ハンターエルクゥBLACK 〜記憶〜  投稿者:川村飛翔


俺は走った。
エディフェルを失った悲しみと振り払うように。
こんなに長い時間走ってるのに、俺の身体に疲れは見えない。
今の俺の体力が、人間のそれを遥かに越えてるからだ。

…ヒュウゥゥゥッ!

俺の耳に風を切る音が響く。
地平線の下まで沈みかけてる月が、淡い光を皓々と地面に照らす。
その光を見た俺は、夜明けが近いのを知った。
そして、あれから月の傾き方から判断しておよそ四半刻。
鬼の体力を持ってしても、流石に身体が疲れてくる。
全裸の状態で走ってる所為か、時折何かに引っかかって身体に血の線が走る。

……ピーン…!

(…殺気!?)
頭上に異質の殺気を感じた俺は、地面を蹴って後ろに跳ぶ。
俺の眼前に別の、風を切る何者かの影が現れる。
その直後、少し先の地面が抉れるのが見えるのと同時に砂煙が舞う。
一体何なんだ?
俺は少し後ずさり、謎の影との距離をとる。
いつでも戦えるように身構えてると、次第に謎の影を覆っていた煙が晴れる。
目の前のそれは、姿大きさは人間とあまり変わらない。
だが、身体から発する「気」は、人間が出せる物とはまるで質が違う。
この威圧感、リズエルと闘ったときの感覚とよく似ている。
こいつら、リズエルと同じ質のエルクゥだな…。
直感的にそう感じた俺はとっさに身構え、奴らに対する防御をとる。
煙が晴れていく内に、影が二人、三人へと増えていく。
目の前のエルクゥ達が一歩進むごとに、俺は一歩後ずさる。
そうこうしながら、俺は何とか距離を保つ。

ヒュゥゥゥ…!

風が吹き、煙が完全に晴れると、真ん中のエルクゥが口を開いた。
いや、正確には俺の心に語りかけてきた。
「探しましたぞ…第一皇族の新しき長の資格を持つ、我らの御子よ!」
御子、というくだりに少々疑問を感じた俺は、
…御子だと?
俺の心の声が通じたのか、真ん中のエルクゥが頷く。

「…俺は天皇家の出身じゃない。そして、お前達の一族から生を受けた覚えもない!」
俺が強く言い放つと、今度は右側の女の姿をしたエルクゥが語り出す。
「現実から逃げてはいけません!命の炎を刈り取る者『ブラック・サン』!」
「ブラック…サン?…違う!俺はハンターエルクゥブラックだ!」
俺の言葉を無視し、エルクゥの女はそのまま続ける。
「貴方様は、ダリエリ様より授けられたヴァトラストーンを体内に収め、
今は亡きエディフェル様の行った血の儀式により、すでに人間ではありません。
我らエルクゥの第一皇の御子、狩猟王ブラック・サンなのです!
脆弱な獲物でしかない人間などに味方せず、我らの元に来るのです…!」
「もしも我らと同行する気がないのなら、強制的にでも連れていきますぞ!」
左側にいたエルクゥが一歩前にでる。
まずいっ!
危険を察知した俺は、急ぎ鬼になる為の構えをとる。
左手を腰に、右手を前に突き出し、すぐに右胸付近で両拳を握りしめ構えをとる。
(俺の身体よ…目覚めろ!)
俺はリズエルとの戦いの時と同様に念じた。

…何も起きない。
不審に思った俺はもう一度念じてみた。
しかし、身体から噴き出すはずの闘気が出てこない。
俺の行動を見て、再び左側のエルクゥが語り出す。
「どうやら、今の貴方様は戦闘形態に変身したくても出来ないご様子で…」
「先の戦いの変身で、貴方様に選択を与えられる機会を失ったのでしょう…」
「今変身が出来ずに戦えぬのならば、我らと共に来るのです!」
口々に俺の心に語りかける三人のエルクゥ達。
こんな所で捕まったら、エディフェルとの約束が守れない!
俺は全速力で逃げ出そうと試みた。
「逃げても無駄だ!」

…ヴン!

