難波の名(迷)探偵 by神風 ・ ・ ・ 「あああーーー!!!」 スペースに同人誌を並べていた俺は、隣からあがった叫び声にビックリした。 「おいっ! どうしたんだ、由宇?」 「ないんや……」 「はっ? 何がないんだ? 」 「ウチとあんたとの合作本がないんやーーーー!!!」 合作本……それは、俺と由宇にとっては、いろいろといわくつきのものだ。 思えばこの本のおかげで、一時はコンビを解消したりと、いろんなことがあった。 しかし、紆余曲折はあったものの、互いの同人誌に対する考え方も再確認できたし、 なにより由宇との絆も深まった(気がする)。 そして再結成した記念にと、新しく合作本を作ったのだが……。 「よく探したのか? チラシの下とか……?」 「当たり前や!! 搬入されとるはずなのに、どこにもないんや!! ……これは、陰謀や」 「はあ?」 由宇はギロリと瞳を光らせる。そして段々とメガネが白んでくる……。 いっ……いかん! 由宇のメガネは原理こそ不明だが、由宇がキレ始めると途端に光を全反射するようになる。 つまり、由宇の瞳を他人がメガネ越しに除くのは不可能になるのだ。(しかし何故か由宇からは こちらが見えるらしい。不公平である) 今、由宇はその危険な兆候を示していた!! 「おいっ、由宇。落ち着け……」 「和樹!!! 」 「はっ、はい!!!」 いきなり俺の名を呼ぶと、由宇は、やおらチラシの裏に何か書き始める。その速さといったら、某 有名漫画家が憑いて、憑依100%状態になったのかと錯覚するほどだ。 「おいっ、由宇。いったい何を……」 「できたで!! 和樹、今すぐここに書いている奴等つれてくるんや!! 」 「いっ、今すぐ? まだ俺、自分の同人誌並べてな……げふっ!!! わっ、わかった。今すぐ行く」 強烈な裏拳が俺にヒットする。誰がしたかは言うまでもない。 ……そして十分後、辛味亭前にいつものメンバーが集まっていた。 「なんだ、同志和樹? 吾輩は新刊のチェックに忙しいのだが……」 「ちょおおおと、いくらわたしがちょおおおお、かわいいいからって、誘拐しないでよね!!! 」 「ちょっと和樹、なんなのよ緊急事態って?」 三人それぞれのブーイングに由宇は、 「うるさいわい、アホンダラども!!! どっかのクソSS作家の言い訳みたくピーチクパーチクさ えずりよってからに!!! こんど、んなコト言うたらピーーーーーしてピーーーーー引きずり出し てそれをピーーーーにピーーーーで東京湾に……」 しーーーーん 辛味亭周辺が絶対零度に包まれる。 さすがに由宇も言い終える前にそれに気づき、こほんと咳払い をして、 「あー、なんやな、その、つまりウチらの本がなくなってな……」 「もしかして、それを探すのを手伝えって、そういうこと!?」 瑞希が憤慨しながらそう言ったが、由宇は首を横に振る。 「ウチの考えでは……犯人はこの中にいる!!!」 しーーーーーん 絶対零度どころか、時間停止したんじゃないか、と思えるほど呆れ返って凍りつく一同。 「由宇……もしかしなくても、昨日の「サスペンスドラマ 雨月山の四姉妹」を見たろ」 「ああっ、サイコーやったなあ、あの話。 ……でも何でわかったんや? 」 「やっぱり……」 由宇のことだ。昨日のドラマに影響されて名探偵になりきっているのだろう。 (わかりやすいやつ……) と俺が内心思っていると、由宇はどこからかキセルを取り出し、語り始める。 「ウチと和樹がサークル入場したのが、およそ10分前や。 合作本は、約20分前に搬入されと るはず……。 せやろ、九品仏はん? 」 「そうだが……何が言いたいのだ? 」 由宇はキセルを一服するフリをし、みんなを見回して続ける。 「つまり、犯行が可能やったのは、ウチらが来る前の……ほんの10分間しかなかった、てことや」 「それがどうしたというのだ? 確かに我輩と詠美は犯行時刻には、会場にいた……。しかしそれは、 その時、会場にいた誰にでも言えることだ。我輩達を呼び出す理由にはならんぞ」 「そーよ。 それに私なんて、その時、ここにすらいなかったんだから!! 」 ちっちっちと由宇は人差し指を振り、 「重要なのは犯行時刻やない……。ほんの、10分間と言う犯行時間や」 「むう……あっ、なるほど。そうであったか」 一人大志が納得した顔をし、それを見て由宇は満足したようにうなずく。 