がおりた。
先輩の祖父は俺の大学卒業を待っていたらしい。
来栖川家の生活を徹底的に学ばさせるためには大学の卒業くらいは必要と
いったところなのだろう。
この時に知ったことだが、先輩の祖父は孫の婚約について決して否定的では
なかったらしい。もちろん、その前に綿密な素性調査があったことは
当然だろうが…。

とにもかくにも俺と先輩はめでたく結婚した。
俺は先輩を愛してたし、先輩も俺を愛してくれていた。
今思っても、幸せの絶頂だったと思う。
いつまでもこの瞬間が永遠に続けばいいと思った。

その後、しばらくして一段落したのち新婚旅行に行くことになった。
天下の来栖川、大規模でハデな旅行になると思っていたが、
実際は先輩の願いもありどちらかといえば質素な感じだった。
質素とはいうが俺と先輩の他にもセバスのじじいや綾香、マルチにセリオも
一緒だった(今思えば何故新婚旅行にまで付いて来るのか…)。

静か(あくまで先輩と二人の時のみ)でのんびりとして(右に同じ)、
ビックリするようなことは無くとも、きっと生涯忘れられないような旅になると
思っていた。…が、実際は…確かに『忘れられない』ような旅になったことには
違いないだろう。

行き先は先輩の希望でアメリカ、マサチューセッツ州アーカムという小さな町
に決まった。
これが全ての始まりだった。