真ん中のエルクゥ声が聞こえた直後、俺の身体はまるで巨木に
縛り付けられた様に動かなくなってしまった。
「…身体が…言うことを聞かない…!?」
何とか動く口を使って喋ってみると、
「全ての皇官の長でもあるダロエルの念動力の前では、
たとえ変身前とは言え、貴方様でも身動きは出来ますまい…!」
声のする方を、目で探してみた。
右、左、前。
あちこちを見回してみたが、どこにも姿は見えない。
後ろから聞こえてきてるとも思ったが、声は届いてこない。
俺は自分の感覚を疑った。
常識的にあり得えないと思いつつも、俺は声のする方に目を向けた。
「ふふふ…どうだ、我が念動力の味は?」

…馬鹿な!?

俺の中にあった常識は軽く覆された。
エルクゥの皇官達は、空に床があるかの様に空中に立ってたのだ。
「事を円滑に進める為に、まずは変身に関わった記憶を消去し、
もう一人の狩猟皇の元で本格的な記憶消去を行う…」
「そして我らエルクゥとしての記憶を刷り込み、本当のエルクゥの皇を仕立て上げるのだ!」
「もうすぐ、生命起動実験が終了されたもう一人の狩猟王が目覚められます。
全てが終わったとき、それが我らの狩りの時!この星の生命が全て尽きる始まり!」
エルクゥ達が歌い上げるように喋り出す。
耳で聞くのでは何を言ってるのかよく分からないが、精神ではよく分かる。
先ほどから必死に動こうとしても、俺の身体は縛られた様に動かない。
「我ら三皇官から逃げられる術はない…」
誰かが言った。
「さあ、ご一緒に!我が御子よ!」

ヴヴゥ……ゥン!!

その言葉の刹那、耳障りな音が聞こえた。
同時に、俺の身体が注に浮き始める。
俺は必死に抵抗するが、それも徒労に終わった。
「…くっ!…うわぁぁぁっ!」
空中での足掻きも効果なく、俺の身体は上へ引き上げられる。
俺がエルクゥの皇官達と同じ高さまで身体を
引き寄せられたと同時に、強力な光を浴びせられた。
その光が何なのかは分からないが、俺は迂闊にそれを直視してしまう。

…なんだか……急に眠く…なって…
……こんな…所で…終わる…なんて…な…
俺…いったい…この後…どうなるのか…

次郎衛門の意識はそこで途絶えた。




それから幾ばくかの時が過ぎた。
次郎衛門は、今は翼を亡くしたヨークの中心部に近いところ、
数刻前に柳川裕乃進がエルクゥに改造した部屋に寝かされていた。
そしてその柳川裕乃進も、次郎衛門と同じようにされていた。
ただし、平坦な台などではなく、横糸のみのハンモックの上である。
彼らの間の空間には、エルクゥ三皇官が控えていた。

「改造肉体の微調整が終了し、これで全ての準備が整った…。
最後に完全なる記憶の操作を行えば、後は二人の狩猟王の戦いだけだ…」
ダロエルは次郎衛門と裕乃進を交互に見ると、
「どちらかが力つきるとき、生き残った者が次期生命皇となる…」
ダロエルの言葉に、ビシュエリが頷く。
しかし、バラオエルはダロエルに詰め寄ると、
「ダロエル。今度は先ほどのように、消したはずの人間の
時の記憶が再度戻るような失敗を犯さぬようにな!」
ダロエルはバラオエルを手で制すると、
「今度は抜かりはない。先ほど第一候補を回収したときの結果から、
次はどの程度調節すればいいのか、既に感覚は掴んでおる」
ダロエルは一呼吸の間を置き、
「…これより、第一候補に記憶の再度上書きを開始する…」




俺は一体どうなったのか。
あの宙に浮く事が出来る三皇官と言ってたエルクゥ達に
捕まってからの記憶がない。
それはまだいい。
俺の意識は少しずつ戻りつつあるが、何かが足りないような気がする。
俺には、何かしなければならない事があったはずだ。
何かしなければならない事を告げられたはずだ。
名前すら思い出せない、何者かに。
姿見えぬ誰かに。

