鬼神異伝2 2.日常(ニチジョウ) ・ ・ ・ 「……きちゃん、浩之ちゃん」 うっ…… 手足がこうばっているのを感じながら俺は目を覚ます。 「だいぶ、うなされてたみたいだけど、浩之ちゃん、大丈夫?」 心配そうに俺をのぞきこむ、あかり。そんなあかりを見て俺は、悪夢は終わったの だと、実感できる。 「あかり、か……。ああ、大丈夫だ。ちょっと変な夢見ただけだよ」 「ヘンな夢……どんな夢だったの?」 「ああ、お前を……ってくだらなすぎて言う気にもならねえや」 言える訳ねえだろ。俺がお前を殺す夢を見たなんてよ。 「えーっ 教えてよ、浩之ちゃん」 「あのなあ……ってあかり、なんか焦げ臭くないか? 」 「あー! いけない! お魚焼いてたの忘れてた! 」 ドタドタとくまのスリッパで階段を駆け降りていくあかり。そんなあかりを見て俺 は、 「さてと、俺も着替えるか」 ・ ・ ・ 少々焦げ気味のサンマをほお張りながら、俺は飯をかきこむ。 普段は見ない朝のニュースと、あかりの味噌汁の香りが、食卓を包む。 「浩之ちゃん、おかわりする? 」 「おう」 「浩之ちゃん、卵も食べないといけないよ」 「おう」 あのゴタゴタから、三ヶ月。世間は夏休みというものに突入していた。 夏休みが始まってから、ほとんどの時間をあかりは俺の家で過ごしている。 朝七時 に俺を起こしに来て、昼まで掃除と洗濯。 昼ご飯を作り終えたら、俺と一緒に課題 を片付けたり、外に繰り出したり(つまりはデート)、それから夕ご飯を作って少し 談笑して夜十時ごろ帰宅。 俺の両親はあいかわらず帰って来ないし、あかりの両親は両親で今の状況を喜んで いるフシさえある。こうして、あかりと俺の半同棲生活が始まったのだ。 「ねえ、浩之ちゃん。 駅前のデパートに一緒に行かない? 」 「デパート? 昨日買い出しに行ったばかりだろ? 」 あかりから食後のドクダミ茶を受け取りつつ、俺は応えた。 「そうなんだけどね、ほら、これ見て」 俺はあかりの差し出したチラシを受け取り、つぶやいた。 「三十周年記念セール……アクアプラスデパートか」 「うん、ねえ。 行ってみない? 」 期待を顔に溢れんばかりほど表して、こちらを見るあかり。 昔から俺が勝てないもののひとつだ。 「いいけど、高いもんは買わねーからな」 「うん!! 」 あかりは、満面の笑顔を向けて微笑んだ。 ・ ・ ・ 女の買い物ほど無駄に時間を浪費するものはない、と誰かが吐いたセリフは、決し て負け惜しみではないことに俺は今日初めて気がついた。 「おい、あかり。 ちょっと休もーぜ」 「ええっ、まだ全部見てないよ」 「ぜっ、全部見る気なのか……? 」 ちなみにアクアプラスデパートは総テナント数一万店を越える全国でも有数の大デ パートである。総面積はドーム十個分ほどあり、高さはサンシャインとタメを張る。 「うんっ、でもそんなに疲れたんなら少し休んでていいよ。 私はお店見てくるから」 「おう、じゃ、本屋にでも行ってるよ……リーフ堂、わかるか? 」 「うんっ、それじゃまたね」 山のような人波をちょこまかと掻き分けていくあかりを見つめながら、俺は思う。 「女って……つえーよな」 ・ ・ ・ 所変って、ここはリーフ堂。 「ふーん、ふっふんふん」 長い黒髪、白磁のような肌と完璧なスタイル。女ならやっかみ、男なら見とれるその 美貌。 彼女、千鶴は棚に所狭しと並んでいる『超簡単お手軽クッキング!! これで彼氏のハー トは君のもの!! 』という料理指南書シリーズを鼻歌混じりに品定めしていた。 