しかし、話の流れについて行けない俺達はちんぷんかんぷんだ。 「おい、大志。どういうことなんだ? 」 「うむ。 例えば、同志和樹はたった10分間で、何千冊ある同人誌のうち、合作本のみを探し出し、 それを運ぶことができると思うか? 」 「そりゃあ、……ギリギリってトコかな」 「そう思うんが、シロートの浅はかさやな。 よう考えい、その仮説は「犯人は合作本がある」と知って いることが条件なんやで? ウチと和樹の合作本のことを知っとるのは詠美、そして和樹のダチの瑞希ちゃん と、九品仏はんだけや」 「それに加え、同志のブースにいても怪しまれない人物……この二つの条件を満たした者が、我々だった ということだ」 「そして、犯人もウチにはわかっとる」 ない胸をそらし、自慢げに言う由宇。 「犯人は……」 「詠美だろ、由宇?」 一瞬後、コークスクリュー気味の左アッパーが俺に飛んできた。 「なんで、アンタがそれを言うねん! それは、ワトソンのセリフとちゃうで!! だいたい、なんで アンタがわかったんや?」 「いや……だって瑞希は犯行時刻にはいなかったし、大志がそんなことやるようには思えないし……だと したら残るのは詠美だけだろ?」 正論である。 「そないな消去法で決めるなやーー!! ウチの考える探偵つーもんは、もっとこう……」 「ちょおおおおおおっと、温泉パンダとパンダの下僕!! 」 喚き散す由宇に、犯人扱いされた詠美が食ってかかる。 「なんや、犯人」 「誰が、犯人よ!! どおおおおして、この私がヘボヘボパンダサークルの本、盗まないとならない訳!? 」 「つーかなあ、オンドレしかおらへんし」 「きいいいいいいい、むかつく、むかつく、むかつくったらむかつくーーーー!! パンダのくせにーーーー!! 」 「なんや、やるんか? 面白いやないか。 難波のド根性、なめたらあかんでえ!! 」 何かこう、漫画のようにバックに稲光が走り、竜虎相打つといった感じだ。 喧嘩が始まった時点で、大志はどこかに去り、俺の側にいるのは瑞希だけだった。 「どうするの、和樹? こみパ、始まるよ? 」 「……止めてみるか?」 「止めとく……死にたくないもの」 くいっ、くいっ、くいっ ジージャンの端を引っ張られる感触。これは……。 「彩ちゃん、どうしたの? 」 振り返ると、オドオドしながらこちらを見上げる、彩の姿があった。 「……あの、これ……」 「これは、俺と由宇の合作本? どうして彩ちゃんがこれを? 」 彩は30冊くらい(前回のてつを踏まないよう少なくしたのだ)の同人誌を俺に渡しながら、 話してくれた。 「あの、搬入ミスで……私のスペースに置いてあって……」 「なーるほど、搬入ミスねえ……」 由宇と俺のスペース前では、詠美が由宇の腕に噛み付き、由宇が詠美を引っ掻くなど低次元な争いが 繰り広げていた。確かに客寄せにはなるかもしれないが……。 「……誰も買ってはくれねーだろうなあ」 俺は冷たくなること確定のサイフに手をやり、溜め息をついた。 了 こみパな座談会(後書に代えて) 神風「どーも。神風でございます、初めまして」 由宇「このSSを読んでくれてありがとーな。恩にきるでえー」 神風「いろんな人からSSのご指摘を受けつつ、なんとかできあがりました、 こみパSS第二弾、「難波の名(迷)探偵」!! 」 由宇「ちなみに第一弾は、「瑞希、揺れる思い」や。こっちも見てくれると 嬉しいなあ(コマーシャル)」 神風「今回はドタバタギャグに徹してみたつもりです。どーせ、推理SS なんて書けないし……」 由宇「まあ、どういうのが読みたいかは、その人次第やしなあ……。まあ、 手軽に読めるつーのもSSのタイプのひとつやろ? 」 神風「まあね。ああそうだ、言い忘れていた。感想くれた方全員に神風の 描いたCGを贈ります。はっきり言って下手(ピクシアを使います)ですが、 それ目当てでメールを送ってもいいですよ。「CGおくれ」とか(笑)」 由宇「どれくらいの人が、このSS読んでくれたのかってのは投稿作品じゃ わからんしなあ。もしかしたら、誰も読んでなかったりしてな」 神風「恐いこというなよ……それでは、またどこかでお会いしましょう」 由宇「それじゃあ、またなあー! 感想待っとるでえ」 神風へのメールは、ここ!! Kamikaze@mb2.seikyou.ne.jp