覚醒 〜前編〜 投稿者:川村飛翔
ヨークの意志によって強制的に外に転移させられたエディフェルは、
これ幸いと、次郎衛門に淡い光を纏わせて、抱きかかえた状態で跳躍を始めた。
エディフェルは、遠くに見える山を目指して跳んでいた。
彼女が跳躍する度に、次郎衛門は僅かに苦悶の表情を浮かべる。
そうなるのも無理はない。
ただでさえ瀕死の重傷のはずなのに、エルクゥの尋常じゃない跳躍で
身体に強力な風圧と逆方向の慣性が掛かるはずだから、元気な人間でもこれは苦しい。
しかし、そんな凶悪な状態でも、次郎衛門は息絶えることはなかった。

エディフェルが近くの山の頂上までたどり着くと、一度跳躍するのをやめた。
辺りを見回すと、エディフェルの視界内に山小屋と思しき建物が入った。
「…あそこなら…誰にも…邪魔されない…」
心の中で呟いたエディフェルは、腕の中の次郎衛門を抱え直し、目的の山小屋に入った。
「…これで…安心して…血の儀式が行える…」
思ってエディフェルは次郎衛門を床に寝かせ、自分もその横に座った。
彼女は次郎衛門の手を取るが、すぐに引っ込めて、背後の囲炉裏の前に座り直した。
「……かなり体温が下がってる。…でも…この建築物の…熱供給源で…何とかなるはず…」
エディフェルは囲炉裏の中の炭を2つ拾い、自分の手に一本ずつ持たせる。
そしてそのまま、2本の炭を物凄い速さで擦り合わせ始めた。
驚異的な速度で摩擦される炭は、程なくして火と炭粉を撒き散らした。
その火は、最初から備え付けてあった小枝の薪に引火し、
山小屋の中に微かな熱を供給し始めた。


…パチ…パチパチッ……!

囲炉裏の炎が音を立ててはぜる。
エディフェルは再び次郎衛門の手を取る。
「…とりあえず…これで…しのぎになるはず…」
エディフェルは次郎衛門の手をおろし、ゆっくりと立ち上がる。
「…エルクゥの血の中にある細胞が…体内に癒着してくれれば…。
後は…エルクゥの再生能力で…助かるはず…」
そしておもむろに自分の右手の爪を伸ばし、
鋭利な刃物に変えるエディフェル。
そしてそのまま、自分の左腕の手首に切り込みを入れた。
手首の傷口から滴り落ちる血の滴は、
ポタポタと次郎衛門の肉体に注がれる。
彼女の血が、次郎衛門の服や皮膚に
多少付着するが、ほとんどが彼の傷口に入り込む。
「……エルクゥの皇候補になる者だけに行う…血の儀式…。
そして皇になれたエルクゥに…血を提供した皇女は…生涯の伴侶になる…」

少しの間、沈黙の中に炎と血の滴る音が響く。
人間と同じ赤き色を持つエルクゥの血は、止めどなく流れるものかと思われたが、
次郎衛門に少量の血を提供して、彼女の手首の傷口はすぐにふさがった。
「…これで…いい。…あとは…細胞の癒着が成功するのを待つだけ…」
今度は次郎衛門の服から露出した身体に触れるエディフェル。
「…身体がまだ冷たい。このままじゃ…エルクゥの細胞が活発化しない…。
分子の高速運動での放射じゃ…熱の供給が間に合わない。…だったら」

エディフェルは意を決した。
頭にかぶっていた帽子と思われる物をとり、腰の装飾具を外す。
それと同時に、エディフェルの着ていた衣装がはらりっ、と床に落ちる。
一糸纏わぬ姿になったエディフェルは、次郎衛門の上に重なる。
次郎衛門に重なった状態で、エディフェルは次郎衛門の服を脱がせる。
「…体熱の伝導なら…直接肉体に触れてるから…体温も上がる。
そしてヴァトラストーンが…再生能力と…私の生命維持力場を高めてくれるはず。
ここまで来るのに…この人を生かす為に…一度使ったから…そのままじゃ私の力は弱い。
ヴァトラストーンが…私の力を増幅してくれれば…細胞は確実に癒着する…」
言い終えると同時に、エディフェルと次郎衛門の身体が淡く発光を始めた。
「…私は…この人が好きになった。…たとえ種族が違っても
…思ってくれることが出来る…人間という存在が好きになった…」


俺は確かに意識がなくなった。
最初は死んだと思った。
だが、俺は死ななかった。
生きていたのだ。
身体にほのかなぬくもりを感じつつ、俺は長い眠りから目覚めた。
瞼を開くと、そこにはあの娘の顔があった。
娘も俺も裸だった。
娘は細い身体を俺に重ねていた。
冷えきった俺の身体を、自らの肌の温もりで温めていた。
ここは、一体どこなのだろう。
見渡して見ると、小さな山小屋に見えた。
囲炉裏の炎が、パチッと音を立ててはぜる。

