聖なる夜、クリスマス・イブ。 神の慈愛が溢れる夜でも、恵まれない人間はいるものだ。 深夜、藤田浩之宅。 藤田浩之とその愉快な仲間達がクリスマスパーティーを楽しんでいた時、 その男は自宅で独りケーキを前に愚痴っていた。 「今頃、藤田とその仲間達は楽しくやってんだろうなぁ…。」 …全ての民に平等なハズの神の慈愛すら得れないこの男、名を橋本という。 ちなみに相棒の矢島は今回出番は無い。 「去年はそれなりに楽しいクリスマスだったのになぁ…。」 ケーキを食いながら、過去の栄華を思い出す。 この男も藤田浩之と長岡志保による連携プレーの被害を被る以前は、 それなりに幸せなクリスマスを過ごしていたのだった。 「やっぱ、脇役には幸せは訪れないのかな…?」 彼は悩みがあると、長く悩んだ挙句『脇役だから』との理由で現実に折り合いをつけることにしていた。 いったい、いつからそうしてるのか当の本人にもわからなかった。 しかし彼自身、この理由に納得していたのでそんなコトはどうでもよかった。 だが彼は忘れている。同じ脇役で成功している佐藤雅氏、七瀬彰、長瀬一族の存在を…。 「だいたい、オレの人権は……ぐぼはぁッ!!?」 なおもケーキを食いながら愚痴を続ける橋本の顔面に突然、拳が炸裂した。 いつの間にか眼前に立っている、男一人。ココは橋本宅ではないのか?という疑問は当然、却下だ。 「何一人で勝手に愚痴ってんだよ!世間にゃテメェより不幸な輩がいるんだよッ!」 「痛ェじゃねぇか…、っていうかアンタ誰!?」 「オレが誰かなんてどうだっていい。だがな橋本…世の中にはオマエよりも影の薄い連中がいるんだよ。」 「ヘっ…いきなり人を殴っておいて、何を言うかと思えば…。言っとくがな、オレの影の薄さは半端じゃないぜ!」 凄みのある、それでいて情けないセリフを事も無げに叫ぶ橋本。やはりこの男、只者ではない。 「フン、いいか。オマエはどんなに影が薄くても『脇役だから』、『橋本だから』の理由で納得できるだろう。」 「確かにそうだ…。しかしそれは他の奴等にも言えるコトだ!」 「ああ、その通りだ。矢島にも三人組にも同じコトが言える。」 「だったら…!」 「話は最後まで聞け。オレはオマエに負けず劣らず影が薄いと自負しているが、オレには『脇役だから』などという理由は通用しない。」 「なんで…!いや、まさか…!?」 「そう。その『まさか』さ。オレは『主人公』なのさ…。」 自嘲気味に笑う謎の男。彼にも苦労があるのだろう。 「しかし影の薄い主人公なんて…『アイドルが恋人の浮気者』か?それとも『そのまんま同人作家』か?」 「甘いな…。悪いがオレに比べれば奴等など月とスッポンだ。」 「あ、アンタ…いったい誰なんだ?」 「ふっ…オレの名は…」 「名は…?」 「オレの名は………伯斗龍二だッ!!」 「……」 「……」 「……」 「……」 「……誰?」