鬼神異伝3 投稿者:神風
鬼神異伝3
3.予兆(ヨチョウ)
すべての価値や意味といったものは、流れ、変わりゆく。
何かを得たとしても、時を経れば、その代償のほうが大きかったと気づくことは多い。
しかし、またその逆も真なのだ。
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「ふへえ、疲れたぁ」
 俺は情けなく、どっかりと腰を下ろした。ここは本屋『リーフ堂』の中に設置された休
憩室だ。
本来はCDの試し聴きのためのブース室だったのだが、いつのまにかそうなってしまった
らしい。
ソファに腰を下ろし、一息つく。
 最近のあかりは、どこか以前と違う。そんな気がする。
以前のどこかおどおどした雰囲気がなくなった。 そんな気がしてならない。
志保の奴は「やっぱり、恋が実った乙女は違うわねえ」と言っていたが、当たらずとも遠からず、
といったところであろう。
 多分、あかりは「浩之ちゃんが見ていてくれるからだよ」
と恥ずかし気もなく言うのだ。 まっすぐな瞳で。
 俺の中に様々なあかりが浮かんでは消える。
 微笑んでいるあかり。
 どこか困ったような顔のあかり。
 泣きじゃっくてるあかり。
 上目づかいに見るあかり。
 そして……コロシテシマッタアカリ。
「なっ」
 いつのまにか、喧騒に溢れていた休憩室が沈黙に包まれ、モノトーンの世界に置き換わる。
そして目の前に立つ、血まみれのあかり。
「ひどいよ……浩之ちゃん」
 その瞳は痛々しいほどに俺に突き刺さる。
「違う……俺は……俺は殺してない……」
 あかりの瞳は虚無を写したかのように虚ろだ。 だが、俺にとってはそれが一番辛かった。
憎まれるより、泣かれるより、ずっと。
「だって……わたしを殺したじゃない」
「違う! 違う!! 違う!!! ……違うんだ……俺は……違うんだ」
「だって……わたしを殺したじゃない。 だって……わたしを殺したじゃない。だって……ワタシヲ
コロシタジャナイ。 ダッテ……ワタシヲコロシタジャナイ。コロシタジャナイ。 コロシタ。 コロ
シタ。コロシタコロシタコロシタコロシタ……」
 「違うんだ……俺は……殺してなんかいないんだ……」
 情けないほどに、目が涙で溢れる。すべてがぼやけて見えるなか、何故か俺を責めるあかりの姿だけが
鮮明に見えた。
 俺が……壊れる……と俺が感じた刹那。
「あなた、目障りです」
 あかりではない、違う女性の声。
暖かみを与えない……冬の蒼月のように凛とその声は響いた。
いつのまにか、あかりの横にひとりの少女が立っていた。
漆黒の髪。紫暗というべきなのか不思議な色の瞳。
少女はあかりに触れ、一言。
「消えなさい」
その言葉のみで、あかりは真っ白な光の粉へと帰る。
光は一瞬で視界すべてを覆い尽くし、そして……。
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 はっと俺は目を覚ました。
そこはもう喧騒に包まれる、元の休憩室だった。俺の前で佇む一人の少女を除けば、だが。
俺と同じ高校二年生くらいの少女だった。 どこか知っているような感じがするのはなぜ
だろうか?
(そうか、あかりだ)
 答はすぐに出た。髪型や、背格好、たれ目がちの瞳。 雰囲気さえ違うものの、あかりと生き写しだ。
「大丈夫ですか……?」
「えっ……」
 さっきの事を言っているのかと思い、まぬけな反応をしてしまう俺。
「光が強ければ強いほど……闇もまた強まりますから……」
そう言って少女は背を向けて去ろうとする。
 闇。 その言葉に俺は寒気を覚える。 喉が渇き、言葉を紡げない。
それでも、かろうじて声を出す。
「君は……? 」
 少女は振り返り、一言。
「……楓。 気をつけてください、闇に飲まれないように」
 また会うことになります、と付け加えて楓は休憩室から出ていった。
 俺は彼女が消えていった出入り口をずっと凝視していた。
あかりが迎えに来るまで、ずっと。
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「おーーーいっ! いたいた! 探したよ、楓」
リーフ堂から出てしばらくしてから楓は梓に呼び止められた。
夏本番! といった梓の格好は、少し地味目な楓のそれと比べてヒジョーに男達の目を引いた。
 すでにナンパしよーとした勇気ある(?)男たちは二桁を越え、そのすべてを残らず昇天させている。
「まったく、急にどこかに行っちゃうんだから……。 んっ? どしたの、楓」
楓はいつもとは違う雰囲気で、沈黙していた。
姉妹にしかわかりあえない、直感のようなもので、それを梓は感じ取ったのだ。
「梓お姉ちゃん……もしかしたら、わたし……」
ほんのすこし、上気した頬。梓は知っていた、その表情を。
遠い昔、違う名で互いを呼び合っていた頃。禁断の恋をした、その時の表情。
それは以前、耕一に向けられていた表情でもある。
「楓、アンタまさか……?」
「わからない……でも、ひかれているのは確かなの……」
 楓は胸を押さえ、鼓動が誰にも聞かれぬよう、それを胸に押し込めた。
ずっと。
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4、硝子(ガラス)<仮名>に続く

マルチ「このSSを読んでくれてどーもですう」
セリオ「どうも、ありがとうございました」
マルチ「あっ、そう言えばすみません。神風さんは痕のソフトを持っていないため、
痕関係の設定に関してはいいかげんだそうですう」
セリオ「つまり、セリフ回しなどにおかしな所があったら申し訳ありませんという
ことです」
マルチ「このSSは、本当は某人気少年漫画を下敷きに書いていたんでそうなんで
すけど、キャラ達が勝手に動いてえ」
セリオ「予定していたあらすじ通りに進まなくなった……つまり第一部ではまだ楓
さんや梓さんは出てこないはずだったのです」
マルチ「えっ、セリオさん、今なんて……? 」
セリオ「話は変りますが、感想をくれた方、引き続きCGを贈ります。その時最も
良いCGを贈りますので、リーフ関係CGとは限りません。ご了承ください」
マルチ「あの、セリオさん。 今、第一部って……」
セリオ「それでは、また」
マルチ「わわっ、セリオさーん。 待ってくださーい」
マルチ、退場するセリオを追っかけ、お約束のようにずっこけ、退場。
メール先kamikaze@mb2.seikyou.ne.jp