炬燵  投稿者:ギャン


炬燵に入っていた。

大晦日は皆でゆっくり過ごそうと相談し、瑠璃子さん、沙織ちゃん、瑞穂ちゃん、
それに僕を含めた4人で僕の家に集まったのだった。
両親は用事で外出しており、家には僕ら4人だけだった。

食事を済ませ、皆でくつろいでいると沙織ちゃんが「寒い」と言い出した。
暖房はついているのだが不思議なことに室温は少しづつ下がっているのだった。
窓が開いているのかとも考えたがちゃんと閉まっていた。
仕方なく物置へ向かい何か暖かいものは、と探した結果炬燵を発見したのだった。
炬燵に入るとそれまでの寒さが嘘のように消え失せどんどん暖かくなっていった。

くだらないテレビの特番なども見飽きた頃だった。
心地よさにウトウトしていた僕の頭にはこの炬燵に対する疑問が浮かんでいた。
実は僕の家に炬燵は無い。他の暖房設備が充実しているために必要なかったのだ。
今までに使ったことも無いし、もちろん物置に置いてあるハズもないのだ。
ならば今現在この体を預けている炬燵はなんなのだろうか?
幻とも思えない心地よさだし、妄想とも思えない。
それに、ついさっき気づいたのだがこの炬燵はコンセントが接続されていない。
なのに何故こんなにも暖かいのだろうか?
これらのことに気づいているのは僕だけだ。

でも全然構わない。そんな疑問がどうでも良いことに思えて来る程に心地よい。
とても暖かい。とても、とても。

…
そのままウトウトとしながら数分が過ぎた頃だろうか、
沙織ちゃんが短い悲鳴のような声をあげたかと思うと引きずり込まれるように
全身を炬燵の中に入れてしまった。
炬燵の中にはすでに沙織ちゃん以外の3人×2本=計6本の足が入っているのに
沙織ちゃんの体がスッポリ入るのは不思議だった。
それに僕の足には沙織ちゃんの体らしいものは全く触れる気配がない。
本来なら驚くべきなのだろうか、どんどん増していく心地よさに「まぁいいか」と
思えてくるのだった。

しばらく経った頃、不思議に思った瑞穂ちゃんが炬燵の中を覗いた。
何を見たかはわからないが、彼女は炬燵の中の光景に対し恐怖を覚え悲鳴を
あげようとしたらしい。
「らしい」というのは、それを確認する間もなく彼女も炬燵の中に入ってしまった
からだ。彼女が炬燵に全身を埋める瞬間、無数の手のようなものが見えたような
気がするが…多分、気のせいだろう。

瑠璃子さんと二人きりになって数十分が経過した。
異常なまでの心地よさに意識が朦朧としていた僕はふと、瑠璃子さんが笑っている
のに気づいた。
理由はわからないが、とても楽しそうだ。
「ふふふ…ふふふ…ふふふ」
そのうち、彼女は声をたてて笑い出した。
いったいどうしたんだろう、とボンヤリ考えながら見ていると
瑠璃子さんは自分から炬燵の中に入っていった。

瑠璃子さんが消えて独りになってから数分後、炬燵の中から何かを頬張るような
音が聞こえてきた。
それは決して気持ちのいい音ではなかったが、その頃には極限に達していた心地よさ
がそれを掻き消した。
本当に心地よい。
何か…人肌に触れているような暖かみと心地よさだ。

独りになって一週間が過ぎた。
僕はまだ炬燵に入っている。
いつか僕も引きずり込まれるのだろうか?
中にはいったい何があるのだろうか?
…そんなことも考えたが、その内どうでもよくなった。
だってとても心地よいんだし。

とても…。