俺が目覚めたことに気付くと、娘はその美しい顔を上げ、つたない言葉で話しかけた。
「…目が…覚めた…?」
「ここは…?」
俺は娘に聞いた。
「…レザムに近い場所にある…小さな山小屋。…私と…あなた以外…誰もいない」
「なぜ、お前が俺とこうしている? 俺は一体どうなったんだ? 
助かったのか?あれほどの傷を負っていたというのに…」
一度に俺が言うと、娘は深呼吸してからゆっくりと語りだした。
「…あなたの命の炎…あと少しで…消えそうだった。
だから私…あなたに…私のエルクゥの細胞と…力を増幅する石を与えた…」
「エルクゥ?」
尋ねると、娘は俺に説明した。
エルクゥとは、我々でいうところの鬼のことを指す言葉らしい。
彼女たちは、我々が忌み嫌う伝説の鬼そのものではなく、
エルクゥという鬼に似た力を操ることができる種族なのだという。
「…体内に私の細胞が定着し…うまく育てば…あなたはエルクゥの再生力で助かると思った。
でも、それだけじゃ…ちゃんと成功するかどうか…不安だったから…
力の増幅をしてくれる石を…あなたの体内に埋め込んだ。
…そして…あなたは助かった。…エルクゥの細胞は…あなたの身体に根付き…傷を再生させた。
埋め込んだ石は…エルクゥの皇の証。…あなたは…最強のエルクゥの力を宿した」
彼女の言葉は、その大半が理解し難かったが、
俺が鬼の力を宿したのだということだけは、何とか理解できた。
「この俺が…鬼に…」
俺は唇を動かさずに呟いた。

「…私たちエルクゥは狩猟者。…獲物を求め…星々の海を渡る。
…星から星へ…生命に…より鮮やかな炎を宿す獲物を追い求め…狩猟を続ける」
娘は続けて語ったが、理解できたのは獲物を狩るという言葉だけだった。
だが、それだけでも十分に話は見えた。
雨月山の鬼たちは、確かに娘の言うとおり、まるで狩りでも楽しむように人間を惨殺し続けてるのだ。
「お前のいう獲物とは、人間のことか?」
俺が聞くと、娘は躊躇いながらも、やがて小さく頷いた。

「…ふっふっふ。そうか、お前たちは人狩りがお好みの鬼だったのか…」
皮肉を込めて笑うと、娘は悲しそうな顔をした。
「そして俺は…その人狩り好みの鬼になったんだな?」
俺は娘の肩を掴んで言った。
「俺を、その人狩りの鬼の仲間にしたんだな!?」
「…そうするしか…あなたを助ける方法がなかった…」
娘は目を伏せ、呟くように言った。
「だったら、何故に俺を助けた!
お前達にとって獲物でしかないこの俺を!何故! 助けた!」

俺が叫ぶと、娘は顔を背けたまま、ゆっくりと唇を動かした。
「…エルクゥは…望めば互いの意識を信号化し…伝え合うことができる。
…そして…言葉よりも深く…互いを理解し合える。
…私とあなたの言葉が…会話でもちゃんと通じるのも…そのおかげ。
…あなたは…もともと…エルクゥに少し近い人間だった。
…あの時…あなたの生命から炎が消えようとしたとき…あなたの私への想いが流れ込んできた。
私は胸が痛くなった。…あなたを失えば…きっと後悔する。…そう思った」
そういう娘の頬は、うっすらと朱く染まっていた。

「…ではなにか? 俺がお前を愛した、お前も俺を愛したというのか?」
俺が聞くと、娘は赤らんだ顔で小さく頷いた。
「…くっくっくっ…あっはっは…はーはっはっはっは!」
そんな娘を見て、俺は声をあげて笑った。
娘が目を向ける。
「これは傑作だ! 人間のこの俺が、化け物のお前に惚れただと?
本気でそう思ってるのか!? この魑魅魍魎の化け物め!」
「…バケ…モノ…?」
「そうだ! 化け物だ! 人間狩りが趣味のなあっ!
そんな大それた化け物に、人間の俺が心を奪われるものか!
否、奪われるはずがない!あってはならんのだ!」

「……」
娘は辛そうな表情で俺を見つめた。
深く澄んだふたつの瞳。
確かに美しい。
「そうか、解ったぞ!? 俺を助けた理由が!」
俺は言った。
「女の魔物は相当な淫乱だというからな。
おおかた、この俺の逸物でも欲しくなったのだろう!?」
娘は目を伏せ、そして、なにも応えなくなった。
「いいとも、だったら望みどおり、たっぷりと抱いてやるさ!犯してやるぞ、この化け物め!」
「あっ!」
鬼の血を宿らされたことへの、怒りと憎しみ。
だが、それ以上に強かったのは、その娘の美しさに対する劣情。
そのふたつが複雑に絡み合い、激しく燃え上がり、俺はむさぼりつくように娘を抱いた。
身体中に熱い鬼の血がたぎり、俺は娘の細い身体を激しく乱暴に犯した。
娘がまだ生娘だったことを知り、俺はわずかに動揺したが、ほとから流れ出る一筋の鮮血は、
さらに俺を狂わせ、それまで以上に激しく、欲望の炎を燃え上がらせた。

