決別 投稿者:川村飛翔
「……私は…あります…」
ただ一人、この場で否定意見を出した。
ダロエルは驚愕した表情で、
「エディフェル様、一体何を!?」
しかしエディフェルは冷静に、
「…ヨークが…翼を失った以上…ここで全ての生命を…
狩ってしまっては…来世での我らが…困ることになります…」
エディフェルの紡ぐ言葉は、他のエルクゥに比べて、どこか辿々しい。
「……獲物がいなくなれば…来世で転生したときに…狩る獲物がいなくなって
いる事に気が付き…お互いを殺し合い…やがて……自滅します…。
それより…この星の知的生命体……人間と共生した方が…効率がいいです…。
レザムからの……救援が…いつ来るか分からない以上は…」
エディフェルが訴えるように続けるが、

ビュゥゥゥッ!
……パチィィィン!

突如、部屋の中に大きな空気を切る音と、何かを叩いた音が響いた。
事態は至って簡単だった。
リズエルがエディフェルの頬をひっぱたいたのだ。
ただ、エルクゥの力で行っているので、エディフェルは壁際まで吹っ飛ばされている。
後ろの方に傅いて待機していた複数のエルクゥ達も、それに巻き込まれて弾き飛ばされていた。
「…はっ、お姉ちゃん!」
リネットが慌ててエディフェルに駆け寄る。
エディフェルが頭を上げると、目の前にはリネットよりも早くリズエルが立っていた。
「…私達はこの宇宙で…最強の狩猟者なのよ」
リズエルが静かに言い放つ。
「それを、所詮は獲物でしかない人間と共生しようと考えるなんて、
狩猟者としては最低よ…私達にはあるまじき、敗北主義者のいう言葉よ…」
「…姉さん」
エディフェルが小さく呟く。
「我らは誇り高き狩猟者…例えどんなことがあっても、狩りはやめない。
狩猟者の自覚を思い出すまで、しばらくそこで大人しくしてなさい」
エディフェルに冷たく言い放ったリズエルは、さっきまで自分が居た場所に戻る。
「さあ、三大皇官…早速この者を皇候補に仕立て上げるのよ」
ダロエル達に命令するリズエル。
「…承知いたしました」

ダロエルはおもむろに両手を天井にかざすと、
「……ダリエリ様…我らの新たなる皇を決めるために…
我らが母船ヨークから…エルクゥの皇の証…大いなる力の源…
ヴァトラストーンを…どうか私達にお与えください…」
言葉が終わると同時に、エルクゥ達がいるこの部屋の壁が蠢きだす。
「どうやら、ヨークは今もまだ健在のようですわね」
ヨークが生きているのと壁が蠢く現象との接点。
それは、この洞窟自体がヨークと呼ばれる宇宙船だと言うことを意味している。
ビシュエムが歌い上げるような口調で天井を見上げると、
さほど時が経たぬまま、天井の一部から赤色と青色の宝石が表れた。
それらはお互い引き合うようにくるくる回りながら、
ゆっくりと音もなく、ダロエルの作った手の器に舞い降りた。
「では、このヴァトラストーンを…この者の体内に埋め込む…」
ダロエルは右手で青色の宝石を手に取ると、柳川の下腹部の上にそれを置いた。
残った赤色の玉を右手に持ち替えると、開いた左手を彼の身体の上に乗せた宝石の上にかざす。
「……はぁぁ…………ぁぁああっ!!」
ダロエルが声の最後に力を入れたその瞬間、青色の宝石が自分で発光を始め、
傷口があるのでもないのに柳川の体内に沈んでいった。

「ヴァトラストーンの埋め込み儀式は終了した。
この者は、これで我らエルクゥの皇の第一候補となった。
後は血の儀式により、このお方の身体を、我らと同じエルクゥに進化させれば完了だ。
そして、残るこのヴァトラストーンを埋め込むに相応しい生命体を探す…」
ダロエルがもう一つの赤色の宝石を高らかと掲げる。

…シャッ!
……ゴォォォゥゥッ!

