あなたにあえて  その7 投稿者:グンヤ
 現在の時刻、朝の七時半。生徒の姿もなく学校は静まり返っている。ある場所を除いて。
 ズシン!!ドシン!!バシン!!
 剣道場である。相馬と源だった。相馬の朝はとてつもなく早いのである。一度、寝坊と
いう不覚をとってしまったが、普段は五時には目を覚まし、二十キロの振り棒を二千回振
りそして道場にて朝練といく。いつもは相馬と源、二人だけである。強制ではないし、そ
れに試験も近い。が、今日はさらに二人いた。芹香とセバスチャンである。あれから、芹
香はちょくちょく道場に来ていた。それだけでなく、皆に飲み物やタオルを配ったりとし
てくれている。相馬も、もう何も言わなくなってしまった。本人がやりたがっているのを
無理に止めるのはかえって悪いと思ったためだ。部員たちも結構喜んでいる。芹香に傷の
手当てを受けながら嬉し泣きに泣くような連中である。
「みんな、女性に無縁だもんなあ」
練習後、相馬と源は顔を見合わせ苦笑した。で、とうとう芹香は朝錬にまできてしまった。
何故セバスチャンまでいるかというとあまりに早く学校に行くという芹香を訝しがってつ
いてきたのである。
「芹香お嬢様はいつもこちらへ?」
「いえ、最近です」
 小休止の相馬が言った。
「来栖川さん、いろいろと手伝ってくれてます。こっちが申し訳ないくらいに」
 と、源。
「そうでしたか」
「・・・・・・」
 ……いいのです。好きでやっている事ですから……
 じっとセバスチャンは芹香を見つめていたが、ややあって、
「そうですな。このような事も社会勉強として必要ですな」
 と言った。意外だった。てっきり、このような事やめさせて頂きたい、と言われるかと
相馬も源も思っていたのだが。
「ただし・・・お怪我のないようにして下され」
 こくんとうなづく芹香。
「それでは私はこれで」
 セバスチャンが立ち上がった。相馬は見送りながら小声で聞いた。
「よろしいのですか?」
「・・・あなた方でしたか」
「・・・え?」
「芹香お嬢様が元気な理由は・・・」
「・・・?」
「お嬢様をよろしくお願いします」
「は・・・はあ・・・」
 不思議そうに相馬はうなづいた。  

 放課後になった。今日は部活はない。試験前だからである。で、相馬はオカルト研究会
へと足を運んでいる。いつもいつもすまないので差し入れを持っていくことにしたのだ。
『……今日はオカルト研究会がありますので……』
と言っていたからいるはずである。ほかの皆も行くといったが、ジャンケンで相馬に決ま
った。
 コンコン、コンコン、
「来栖川さーん、いらっしゃいますかー?」
 コンコン、やや間があって、ガチャリと芹香が顔を出した。
「・・・・・・」
「うん、ちょっと用事があって。今大丈夫か?」
「・・・・・・」
 ・・・どうぞ・・・
「お邪魔しまーす」
 中は相変わらずだった。人形やら、魔法陣やら、怪しい植物やら・・・。
「今日も魔法の実験か?」
「・・・・・・」
 違うらしい。もうすぐ試験に春休みと休みが続くため部員全員で大掃除をするという。
「そっか。そりゃ都合が良かった」
「・・・・・・」
「これ、お菓子の差し入れ。部員の人たち皆で食べて」
「・・・・・・」
「いいって、お世話になりっぱなしじゃ申し訳ないしさ。掃除も手伝うよ」
「・・・・・・」
「ところでほかの部員さんは?」
「・・・・・・」
 ・・・全員きてます・・・
 相馬の目の前をダンボール箱がふよふよと通り過ぎた・・・。
「・・・・・・」
 ・・・それはこちらにお願いします・・・
「・・・えっと・・・あの・・・」
 よーく見るとホウキ、チリトリ、雑巾がひとりでに動いている・・・。この日、相馬は
生まれて初めて幽霊と一緒に掃除をすることとなった。

 ちょうどそのころ先に帰った源はのんきにあんみつなんぞ食っていた。源は甘いものが
大好きなのである。おいしい店をいくつも調べてチェックしているらしい。過去、奢って
やるというので藤田は源についていった事がある。着いたところはケーキバイキングの店
だった。客の大半が女性の中、男二人向かい合ってケーキを食う・・・。あまりの居心地
の悪さに藤田は逃げ出したそうな。それはともかく、心地よい日差しの中、野外席であん
みつを食べてると見知った顔が。
「セバスチャンさん!!」
 男が振り向く。
「源殿。今日は剣道では?」
「試験前で休みです。セバスチャンさんこそ何を?」
「いえ・・・その・・・人とはぐれてしまいましてな・・・」
「来栖川さん?彼女はまだ学校じゃ・・・」
「いえ、芹香お嬢様の妹様でして」
「へえ、来栖川さんに妹さんが・・・。やっぱり物静かな人なんでしょうね」
「・・・・・・」
 なんともいえぬ表情をセバスチャンはした・・・。その時、
「はーあ、ほんとやんなっちゃうわよ」
 誰か客が来た。ぴくりとセバスチャンの表情が変わる。客とセバスチャンの顔が会う。
「げっ、せ・・・セバス」
「見つけましたぞおおおお〜〜〜〜、綾香お嬢様〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「や、やば!!」
「お待ちくだされええええ〜〜〜〜〜〜!!!」
 二人は突風とかして消えていった。呆然とする源・・・。

「遅いね、セバス殿・・・」
「・・・・・・」
 掃除も終わり、中庭のベンチで二人は休んでいた。モゴモゴと差し入れのお菓子を食べ
ている。『一人では食べきれませんから』というので頂くことにした。で、なんとなく迎
えの車が来るまで一緒に待っていることにしたのだが来ない。
「なにかあったのかな?」
「・・・・・・」
 なんとなく芹香は察しがついた・・・。
「ところで来栖川さん」
 真剣な顔で相馬が言った。
「・・・・・・」
「もし、よかったらうちの部のマネージャーになってくれないか?」
「・・・・・・」
「来栖川さん、結構楽しそうにやってるし、部員の皆も喜ぶと思う。もちろん無理にとは
 言わない。いろいろと忙しいだろうし・・・」
「・・・・・・」
 ・・・私に出来るでしょうか・・・?
「そんな、難しい事やらせたりしないよ。出来ることをやってくれればいい。それにわか
 らないことがあれば聞いてくれればいいし」
「・・・・・・」
「どうかな・・・?」
「・・・・・・」
 ・・・私でよろしければ・・・
「そっか、ありがと!!」
 相馬が左手を出した。
「・・・?」
「握手」
 ゆっくりと手を握った。
「これからよろしくお願いします。マネージャー殿」
 こうして剣道部にマネージャーが誕生した。とてもいい天気だった。
   
               続きます
 まだまだ続く、この話。いったいいつ終わるやら・・・

 感想です

 takatakaさま
 あははははは、坂下が、坂下が壊れてる。おおうけしました。

 vladさま
 主役が誰か途中までわかりませんでした。いい話です。

 久々野さま
 ああ、なんかみんな壊れてる(笑)ここまでキャラを自在に動かせると
 はすごいの一言です。
 
 るんるんさま
 浩之はいったい何をしたんだろう・・・
 
 時間が来たのでこのへんで・・・