乱暴に犯されているにもかかわらず、娘は抵抗もせず、
逆らう声も立てず、必死で苦痛に耐えていた。
辱めを与えても、乱暴な行為で責め立てても、瞳に涙を浮かべ、唇を噛んで耐えていた。
俺を鬼にしてしまったことへの罪悪感がそうさせるのだろうか。
それも全て、俺の命を救うが為だというのに。
いや、もしかすると、この鬼の娘は、本当に俺のことを…。
娘の姿を見ているうち、俺は胸が痛くなってきた。

怒りや憎しみは徐々に消え失せていき、変わりに、娘に対する愛おしさが膨らんでいく。
しがみつき、身体を震わせる娘の中に、たっぷりと精を放出したとき、
俺はついに観念し、自分の本心を認めることにした。
俺は、この娘に恋をしてしまったのだ。
それをはっきりと認識した。
ふたりは繋がったまま、身体を重ねて抱き合った。

「…エルクゥは互いの意識を信号化し…伝え合うことができる。
…あなたの心が私を温かくさせ…その私の心が…あなたを温める。
…たとえ…二人の間が…どんなに遠く離れていても。
…私があなたを愛したのは…あなたが…私を愛してくれたから…」
娘の声を耳にしながら、俺は確かな安らぎを感じていた。

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どうも、川村飛翔です
実はこれ2回目のレスだったりします
暴走のバカヤロー…(TT)
同じ事2回も書くのってしんどいんだぞ・・


>>日々野英次さん

>今度全部のss読ませていただきます。
それなりに壊れたのが多いので覚悟してください(笑)
感想をいただけると嬉しいです
メールでも私のHPの掲示板でも

>ノーベル式性的魅力炸裂爆薬
ダイナマイトの開発者ですから(笑)

>流石にアニキ系まで頭が回りませんでした。レミィ故に。
アキハバラ電脳組を見ましょう(笑)

>雫SS
お話の内容はなかなかいいですよ。
効果音はカタカナで書くと臨場感が沸いてくると思うので
試してみてはいかがでしょう?

>柳川SS
笑わせていただきました(笑)
私、こういう系統のネタとかは好きですよ(爆)


>>おーえすさん  
実際にLFで登場したら凄いですねぇ
「CG支配」とかいって敵のCG抹消したり出来るだろうし(爆)

>その後の三人、及び藤井冬弥の運命を知る者は、誰もいない。
英二さん直伝の格闘術に葬られたってか(笑)
和樹君は運がいいようで(爆)

>だから、今後も読んで下さい。よろしく。
時間が空いたら読ませていただきますね


>>ふっくんさん
読ませていただきました。
郁美ちゃんですか・・・あんまり見かけないですね。
作品中で語られる部分が少ない分、いろいろと想像を膨らませる事も可能ですな。

>ご感想やご指導いただければ幸いです。
効果音はカッコでくくらずにカタカナなどで書いて、
セリフの終わりは、最後の部分で読点を
書かずにカギカッコで閉じれば綺麗に見えますよ。
あと、ネット上のSSはスペースが紙面より広いので
ある程度の字数を決め、多少の変動をつけるとバランスが取れます。
私の場合は、基本が一行36±7文字です。


>>vladさん
戦闘描写って長続きすると飽きてくる気がするのですが
なぜでしょう?

>野郎、んなこといってましたか(笑)
昔マンガでそう描いてました(苦笑)


>>久々野 彰さん

>「・」の事ですか?
それも多少有りますが・・・私が言ってるのは、と
どのつまりこういう事です。
文字の後ろの方にはまだ余裕があるのに
一文字だけ残して改行と言うのはちょっと体裁悪く見えるからです。
場面転換に関しては


このように2〜3行開けるだけで、5年経過した事にも出来ます。
その辺りは個人の考え方次第ですね。

<文字の長さ>
>今のところ、これの変更は考えていません。
一応これについても、場面転換の時と同じ意見です。

>もしかして、ムービー作りしてたりするんですか?(笑)。流行ってますが。
動画じゃなくて静止画です(汗
百聞は一見にしかずと言う言葉もありますので
一度身にいらしてはいかがでしょうか?

>>貸借天さん
>アドバイスどうもです。まあ、なんとかがんばりますよって(^^
昔の作品を見たり読んだりするといいネタが出たりします
頑張ってください

・・・最近細かい字が認識しにくい(ぉ

http://members3.cool.ne.jp/~khrj/