KAKAの奇妙な冒険 第2話 炎の高校生 翌日、耕一は「鶴来屋前」というバス停にいた。すると、やがて1台のバスがやってきて、それはその駅で止まり、一人の黒髪長髪の女性と同じく長髪だが赤い髪の少女がバスから出てきた。 「千鶴さん!千鶴さん!お久しぶりです」 「耕一さん!」 楓の姉の、柏木千鶴だ。彼女は今はこの「鶴来屋」の社長でもある。今回の楓の一件で、出張先から急遽帰郷したのだ。 「よく帰ってきてくれましたね」 「耕一さんこそ。それに妹のことですもの、地球上のどこからでも24時間以内で駆けつけるつもりです」 くすりと微笑み、耕一はその優しい腕で、千鶴を包み込む。 「・・・耕一さん」 「千鶴さん、会いたかったよ」 二人には、言葉などいらない。 鶴来屋に入り、3人は楓のいる部屋へと向かっていた。 「千鶴さん、鞄持つよ」 千鶴の持つ思うそうな鞄を、耕一は片手でひょいと持ち上げる。 「ところで耕一さん。楓のことですが・・・」 一瞬、耕一の動きが止まった。 「確かに『悪霊』と言ったんですか?」 耕一はがくりと肩を落とし、 「そうなんだ。ここの職員の人たちには見えなかったんだけど・・・俺には見えたんだ。別の腕が見えて、それでタバコを・・・」 「他の人の目には見えないのに、貴方にはわかったんですか?」 耕一は大きく溜息をつき、 「はい・・・」 千鶴は顎に手を当て少し考え込みゆっくりと口を開いた。 「楓は最近取り憑かれたと言っているらしいですけど、貴方には何か異常はありますか?」耕一は、左右に首を振る。 「いえ、ないです。でも、楓ちゃんは原因がわかるまで部屋から出ないって言ってきかないんです」 心配でそわそわする耕一に、千鶴は優しく微笑んだ。 「わかりました、耕一さん。私が来たんですから安心して下さい。でも、まずは早く会いたいです・・・私の妹の、楓に」 千鶴がちらりと視線をとばす。すると例の長髪の少女がこくりと頷いた。この辺りでは、見かけない制服だった。 ドーン! 楓が寝泊まりする部屋には、「死者の本」や「オカルト」などというタイトルの本がずらりとつまさっていた。その部屋を覗き見、職員が呻く。 「ま、またいつの間にか物が増えている。楓さんには、な、何か恐ろしい物が取り憑いています。社長、気をつけて下さい」 不安げな彼に対して千鶴は毅然とした表情だ。 「大丈夫です。妹は私が連れて帰ります」 「妹・・・?」 千鶴の声に、部屋の中の楓が反応した。 ドアを完全に開け、耕一が身を乗り出す。 「楓ちゃん、千鶴さんだよ。千鶴さんはきっと君の力になってくれる。千鶴さんと一緒に出てきてくれないか」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! 千鶴が、一歩部屋の中に足を踏み入れた。すかさず、楓がその前に立ちふさがる。 「出なさい。私と帰りますよ」 「いやです」 即答。 「いくら千鶴姉さんでも無理です。出張から帰ってきたところすいませんが、姉さんでは私の力にはなれません」 バン! いつの間にか、楓の手には千鶴のボールペンが握られている。 「は!」 先程までそれがささっていたシャツの胸ポケットを見るが、やはりそこにはお目当ての物はない。 (わ、私のボールペン。い、いつの間にか抜き取られてしまっている・・・) 「見えましたか?気づきましたか?これが『悪霊』です」 楓が差し出したボールペンを、千鶴は震えた手で受け取る。 (なんて事・・・いきなり私を欺くなんて・・・) 千鶴は楓に畏怖も感じたが、すぐさま両拳を握り、自分に気合いを入れる。 (そう・・・。私は楓の『悪霊』の正体を全て知っている・・・。知っていてやって来た・・・。自分でいろいろと正体を調べようとしていたようだけど、今教えましょう。けど、口で説明するより、実際に楓自身が体験すればより理解できるでしょう。いえ、将来出会う危機のために体で体験する必要があるでしょう) 再び、彼女は制服の少女に視線を送った。 「新城さん、貴方の出番です・・・」 ドォォォォ! 長髪赤髪。この辺りでは見慣れない制服の少女は、屈託のない笑みを浮かべ、豊満な胸の前で腕を組んでいる。千鶴は楓の方へと向き直り、 「3年前にある地域で知り合った友人、新城さおりさんです。年は、貴方と同じくらい」もう一度、彼女は新城に視線を投げかける。 「新城さん・・・妹の楓をこの部屋から出して下さい」 一歩、新城が歩み出る。だが、楓はやはり首を左右に振り、 「やめて下さい。私はここから出るつもりはありません」 それにも構わず、新城はフッと顔を歪め、 「千鶴さん。少々手荒くなりますが、きっと自分から「外に出してくれ」と喚き懇願するくらい苦しみますが・・・」 楓は、無言。 「構いません」 千鶴は冷徹に言い放った。 「千鶴さん、一体何を!?」 「耕一さん、黙っていて下さい」 ぴしゃりと言い止められ、耕一はひるんだ。もはや、彼女は人間でなく、鬼化しているようにも見えた。 シュゴォォォォォォォ! 新城がゆっくりとした動作でバレーボールのレシーブの構えをする。すっと動作が止まり、新城が大きく息を吐いた。 ドン! 「・・・!」 新城の背中から現れた物に、楓は絶句した。新城の背後に、顔ほどの大きさのバレーボールがふわりふわりと浮かんでいる。 「これは、そう、貴方の言う『悪霊』をこの私の持っている私の意志で自在に動く『悪霊』!」再び、新城が大きく息を吐くと、バレーボールの一部の縫い目がガパリと裂け始めた。 「『悪霊』の名前は、『マジシャンズさおりん』!」 裂け目から勢いよく炎を帯びたバレーボールが飛び出す。呆気にとられていた楓の両腕、両足に、それが直撃する。 「うっ・・・。痛い。これは、火。や、焼ける、私の腕が焼けて・・・!い、一体『悪霊』って・・・?」 その様子を見て、耕一が叫んだ。 「千鶴さん、楓ちゃんに何をするんですか!」 職員だけが、不思議そうな顔つきで全員を見回している。 「火?火なんてどこに・・・?」 耕一には構わず、千鶴は新城と楓のやりとりから目を離そうとしない。 ドン! 今度は、楓の背中に彼女とよく似た民族風の衣装を着た少女が現れた。千鶴が、大きく目を見開いた。 「・・・ついに出ましたね。よ、予想以上の楓の力!」 to be continued・・・