じゃあ、そこまで忘れている俺は誰なんだ?
柏木次郎衛門。
そう、それで合っているはずだ。

だったら、何故俺は雨月山の鬼のことをエルクゥという
種族だと言うことを知ってるのだ?
俺は確かに…鬼を討ちに雨月山に来たはずだ。
何故鬼達をエルクゥと呼んでしまうのか。
ありとあらゆる事を忘れてるが、何故だか討伐隊の仲間は
全て返り討ちにされていることは覚えている。
そこまでは覚えてても、そこから先の記憶が空白だ。
一体俺はどうなったのか、何故一人だけ生きているのか。

いや、まだ、生死の確認が出来てないのが一人。
柳川裕乃進…一応俺の叔父だ。
鬼共に連れ去られてからというものの、行方がまるで分からない。
俺の目が覚めていく内に、話し声が聞こえてくる。
「…これより、第一候補に記憶の再度上書きを開始する…」
…第一候補?…記憶の上書き?
どこからか聞こえた言葉は俺の意識を呼び戻した。


まず最初に俺の視界に入ったのは、自分の頭から爪先まで、
各部位の左右から暗い天井に向かって伸びる、
赤や青に染まった、何本ものの荒縄に見える物だった。
背中に感じる感覚から、縄が身体の左右から伸びてるのではなく
掛け軸の紐のように右と左の縄は繋がっているのだ。
何本もの輪紐の上に引っかけられる様に乗せられているから、
紐で出来た浮き床と言ったところか。
動く首を使って左右を見回すと、エルクゥ三皇官の後ろ姿が目に入った。
自分の方はと言うと、一応服らしきものは着せられている。
そして、その皇官達のいる奥の方に、俺のよく知ってる人物がいた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ごぶさたしてます、川村飛翔です。
前回までと今回との間隔が空きすぎてよく分からなくなってます
のはご容赦ください。
今回のお話は本物の話のセリフを一部パクってますので
お暇な方は探してみてください(笑)ヒントは1〜3話の間です。
あ、三皇官というキャラの名前も本物とあまり変わらんな(汗

そういえば、このお話の基となるシリーズが来年新しく登場するらしいので
ある意味この作品は時事ネタになりそうです(笑)

では、前回分のレスです
テーマ曲の感想もありがとうございます

>>ギャラさん
>……マルチ、合掌。
>仮にもロボットなんですから、それくらい予想しろという気もしますが(笑)
セリオだったら予想可能な代わりに何の反応もなさそう・・・(^^;

>>久々野彰さん

>委員長が突如現れるのはちょっといきなりな気もしましたが(笑)、
振り子の運動エネルギーを計算した値{ V^2=2gl(1-cosθ) }が
すぐに出そうな人が他に思いつかなかったんで・・・(^^;;;

>確信犯な長瀬は兎も角、少しは彼らに想像力を持って欲しいと思ったりしました(笑)。
今の企業なんて大概そんなもん(ぉ

>切り離されてその勢いで宇宙まで翔けるマルチが見たかった・・・
そうなると宇宙まで飛び出す為に必要な速度をつけなきゃいけないから
更なる地獄を味わいそうですねぇ(^^;;;;

>しかし、実験用の砂袋のような扱いですね(笑)。
ハ○ジもこれ以上の体験を毎週欠かさずやってるんだから
扱いもへったくれもなくなるような気が・・・(ぉぉぉ


>>夜蘭さん
感想ありがとでし(^^

>みんながみんな無茶を言っているのが、面白かったです。
プロット抜きで書いてたので私自身どうなるかわかりませんでした(ぉ

>来栖川の科学力は、まさに地球防衛軍並みなのですね(笑) 
某超人を送り届けるためだけの組織か(笑)

>初め、シリアスかと思い読み進めていたので見事に騙されました(笑)
真面目な話苦手だもん(^^;


>日々野英次さん
ここ最近この掲示板覗いてません m(__)m

>今回は雰囲気だけ作りたくて勝手に合成ドラッグを作っちゃったし…
怪しいページでそれっぽいもの探して効能なんか書くと
雰囲気は高くなりますが・・・もう遅いですね(--;

>レミィを取り扱う?
>常人では考えないぞそれわ!
>まず彼女に言葉を理解させる必要があるような気がしますよ…
大丈夫です。私の周りには危険人物取り扱い者の資格が
取れそうなヤツが何人かいるので問題無しです(^^;;;;
そのうち問題集でも作ってみますか(ぉ

では、この辺で
http://members3.cool.ne.jp/~khrj/