マルチの結婚式 楽屋裏にて 投稿者:グンヤ
 着替えを済ませた浩之は柄にもなく緊張していた。今日は一生に一度あるかどうか
という大役を果たさなければならない。この日、HMX−12マルチの結婚式が行わ
れる。
「やっほう、ヒロ。準備のほうは・・・ぷ・・・ぷくく・・・あーはっはっははは!いいわよ、
 ヒロ。もう最っ高!!全然似合ってない!!」
「く・・・」 
 わかっている、そんなこと。自分自身、鏡を見て笑ってしまったのだから。だが、
志保に言われるとものすごくムカつく。
「まったくあの子も何考えてんのかしらねえ。こんな悪人面にまさか神父になってくれだなんて」
「けっ、誰かさんと違ってマルチの曇りのない目にはオレのエンジェルハートがわかるんだよ」
「よく言うわよ。ああ、かわいそうなマルチ。こんな悪魔に祝福されてしまうなんて」
 無言で浩之は手近にあったコップを投げる態勢にはいった。脱兎のごとく志保が逃
げる。やれやれと、浩之は椅子に腰掛けた。あらためて神父の服装をまとった自分を
かえりみる。似合わねえよなあ、つくづく思う。志保でなくてもからかいたくなるだ
ろう。皆にも散々言われた。口をそろえて「似合わん」と言われ「悪魔神父」とも、
「極道神父」とも言われた。だが、マルチもそして「あいつ」もどうしても浩之に祝福
してもらいたいと言ってきかなかった。そんな訳で皆の笑いにさらされつつも浩之は
頑張っている訳である。
「ふう・・・」
 本番でとちらぬよう聖書を朗読していた浩之だったが、ふと、目を離し外の景色を
見つめた。
「もう十年になるんだなあ……」
 マルチ達と出会って。運用テストのため学校にやってきたマルチ。マルチとあいつ
はいつも一緒にいたような気がする。浩之やあかりもマルチの掃除を手伝ったり皆で
遊びにもいった。浩之はあいつがマルチを見つめる目がしだいに機械を見る目でも、
友達を見る目とも違う、もっと、深い感情がこもっているいることに気付いた。どち
らかというと鈍い浩之が気付くくらいである。当然ほかの皆も気付いていた。
 運用テストが終わり学校を去る時、マルチは泣いていた。あいつは必死に何かをこ
らえてるようだった。浩之はかける言葉もなく二人を見つめることしかできなかった。
その後、多くの人のはからいであいつのもとにマルチが戻ってこれた事を知った。心
から良かった、と思った。あいつののろけ話に付き合わされるハメにもなったが……
 だが、人と機械が結ばれる、問題にならない訳がない。二人は多くの壁にぶつかっ
た。社会的にも、精神的にも。世間にはあらぬ噂が立ち、マスコミにもさんざんぶっ
たたかれた。そして、二人もやはり心のどこかに不安を抱いてたのだろう。人である
こと、機械であることに。あかりはよくマルチに相談を受けていた。浩之もあいつの
悩みを聞いてやった。励まし、力づけた。浩之もあかりも、二人の力になりたかった。
とうとう世論の波に押されマルチが廃棄されかけたこともあった。浩之達は奔走した。
間一髪、浩之は間に合った。もちろん、一人では無理だった。芹香先輩、綾香、セリ
オ、長瀬主任、あまり認めたくないが、志保。皆の力があり、そしてマルチとあいつ
のお互いを思う強い心があったからできた。そして紆余曲折を経て、今日という日を
迎える。もちろん法律的にはできない。だから使われてない教会を借り、浩之が即席
神父となって式を行う。
「ひろゆきちゃん」
 あかりが部屋に入ってきた。結婚五年目にもなってまだちゃん付け・・・
「こっちはもう準備オッケーだよ。マルチちゃん、すっごくきれいなんだから」
「そうか」
「・・・ねえ、浩之ちゃん。マルチちゃん、幸せになれるよね・・・」
「・・・さて、これからだな」
 まだ、世間のメイドロボを見る目は冷たい。
「前にも言ったが人が人にあらざるものと結ばれればどこかが歪み問題が生じる・・・」
「浩之ちゃん・・・」
「まだ社会が黙っちゃいないだろうし、それ以外にも・・・」
「ひろゆきちゃん!!」
「・・・だけど・・・マルチもあいつもほんとにいい奴らだよ。あんないい奴らが幸せ
 にならなきゃ嘘だ。もし周りの連中があの二人の幸せを認めないなら周りの方が歪ん
 でる」
「ひろゆきちゃん・・・」
「周りがどうなろうと俺たちは俺たちさ。これからもあの二人を見守り続ける。だろ、あかり」
「・・・うん!!」
 志保がきた。
「時間よ〜〜。エセ神父」
 パコン!!いい具合に命中である。
「いったいわねえ、何すんのよ」
「天罰じゃ」
 浩之が歩き出す。多分会場には緊張してカチコチになったあいつが待っている。幸
せな泣き笑いを浮かべたマルチが待っている。あの二人なら何が起きようとも乗り越
えていけるはずだ。そして見守っていこう、あの二人の幸せを。

   ふたりに神の加護があらんことを・・・・・・

                   終わりです
 
 なんとなくネタが浮かんだので書いてみました。いかがでしょうか?
 ・・・はい、もっと精進します・・・皆さんはマルチをどのように見
 てますか?私はマルチを恋人と見ることができません。友達あるいは
 娘にしたいとはおもいますが・・・そんな訳でプレイヤーの分身であ
 る浩之くんには神父さんになってもらいました。しかし想像してみま
 したがにあわんです、ほんと。「あいつ」とはだれかは皆様の想像に
 おまかせします。「おれだ」でも結構ですよ(笑)
 「あなたにあえて」期待していてくださる方ほんとにありがとうござ
 います。中味はともかく必ず完結させますので。それではまた・・・