「ふふっ、この前は『和風エスカルゴの青汁煮込み、エルクゥ風』は会心の出来だった から、またこのシリーズの本買っちゃお(はあと)」 言うまでもないが、和風エスカルゴはカタツムリをさす。 無論、食べれません。 「ええっと、これにしよっかなあ『豪殺! 滅殺! 神殺! お弁当メニュー、琴音風』。 ……これでえ、耕一さんにお弁当作ってあげてえ……」 以下、妄想です。 千鶴「はい、耕一さん、お弁当です! 」 耕一「ありがとう、千鶴さん。 でも残念だな」 千鶴「えっ、どうしてですか? 」 耕一「だって、僕の一番の大好物が入ってないんだもの」 千鶴「えっ、でも、たこさんウィンナーも卵焼きも……」 耕一、ガバッと千鶴を引き寄せ、いきなりディープなキス!! 耕一「千鶴……君だよ」 千鶴「耕一さん、嬉しいけど、妹たちが……」 耕一「千鶴は……俺とするの嫌い? 」 千鶴「嫌いなわけっ! でも、こんなところで……その、あの」 耕一「千鶴って、赤くなった顔もかわいいんだな。 ますます惚れちゃいそうだよ」 千鶴「こっ、耕一さん、ダメ、こんなところで、あふっ、いっ妹たちに、うくっ、 ああっ、そこっ、いいっ、 はあっ、こっ、耕一さっ、ああ、いいいいいいっ!!」 ……以下略。 「きゃああ!! なんちゃって、なんちゃってえ、なんちゃてえええ!!! 」 ゲシッ、ゲシッ、ゲシッ!!! 凄まじい量の本の自重を支えるため、例えエクストリームのチャンプが蹴りを 入れたところで、一ミクロンも変形しないはずの特殊金属製の本棚が、千鶴の拳で ガラス細工のように変形していく。 更に千鶴は飴細工のように特殊金属を引き剥がし、手の上でこねまくる。 「それでえ、耕一さんが『子供は何人欲しいか』って聞いてきてえ、私が『耕一さんに 任せます』って言ったらあ、『それじゃあ、今、一人目をつくろう』ってえ、きゃああ ああああ、いやん(はあと)」 すでに、本棚は原形を止めておらず、千鶴の作る特殊金属製細工となっていた。 そのすべてが、耕一の顔である。 当の本人である耕一は物陰に隠れ、顔のはっきりと縦線を引きつつ、自問自答していた。 「ほんとに、千鶴さんで良かったのか、俺? 今ならまだ間に合うぞ、俺? 」 若者の特権とは、例え失敗しても何度でもやり直すことができることだよ、っと どこかの教授がほざいたセリフを思い出しつつ、独白した。 「千鶴さんとの関係に関しては……失敗イコール死なんだよお」 最強の『鬼沈め』を自他とも認める青年は、今この時分に関しては、 非常に情けなかった。 ……3.予兆(ヨチョウ)に続く 雅史「これを読んでくれてありがとう、みんな」 志保「って言うか、なんでこの学園のアイドル(はあと)、志保ちゃんが出てない訳!? 」 雅史「仕方ないよ。 僕らの出番はもう少し先なんだから」 志保「ふんっ! 雅史はいいわよ、一話でちゃっかり出てさあ。 私なんて、『ついでに』 扱いよお!! 」 雅史「まあまあ、抑えて、志保。 連絡することあったでしょ」 志保「そういえばそうだったわ、みんな、志保ちゃんニュースのお時間よ!! このお話 を書いているのは神風って言って、ひよっこ同然のSS書きなんだけど」 雅史「仮面さんの前という、ひじょーに畏れ多い位置にいるんだよね」 志保「そうなのよ! それとメールをくれた方にCGを贈るらしいわ」 雅史「CGで釣るつもりなのかな? 」 志保「へたなCGでね。あんまり期待しちゃだめよ」 雅史「そんなこといったら、余計メールが来なくなるよ」 志保「仕方ないじゃない、ほんとのことなんだから」 雅史「まあね、アドレスはkamikaze@mb2.seikyou.ne.jpだから、ぜひ感想を贈ってね」 志保「じゃあねえ!! また今度お!! 」