短い何かの音の後、ヨークの体内である部屋の中に風が巻き起こった。
突然部屋の中に発生した突風に、一瞬呆気にとられるエルクゥ一同。
ダロエルが掲げた自分の手を見ると、自分の手の中から宝石が消え失せていた。
「な、無い!もう一つのヴァトラストーンが無い!」
「何だと!?」
慌てふためく三大皇官。
「こんな事が起こるなんて……はっ、もしかして…!」
何かに気づいて後ろを振り向くリズエル。
『えっ!?』
つられて振り向くリネットとアズエル。
リズエルの視線の先には、壁際で宝石を右手でしっかりと握りしめ、
二本の脚でふらつく事なく立っているエディフェルの姿があった。
ヴァトラストーンと呼ばれる宝石は、小柄なエディフェルの手の中にも収まっていた。
「エディフェル様!一体いつの間にヴァトラストーンを!?」
ダロエルが驚愕する。
「エディフェル……あなた…」
皇官達やリズエルらが硬直している中、エディフェルはゆっくりと口を開く。
「…私は生まれつき…言語を話す能力が…あまりよくなかった…。
でも…その変わり……こうして…他のエルクゥにない俊足を…代わりに持っている…」
そういい残すと、エディフェルは残像を残して走り去った。

「…エ、エディフェルお姉ちゃん……」
最初に硬直の呪縛が解けたのは、リネットだった。
「…はっ!このままじゃいけない!エディフェルの後を追わなきゃ!」
「待った!あたしも行くぜ、リズエル姉!」
同じく呪縛が解けたリズエルとアズエルが、エディフェルの後を追いだした。
「リズエルお姉ちゃん!アズエルお姉ちゃん!」
リネットが後を追う二人の姉を引き留めようとするが、
「リネット!あなたはヨークの中で待っていなさい!」
と、走り去るリズエルに逆に制止されてしまった。

(…エディフェルお姉ちゃん、何だか真剣だった…)
それから少しの時が経った矢先、リネットは物思いに耽りだした。
(あんな事をしてまで、人間を狩ることによる殲滅をやめさせようなんて…。
これは、エディフェルお姉ちゃんに何かがあったのかな……あ、そうだ!だったら…)
リネットは何を思ったか、再度静寂を取り戻した部屋のなかで歩き出した。
向かう先は、部屋から出る出口である。
「リネット様、どちらへ行かれますか?」
ビシュエリに呼び止められるが、リネットはそのまま、
「自分の部屋に戻ります。お姉ちゃん達が帰ってきたら、そう伝えておいて下さい」
「ははっ、かしこまりました」
部屋から出るリネットを見送る三皇官。
静寂の部屋の中には、大勢のエルクゥと三大皇官、そして柳川の身体だけがあった。


そのころエディフェルは、ヨークの中の一風変わった部屋の中にいた。
多数の管が部屋のあちこちに張り巡らされており、
横一列に並んだ透明な球体にそれぞれ繋がっていた。
その球体の中の一つに、エディフェルに担ぎ上げられていた次郎衛門の姿があった。
エディフェルは次郎衛門が入っている球体に手を伸ばすと、彼女の手は球体の外壁を突き抜ける。
そして、水から魚を引き上げるかのように次郎衛門を引き抜きだした。
エディフェルはヨークの中に入るときと同じように次郎衛門を抱き上げると、
部屋の中から出る体勢を整えた。
(……あの…肉体を治療する装置は…エルクゥだけにしか効かない。
人間には生命の維持が限界…だから…私のエルクゥの血を使って
血の儀式を行えば…エルクゥの再生能力で…助かるかもしれない…)
意を決して外に出ようとしたエディフェルだったが、
「やっと見つけたぞ、エディフェル!」
「エディフェル、あなた何やってるの!?」
声のする方に振り向いたエディフェルの視界内には、
一つしかない部屋の出入口を塞いだリズエルとアズエルが映っていた。
「…リズエル…お願い、どいて……」
リズエルは次郎衛門を抱き上げている状態の
エディフェルをじっと見つめると、
「…エディフェル…あなた、そこまで……」
リズエルは一呼吸おいてエディフェルをもう一度見つめると、
「あなたがここからそれを連れて出れば、あなたはエルクゥの一族の裏切り者よ。
……そこのところ、ちゃんと分かってて言ってるの!?
エルクゥの裏切り者の末路は……あなたも知っているでしょう?」
リズエルの言葉に、エディフェルは静かに頷く。
「だったら…私に…妹殺しなんかさせないでよ…お願いだから…。
今ならまだ間に合うわ…すぐにそれを捨てて、ヴァトラストーンを返しなさい!」
リズエルの瞳からほんのわずかな涙が流れ落ちる。
「……ごめんなさい…人間の殲滅には…どうしても賛成できない…」
小さくエディフェルが呟く。
「おい、エディフェル!お前それを使って、一体何する気だ!」
何か言おうとしたリズエルをアズエルが手で制し、そのままエディフェルに問いかけた。
「…このまま…人間が殲滅される事態が起こるなら…私がそれを止める…」
そういうとエディフェルは、次郎衛門の爪痕状に破けた服の切れ目から見える
身体の上に、握りしめていたヴァトラストーンを乗せ、掌を宝石の上にかざして光らせ、
一瞬にしてそれを次郎衛門の体内に埋め込んだ。

