「今の瞬発力に、肉体能力…あなた、人間じゃないわね」 我を取り戻したリズエルが、俺に問いかける。 そして俺は言った。 「俺はエディフェルによって…人間からエルクゥに、生まれ変わった!」 俺はリズエルを睨み付けると、 「お前にエディフェルを殺させはしない!」 俺の言葉を聞いた後、リズエルは、 「…人間からエルクゥへの肉体改造ね…。 でも、それだけじゃあなたのその力は理解できない…。 …もしかして、エディフェルがヴァトラストーンを埋め込んだ人間って…」 「…そう、この人よ…」 今言ったのは俺ではなく、俺の背後に立っていたエディフェルだった。 「エディフェル!」 彼女に体力はほとんど残って無く、立つのがやっと、と言う感じだ。 「…エルクゥの…細胞を…確実に…人間に根付かせるには… …こうするしか…方法が…なかったの…」 エディフェルは傷口を押さえて、訴えるように語り出した。 彼女の言葉を最後まで聞いていたリズエルは、 「…血と力の源の相乗効果ね…でも…」 シャッ! 「戦闘経験が無くては、意味がないのよ!」 叫びながら跳躍したリズエル。 俺はその後にやってくるリズエルの攻撃を、紙一重で避ける。 続いてやってくる爪攻撃を、俺は何とか避ける。 残念だが、今の能力では紙一重でかわすのが限界らしい。 だが、紙一重で避けても、爪から巻き起こる風が、俺の皮膚を浅く切る。 このままでは、俺は勝てない。 リズエルの方にはエルクゥの肉体で一日の長がある。 今さっきエルクゥになったばかりの俺には、まだこの肉体をうまく扱い切れない。 形勢不利だ。 (…モン……ジロー…エモン…) 不意に、俺の耳に誰かの声が聞こえた。 (誰だ!?) 俺は心の中で叫んだ。 (…ジローエモン…私…エディフェル…) (…エディフェル!?) 俺は驚愕した。 (今…私の意識を…信号化して…あなたの心に…話しかけてます。 …私の…命の炎が…消える前に…私の話を…聞いて下さい…) エディフェルの声が途切れ途切れに聞こえてくる。 (…あなたの身体に…埋め込んだのは…エルクゥの皇の証。 最強の…エルクゥに…なることが…出来る…力の源…。 その力を…十分に…発揮…出来れば…あなたは最強になれる…。 お願い…あなたの…本当の力を…覚醒させて…) エディフェルが涙声で言葉を伝える。 (でも、一体どうするんだ!?) (…念じて下さい。…あなたの中に…感じる力が…外に出るように…。 そうすれば…あなたの肉体は…戦闘用に…変身します。 さあ…早く…じゃないと…あなたまで…リズエルに殺される…) (…分かった!) シャッ! 俺が決意を固めた直後、リズエルの爪が再び地面を抉る。 俺は、一瞬そこに出来た隙を逃さなかった。 彼女の防御が僅かに崩れている部分に足を突き出した。 俺の蹴りはリズエルの肩に決まり、彼女を遠くに吹っ飛ばした。 それと同時に、俺は念じた。 (俺の身体よ…エディフェルの為に目覚めろ!) …コォォォォォォッ! それと同時に、俺の身体から凄い勢いで何かが吹き出した。 恐らくこれは…闘気だ。 リズエルは、俺の吹き出す闘気に驚愕し、動けずにいる。 俺はそのまま両拳を握りしめ、上体を横に捻って一つの構えをとる。 その後、すぐに上体の捻りを戻し、両腕を上下左右に動かして一つの型を作る。 だがその動きは、身体が勝手にではなくて、身体が自然に動き出す感覚だ。 俺が生まれた時から、この動きを覚えているような自然さがある。 一通りの動きが終わると、急に身体が熱くなり始めた。 腹のところが膨大な熱を持っている。 身体の中に燃え盛る熱の玉があるような感覚。 俺は身体の奥底から沸き上がる何かを、外に出すように念じた その直後、俺の身体のあちこちが変化を始めた。 …ギシッ…ギシギシッ…! ……ギシギシッ…ギシッ…! …ビリビリ…ビリッ…! 