あなたにあえて その11 投稿者:グンヤ
「あ、出て来た」
 綾香である。現在、電柱の影に隠れてストーカー中である。
「なんか、人聞き悪いんですけど」
 事実だから仕方ない。それはともかく、隠れて様子を見ること数分、最初に姉の芹
香がセバスの運転する車に乗って出てきた。たぶんばれてはいないと思うが、芹香の
勘は普通じゃないので油断はできない。もう少し様子をうかがっていると目当ての人
物が来た。隻腕剣士、相馬純。右袖がなびいているから、遠目でもよくわかる。そし
て連れがいた。背の高い、
「へえ〜」
綾香ですら思わず見惚れてしまう優男。背格好からしておそらく副部長の源翔だろう。
「顔だけなら、まあ合格といったとこね」
 これでも褒めてるらしい。しかしこの虫も殺さぬように見える優男が一番情容赦の
ない練習をしてたのだからわからんものである。 
 かなり距離をとって後を尾けることにした。だんだん相馬という人物に興味が湧い
てきていた。同じ武道家ということもあるし、何よりあの姉さんを体育会の世界に引
きずり込んだ張本人である。それはともかく二人は商店街へと向かっているようだ。
もうすぐ昼である。たぶん何か食べるつもりなのだろう。綾香もお腹が空いてきてい
た。
「しっかし、あの二人……」
何と言うか、その、思いっきり人目を引く二人である。片や背は低いし顔は、まあ愛
敬はあるが美男子という基準からは地平線の彼方である隻腕の男。片や、背は高く、
それこそ目の覚めるような、道行く女性の十人中九人は振り返りそうな優男。そんな
二人が連れだって歩く姿はかなり目立つ。そんなことを考えているといつのまにか商
店街に着いていた。そして、
「あ、あれ?」
いつのまにか二人の姿がない。見失ってしまった。
「え、え〜と……」
周りを見渡しても見当たらない。通行人も多いし紛れ込んでしまったのだろうか。
「はあ〜」
仕方ないので、ここらで尾行は止めることにした。捜すことも考えたがそんなことに
労力を使う気にはなれない。第一、そんな事したらそれこそホンマもんのストーカー
である。もう十分なっている気もするが。それにお腹も空いている。
「なんか無駄に労力を使ったような…」
溜息を付く綾香。と、不意に耳元でボソリ、
「何か御用ですか」
「ひゃあっ!?」
叫びつつ思わず振り向きざま渾身の肘打ち。が、
「…!!」
むなしく空を切るだけだった。そして平然とした表情で立っている源。
「あぶないあぶない。あやうく直撃です」
苦笑する源。綾香は茫然としている。と、今度は
「ずっと、俺達の後を尾けていたな。何故だ?」
背後から声がした。相馬である。綾香は慄然とした。完璧に気付かなかった。それに
口調こそ穏やかだが、まるで白刃を突き付けられたような凄みがある。とても逃げれ
る状況じゃない。
「あ、えっと…その…」
返答に窮してしまった。どこから説明するべきだろう。その間、相馬と源は勝手に喋
っている。
「新手のストーカーさんですかね?」
「おい、お前のファンかもしれんだろ」
「ファンなら肘打ちを出したりしませんよ」
「あのなあ、耳元で囁かれたらびびるって」
「そうですかね」
「そうだって」
 勝手に話を進める二人に綾香が口を挟んだ。
「あのお〜、帰ってもいい?」
「「だめ」」
 源が綾香を凝視した。首を傾げる。
「どっかでお会いしたような…?」
「なんだ、知ってるのか。ひょっとして過去、お前が振った女の子じゃないのか?」
「違います」
「そおか〜、振った女は星の数なんてうわさを耳にしたんだが」
「誰です。そんな根も葉もないうわさ……一人思い当たる節がありますね……」
 同時刻、長岡志保という少女がくしゃみをしたが本編とは特に関係ない。
「お前に振られた腹いせに肘打ちを出したんじゃないのか?かわいそうに。よっぽど
 心に深い傷を……」
「そんなんじゃないわよ!!」
 思わず突っ込みを入れてしまう綾香。なんか話が変な方向に捻じ曲がってる気がし
てきた。いつのまにやら周りに人だかりができてる。美少女を取り囲む二人の男。相
馬達のほうが悪者っぽい…。
 と、そこへどっかで見たことのある車が向かってきた。相馬達の脇に止まる。物凄
い勢いでドアが開き、
「綾香おじょうさまあああああ〜〜〜〜〜〜!!ご無事でございますかああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 耳が痛い。説明するまでもなくセバスチャン。
「おのれ、この痴れ者があ!!成敗して………え……?」
 相馬と源の姿を見て固まってしまった。相馬も固まっている。
「そうだ」
 源はやっと思い出した。春休み前セバスに追いかけられてた芹香の妹。たしか綾香
お嬢様と呼ばれてた。車の窓がゆっくりと開く。芹香の顔がでてきた。
「げっ!!ね、姉さん……」
「姉さん!?」 
 相馬がかなり驚いている。
「…………」
 ……綾香ちゃん、何をしてたのかじっくり話してくださいね……
 芹香お姉さん、ちょっと怒ってる。どうなることやら……

                     続きます
 ものすっごくお久しぶりです。ごめんなさい。反省してます。
 きりきり書かんかい。おれ。(笑)
 久々野さま、感想ありがとうございました。やっぱ、こち亀
 のパクリだってわかっちゃいましたね。