同時刻。
リネットはヨークの中にある自室に戻り、部屋の中央に立っていた。
少しの間目を閉じて立ったまま瞑想していた彼女だったが、
「お願い、ヨーク…エディフェルお姉ちゃんが今いるところを私に見せて…」
胸の前で手を組み、祈るような状態でリネットはヨークに懇願していた。
その姿は、まるで神に信託を授けて貰うために祈る、巫女のようにも見えた。
リネットがヨークにお願いした直後、リネットの部屋の一部が光を放ち、彼女の額に光を照らす。
それと同時に、リネットの目の奥にはヨーク内部の映像がぼんやりと浮かび上がった。
今リネットの脳裏には、エディフェルがヴァトラストーンを
次郎衛門の体内に埋め込みを終えた直後の映像が浮かんでいた。
(…エディフェルお姉ちゃんだ。お姉ちゃんがいる場所は治療室ね……。
あ、でもリズエルお姉ちゃんも…アズエルお姉ちゃんも一緒にいる…)
リネットの頭の中には、その場所の光景がくっきりと写っている。
(ヨーク、もう一つお願い…)
ヨークの方はリネットが何をして欲しいのかが分かっているかのように
リネットの脳裏に映像と音声の信号を送り始めた。
(ありがとう、ヨーク…)
これでリネットには、音も状況もしっかりと分かるようになった。

【仕方がないわ…エディフェル、私はあなたを力ずくでも止めてみせるわ。
あまり、手荒な真似はしたくなかったんだけど…】
リズエルは自分の爪を伸ばして、そのまま鍵爪状に変形させた。
一方のアズエルも、戦闘態勢に入っている。
(危ないっ、エディフェルお姉ちゃん!)
リネットが無意識に目を背ける感覚で画面を暗転させた直後、
【…えっ!?】
【な、何だぁ一体!?】
リズエルとアズエルの間抜けな声がリネットの脳裏に届いた。
(…えっ?何が起こったの?)
リネットが再び映像を切り替えると、そこにエディフェルの姿はなく、
部屋の中をあちこち見回してひたすらエディフェルを探す
リズエルとアズエルの姿があった。
(これって、もしかして…ヨーク、あなたがやったの?)
目を開けたリネットの質問に答えるように、
部屋の一角が一定のパターンをもって薄く光った。
「私を悲しませたくなかった…って?」
リネットの言葉に対し、肯定を表すかのように光る部屋の一角。
「…ありがとう、ヨーク…」

この瞬間から、エディフェルは皇族の権利を剥奪され、
一転して裏切り者として扱われることとなった。
そして裏切り者の始末を任されるのは、
裏切り者に最も血筋が近くて、なおかつ年長の者が行うのが掟である。
これは必然的に、長女のリズエルが三女のエディフェルの
抹殺をしなければならなくなる状態に陥ったのである。


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ども、川村飛翔です
次はいよいよ覚醒偏の前編に突入します
次でネタの種明かし
次回!〜覚醒 前編〜
ぶっちぎるぜ!(少違)


>日々野英次さん せくしーだいなまいと&2
爆弾ってボムってゆーし、アニキ系でも使用するから
ノーベル式性的魅力炸裂爆薬と書いてもアリで?


>おーえすさん  千鶴さん奮戦記 その2「仁義なき闘い」
ロスユニのミリィは調理場爆破して宇宙一の料理を作るなれど、
千鶴さんは調理場爆破して謎の物体を作り上げる
この二人に共通点はあるとおもいますか?(謎)

>いいのかな、こんなの書いてて。
こういうのを書くのも経験の一つじゃないですか?


>まさた館長さま

これも改訂版なのでこちらの方を掲載してください

http://kobe.cool.ne.jp/khrj/