四肢の筋肉が大きく盛り上がり、体重が増加する。 そして身体の筋肉は肥大する度に軋み、着ていた着物が音を立てて破ける。 俺の身長も、普通の人間の倍以上に増大し、身体全体の皮膚が漆黒に変色する。 肉体の変化が終わると、俺と同じくらいの身長だったはずのリズエルが 少し小さく見え、俺より小さいエディフェルは拍車を掛けて小さく見えた。 そして、再び大量の闘気が、俺の身体のあちこちから吹き出す。 (…あなたは…もともと…エルクゥに近い人間…) 再びエディフェルの声が俺に届く。 (それも手伝って…あなたの力は…他のエルクゥの…追々を許さない…。 最強なるエルクゥを狩りし者…エルクゥ語で……ハンターエルクゥ…ブラック…) (ハンターエルクゥ…ブラック…!) 俺は心の中で反芻する。 (今の…あなたなら…リズエルに…絶対に…勝てる。 …でも…リズエルを殺さないで…勝手だけど…お願い……きゃっ!!) (エディフェル!) 俺はエディフェルの方を見た。 エディフェルは、リズエルの手の爪で串刺しになっていた。 くっ!俺とエディフェルがやりとりしている内に、回り込まれたかっ! 「…エディフェル!!」 俺はエディフェルの元に跳んだ。 だが、俺の跳躍力は予想していた物よりも遥かに大きいものだった。 着地点は予定よりもかなりずれていたが、再度跳躍してエディフェルの元に降り立つ。 リズエルは、俺が凄い勢いでやってくるのを感づいたか、 串刺しにしていたエディフェルを離し、どこかへと跳び去っていった。 俺はリズエルを追いかけて行きたかったが、今はそれどころではなかった。 地面に横たわるエディフェルの元に、俺は駆け寄った。 「エディフェル!」 心の中で元に戻るように念じると、身体中の皮膚が崩れ落ちる。 崩れ落ちた皮膚や筋肉の中から、俺の本来の身体が現れる。 俺は普通の人間と変わらぬ大きさに戻った。 そして、息も絶え絶えのエディフェルを抱き上げた。 艶やかな細い髪が、俺の指の合間をさらりと縫ってこぼれ落ちる。 俺の腕に抱かれ、弱々しく息づく彼女。 薄く開いた瞼の内側には、うっすらと涙が浮かんでいた。 つい先ほどまで、眩しい程の輝きを放っていた彼女の命の炎は、 今ゆっくりと、まるで掌に乗せた一片の雪のように、存在を薄めていった。 彼女の命は、いま燃え尽きようとしているのだ。 「エディフェル…」 その名を呼ぶと、俺の腕に抱かれた彼女は弱々しく微笑みを返した。 「もし…リズエルを…恨んでるのなら…リズエルを…恨まないで…」 彼女は言った。 「…リズエルを…許してあげて…」 今にも消え入りそうな声だった。 「…彼女は…エルクゥの…一族の掟に従っただけ…。 一番辛かったのは彼女…だから…リズエルを…責めないで…」 「解った」 俺が頷くと、彼女は目を細めて微笑んだ。 その口もとから鮮血が溢れ、喉を伝って流れた。 「…だから、頼む。…もう喋らないでくれ。そのままじっとしててくれ。 …そうすれば、エルクゥの力で傷が治るかもしれない。 そうすれば、また、ふたり一緒でいられるんだ…」 俺がそう言うと、彼女は微笑んだまま、ゆっくりと首を左右に振った。 「エルクゥの力でも…消えゆく生命に…新たな炎は宿せない。 …私の命は…多分…もう…わずか…。…だから…それまで…話をさせて…」 「エディフェル…」 俺は、彼女の細い身体を強く抱きしめた。 この俺の温もりを、この力強い抱擁を、命が尽きるまで、感じさせてやりたいと思った。 「…忘れるな、エディフェル。…忘れるな。…たとえ生まれ変わっても、この俺の温もりを、 この俺の抱擁を忘れるな。…きっと迎えにいく。…そして、きっとまた…こうして抱きしめる。 …たとえお前が忘れても、俺は絶対に忘れない…」 俺が言うと、彼女はなきながら頷いた。 