あなたにあえて その5 投稿者:グンヤ
 今日は卒業式である。といっても相馬たちのではない。彼らはまだ二年である。
「二年生は卒業式の後片付けをやるから帰らないように」
 教室がため息に包まれる。
「めんどいよなあ」
 相馬が呟く。
「来年は僕たちですね」
「そうだな・・・」
 なんとなく来年の自分を想像してしまう。何をしてるやら。まあ、まちがいなく剣
は続けているだろうが・・・。ちなみに二人とも進学である。クラブでの活躍もあっ
て推薦の話もあり結構余裕らしい。ついでにそれなりの学力の持ち主でもある。
「来年はともかく、今は先輩方を見送らんとな」
「で、その後、片付け」
「はあ・・・」
 式というのは退屈なものである。相馬と源はクラブの諸先輩方の卒業ということも
あって厳粛にしていたが、チラッと周りを見ると爆睡している藤田・・・
「しょうもねえ奴だ」
 内心苦笑してしまった。
 やっと式が終わった。卒業生の退場とともに片付けのはじまりである。感傷に浸っ
ている暇なんぞなかった。ちなみに一年生は帰宅である。
「ほいほいほいほいほい」
 次々にイスをたたみ肩にかつぐ。左腕だけで五個も相馬は持っている。
「ん?」
 来栖川嬢だった。両手でたたんだ椅子をもち、ゆっくりゆっくり運んでる。相馬が
彼女のもとに行った。
「・・・?」
 不意に持っていたイスが軽くなり来栖川嬢は顔を上げた。相馬だった。
「日が暮れるぜ。そんなゆっくりとしてたら」
 ひょいと肩にかつぐと相馬はスタスタ持っていってしまった。そんな相馬の背中を
ぽけ〜、と見つめる来栖川嬢。
 やがて誰が言うわけでもなく男子たちは卒業生の会食会場へと向かう。実を言うと
これが一番の楽しみなのだ。このために片付けに参加したといっても過言じゃない。
残った食べ物を自由に持っていってかまわないからだ。
「まだか、まだか」
じっと待機する生徒たち。相馬も例外じゃない。会食会が終わった。卒業生が退場し
た。その瞬間、待機していた二年生たちが駆け込んだ。みんな片付けそっちのけで食
料の回収である。なかにはポリ袋持ってきて片っ端から食べ物を放り込んでる奴まで。
その後、片付けに入るのだが、その時になると何故か最初の時より人数が減ってしま
っているのはお約束である。相馬と源はきちんと片付けに参加した。イスとテーブル
を拭き、片付け、そして床掃除にゴミ捨て、と全部終わったときには夜の七時。
「みんなお疲れ様。これで後片付けは終了です」
 最後まで残った生徒達の間でなぜか拍手が起こった。
「あーあ、お疲れ、ゲン」
「疲れました」
「ま、でも戦利品もあるし」
「まあね」
 ぽけ〜、としている来栖川嬢を見かけた。
「お疲れ様」
 相馬が声をかけた。ゆっくりと振りぬく来栖川嬢。
「どこで掃除してたんだ?ここじゃ見かけなかったけど」
「・・・・・・」
 どうやら会食会場ではなく卒業式場のほうを片付けていたようだ。
「じゃあ、残り物とか何も貰えなかったか」
 相馬はポケットを探った。あった。
「これ、あげるよ」
 シュークリームだった。
「・・・・・・」
「いいって、いいって。掃除がんばったご褒美」
「遠慮することないですよ。相馬、十個も食ってましたから。それにほら、ポケット
 の中もお菓子でパンパンですからね」
「甘いもの、嫌いか?」
 ふるふる。
「それじゃ、ほら」
 ゆっくりと来栖川嬢は手に取った。相馬はにっこり笑うと、かばんを持ち、
「それじゃあな」
 手を振って歩き出した。
「それじゃ」
 と源。ぽけ〜と来栖川嬢は二人の背中を見つめていた。
「おまえら、来栖川と知り合いか?」
 クラスメートが聞いてきた。
「いや、知り合いってほどじゃ・・・」
 と、相馬。
「あまり関わらんほうがいいんじゃねえの。相当変人だっていうし。オカルト研で怪
 しげなことしてるっていうし・・・」
「あまり他人を悪くいうものじゃないですよ」
 と、静かに源。
「でもなあ、気味悪いじゃん。いつもぼ〜、としてて、何考えているのかわかんねえ
 し、言ってることもわかんねえし・・・」
「そうか?」
 たしかに彼女、声は小さい。だが相馬も源もちゃんと聞こえている。まあ、二人の
耳が良いというのもあるが。それはともかく、なんでも最初のうちは容姿も手伝って
話しかける男子もいたがあの間についていけず、そのうえ黒服の男たちが彼女に近づ
く男たちを排除しているという噂もたち誰も近づかないという。女子も何だか気味が
悪いと彼女を敬遠してるらしい。
「ふうん…」
 相馬が振り向いた。来栖川嬢はまだいた。ゆっくりゆっくりと歩いている。相馬は
歩き出した。無言である。源も無言。黙り込んだ二人に、
「じゃ、じゃあな」
 クラスメートは走り去っていった。

「芹香お嬢様、どうぞお車へ」
 静かに来栖川嬢が乗り込む。
「何か、御ありでしたか?」
「・・・・・・」
「いえ、うれしそうに見えましたもので」
「・・・・・・」
 来栖川嬢は外を眺めている。月が綺麗だった。 

                     続きます
 
 やっと五話(苦笑)ちなみにこの話は私の母校が元ネタ
 になってます。あ、私はちゃんと最後まで片付けました。
 逃げなかったです。ゲーム本編で二年は卒業式の後片付
 けという一文があったのでこれを思いつきました。芹香
 さん、あまりこういうの得意じゃないでしょうね。動作
 がゆっくりだし。

 感想くれた皆様ありがとうございます。がんばってまし
 な作品にしていきますので見捨てないでください。
 
  vladさま
 すいません、同一人物です(笑)鬼狼伝あいかわらずおもろいです。
 
 るんるんさま 
 あはははは、いいですこれ。

 未樹 祥さま
 実は自分も相手が誰か考えずに書いてましたので雅史かもしれませんね

 takatakaさま
 おおう、シリアス。すごいですね。ギャグもシリアスも両方かけるなんて

 うくふにさま
 こ、こわいっす(笑)
 ほかの皆様の作品もみな読んでおります。皆さんほんとにおもしろい