あなたにあえて その8 投稿者:グンヤ
 期末試験が終わった。この世にこれほど解放感をもたらすものがあるだろうか?い
やない。それはともかく、相馬はう〜ん、と体を伸ばしほぐしている。源がやってき
た。
「ようやく終わりましたね」
「ああ」
「じゃ、先にいってますよ」
 源はとっとと行ってしまった。
「俺も行くか」
 鞄を持ち教室を出るとくいっと右袖を掴まれた。
「ん?」
「・・・・・・」
 芹香である。
「来栖川さんか。どした?」
「・・・・・・」
「え?今日の部活?ああ、今日は自主練」
「・・・・・・」
「俺か?俺はもち、やってくさ」
「・・・・・・」
 ……私も行きます……
「そっか、じゃ、一緒にいこ」
 試験明けということもあって少ない。相馬と源、芹香だけである。軽く体をほぐし
練習開始。この日二人は木刀を持って組太刀をした。二人一組で攻撃と防御に分かれ
て型をおこなうのである。これは『剣道』ではなく『剣術』だと芹香は教えてもらっ
た。相馬たちは『剣道』以外にもいろいろとやっているのである。二人とも汗だくに
なって型を練習している。真剣勝負の気迫でおこなっている。一歩間違えれば容赦な
い木刀の一撃がくるのだ。気を抜くことなどできたものじゃない。
 練習が終わった。時刻はお昼。御飯時である。相馬たちは中庭へと向かった。そこ
で弁当を食べることにしたのである。
「ありがと」
 芹香がいれてくれた麦茶を飲む。練習後のこの一杯がたまらなく美味い。三人は弁
当箱を広げた。芹香は家から持ってきた手作りのお弁当。相馬と源はコンビニ弁当で
ある。三人ともゆっくりと食べている。言うまでもなく一番のゆっくりは芹香だが。
「そう言えば試験のほう、どうだった」
 相馬が言った。
「僕はまあまあでしょうね」
「・・・・・・」
 ……好調です……
「ふうん・・・」
「自分は言わないんですか?」
「おれは・・・まあまあ・・・かな?」
「僕と同じですか」
「うん・・・まあ・・・」
 のんびりと時間が流れていく。のどかだった。とりとめのない会話を相馬と源がし、
芹香はポケー、とそんな二人を眺めている。これが『鬼』と呼ばれ畏れられる男達と
は芹香はどうしても思えなかった。相馬も源も剣を手にしたときの凄まじさは言語に
絶するが、平常はそんなところがまったくない。普段の相馬はいたってのんきでやや
口数の少ない男だし、源も似たようなものである。
「・・・・・・」
「うん?春休みですか?土日以外、練習やりますよ」
「・・・・・・」
「そっか、出来る限り来てくれるか。待ってるぜ」
「・・・・・・」
 しばらくするとセバスチャンがやってきた。
「お待たせいたしました、芹香お嬢様。ささ、お車へ」
「・・・・・・」
 ぺこり、と芹香は頭を下げ、立ち上がった。
「じゃな」
「明後日、学校で」
 セバスチャンも二人に軽く会釈をし、二人は車に乗って帰っていった。相馬と源は
のんびりとくつろいでいる。

 帰り際、芹香はよく行く古本屋へ寄った。いつものごとく魔道書を手に取る。何冊
か手にし、レジに向かう。ふと足を止めた。一冊の本を手に取る。剣道のルールブッ
クだった。しばらくそれを眺め、魔道書と一緒にするとレジに歩いていった。どうや
らこれも買うようだ。
「お望みの本が見つかりましたか?」
「・・・はい・・・」

 その日の夜、相馬と源は向かい合って何事か話し合っている。前にも述べたが源は
相馬家に訳あって寄宿している。ここは相馬の部屋である。今後の部の練習メニュー
について話している。
「もっと基本を重視したいですね」
「春休みあけたら、新入生も来るしな」
 ふと外を見れば、きれいな月だった。
「もうすぐ桜が見れますね」
「ああ、また夜桜が見たいな」
「夜桜より酒じゃないんですか?」
「うっせ」
 顔を見合わせ笑い出す。
「そうそう、来栖川さん。彼女にもいろいろやってもらいましょうか」
「そうだな。試合の記録とってもらったり練習試合の審判もしてもらおうか」
「できますかねえ?」
「お前、自分で言っといてそれはないだろう。……まあ、あの声じゃ審判は無理か」
 二人は苦笑した。もうすぐ春休み。それが終われば相馬たちは三年となる。高校最
後の年となるわけだ。芹香が入部し、そして新しい部員たちもやってくる。なぜだか
相馬はわくわくしてきた。剣道部がこれからすごいことになるんじゃないか?そんな
期待が心に浮かんだ。

          続きます
今回は平凡な一日をテーマに書きました。だからオチも見せ場もないです。
次回から春休みが舞台です。あの人が登場します。まだまだこの話は終わり
ません。

感想です
笹波 燐さま≪マルチ大地に立つ≫
おおうけしました。これでこそマルチ(笑)

Hi−waitさま≪IF・東鳩〜もしも生まれ変わりがあったなら≫
これ反則です(笑)突っ伏してしまいました。
 
とりあえず時間がきてしまったのでこのへんで