「…忘れない。・・・私も…あなたのこと…決して…忘れない。 …私…ずっと…待ってるから。…あなたに…再び…こうして… こうして抱きしめてもらえる日を…ずっと…ずっと…夢みてるから…。 だから…もう行って。…このまま…ここにいたら…人間が…全て狩られてしまう…。 …だから…私が…好きになった…全ての人間を…あなたが守って…お願い…」 その瞬間、腕の中の彼女が、ふっと軽くなったような気がした。 「…エ…エディフェル?」 俺は、恐る恐る彼女の顔を覗き込んだ。 その寝顔は安らかで、まるで幸せな夢を見ているかのようだった。 「…エ…エディ…フェル…」 俺は、そんな彼女の安らかな寝顔にゆっくりと頬を重ねると、声を殺して泣いた。 俺の腕の中で、少しずつ温もりを失っていく彼女。 「…忘れない。…絶対に忘れない。…いつかまた再び巡り逢い、必ずこの手でお前を抱きしめる。 …そして今度こそお前を護ってやる。…絶対に…お前を幸せにしてやるからな…」 俺の涙が彼女の頬を濡らした。 俺はしばらく泣いた後、意を決してエディフェルを寝かせる。 「…エディフェル…全てが終わったら…来世で会おう…」 俺は走った。 エディフェルを失った悲しみを拭うかのように。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ども、川村飛翔です。 とりあえず出だしはこれで終了です。 元ネタがわかった方もいらっしゃるでしょう(汗 あと、9月1〜6日の間に私にレス&感想をくれた方がいらっしゃりましたら もう一度発信をお願いします。 9月6日以前からログが消えてるようなので・・・ これから書くレスに名前が載ってる方は結構です。 そのかわり、レスよろしく。 ではでは、レスです。 >日々野 英次さん >高速道路で ああ、最近開発が進んでますよね、自動料金改札システムってヤツ しかし、この方法はある種ラブリィかな?(笑) >結構マジっすね。 >この後編を読んでもまだ言えますか?(ぉぉぉ >シリアスなのが少ないって訳でなくて、SSは都合上ギャグが多いって事で。 まあ、そうなんですけどねぇ >悪夢第3話 やっぱり効果音の間の空白は見た目が良くないような・・ >『つまらない男』久々野 彰さん 内容に付いては触れませんが、文の使い方に関してはいいと思いますよ。 一行の文字数に適度の±があるから、見やすくていいです。 2行に渡って一つの文を書いて、始めの方に読点が来るとなんか変ですし。 紙の本では別ですが。 >おーえすさん 千鶴さん奮戦記 その4「テスト」 千鶴さん・・テストの答案パクったのか? >掲示板に載ってたのは読めませんでしたが・・ 2〜3日中に私のHPにSSの過去ログを置きますので見に来てください 感想なんかも掲示板でお願いしますね たまに遊びに来てくれると嬉しいなぁって・・・(ぉ >まさた館長様 以前投稿した作品はこのように変更してください 発端 → ハンターエルクゥBLACK 〜発端〜 パロディ/次郎衛門/痕 コメント:禁断のネタかも知れません 前兆 → ハンターエルクゥBLACK 〜前兆〜 コメント:知られざるエルクゥの一族が・・・ 決別 → ハンターエルクゥBLACK 〜決別〜 コメント:エディフェルは徹底抗戦を決意 覚醒 〜前編〜 → ハンターエルクゥBLACK 〜ブラック覚醒(前編)〜 コメント:次郎衛門が鬼に目覚めるとき 覚醒 〜中編〜 → ハンターエルクゥBLACK 〜ブラック覚醒(中編)〜 コメント:リズエルと次郎衛門の戦い 覚醒 〜後編〜 → ハンターエルクゥBLACK 〜ブラック覚醒(後編)〜 コメント:次郎衛門、変身! http://members3.cool.ne.jp/~khrj/