ホワイトアルバム 〜切なさへの扉〜 投稿者: カーマイン
第一章
 どきどきどき。
 いつもは何気なく押すインターフォンの前で、由綺は暫く立ち止まっていた。
 どんな顔をすればいいんだろ。
 にこやかに笑いながら・・・?
 切なさそうに・・・?
 どの表情をしても、冬弥くんならいつもの暖かい眼差しで了解してくれるような
気がする。
 それでも、由綺はその一歩にためらいを感じていた。
 高校生の時、必死になって養成所に通う由綺を励ましてくれ続けた冬弥。
実際、2人でいる時間より養成所で過ごす時間の方が長かった。それでも嫌な顔一
つせずに、優しそうな目で『気にするな』と言ってくれた。
 ほとんど余裕の無い時間をぎりぎりまで裂いて2人で会う。かけがえのない時間
。図書館、喫茶店、場所なんてどこでも良かった。
 そして、他愛もない話。由綺の何気ない悩みごと、養成所の生活、将来の夢。
そんなものを優しそうな目をしながら聞いてくれてた。
 何ものにもかえがたい二人だけの時間。少し体を寄せ合って一緒にいる時、他の
ことは何も考えられなかった。ただ、この時間が止まってくれさえすればとしか・
・・。
 それから時間が流れさり、2人は同じ大学の大学生になった。少しでも同じ時間
を持ちたかったので、2人とも自然に同じ大学を目指すようになったのだ。
 玄関前で躊躇いながら、由綺は手にもっていた一通の手紙をみやる。
 そこには、緒方プロダクションの文字が書かれていた。
 これで2人の時間を持てるようになると思った矢先だっただけに残念だと思う。
自分は本当にアイドルになりたかったのだろうか?そんな違和感すら感じていた。
 はじめ、なりたくて仕方がなかった。だが、冬弥と出会い、一緒に過ごすうちに
重要なことがすり替わり始めていた。
 自分のためにアイドルになる、から冬弥くんに喜んでもらうためにがんばるに・
・・。
 とにかくマンションの前でつったっていても仕方が無い、由綺はそう思うと目の
前のインターフォンを押した。
「ぴんぽーん」
 暫くして、インターフォンから冬弥の声がする。
「どなたでしょうか」
「おはよう、冬弥くん・・・」 
 由綺は自分の名前を告げずに声だけで返事をした。まだ、お互いキスも数えるく
らいしかしていない。ただ、こういう返事だけでお互い分かり合える関係でいたい
からこそ、最近、由綺はこういう返事をインターフォンや電話では良く使った。
「あ、由綺」
 しばらくして玄関の扉が開き、少し寝ぼけた感じの冬弥がでてくる。
「ちょっと・・・お話があるんだけど・・・いい?」
「え?あ、それじゃ・・・公園歩きながら話そうよ。片づいてないからさ」
「うん」
 由綺の返事を聞くと少し待っててと言い、オーバーを取りに行く。別に部屋の中
、散らかっててもいいのに。
 暫くするとオーバーを持った冬弥が戻ってきて、2人は近くの公園へと向かった
。
  
 公園には平日の朝ということもあって、ほとんど人がいなかった。
 小さなブランコ、滑り台、ジャングルジム、何も変わらない。2人ではじめて
デートした時と全く同じだった。1年前の丁度今頃のことである。
 もちろん、それまでも図書館や喫茶店で良く話しはした。
 一年前のその時も公園と場所が変わっただけで、殆どその他は変わりがなかった
。
 ただ、違うことが2つだけあった。
 一つは2人で会う約束の時、冬弥はデートをしようと始めて言った。
 少し照れながら。由綺も少し頬を赤く染めて一言、
「はい」とだけ答える。
 もう一つは別れの時だった。
 それまでは養成所がある時は由綺と冬弥が交互に別れの挨拶をして、その場所で
別れるという感じであった。ただ、この時は、別れ際にこっちに向き直り、由綺の
唇を冬弥のそれで塞いだ。それは始めてのキスだった。
 その後、照れながらいつもと同じ挨拶をぎこちない感じでした。
「どうしたんだ、静かになって・・・」
「えっ」
 少し昔のことを考えながら歩いていると、冬弥が心配そうに聞いてくる。お互い
デートの日は前もって電話で連絡を取り合っていたので、急に来ることなんていま
までなかったから、何も話さないで歩いているだけで少し心配に感じたのかもしれ
ない、その証拠に・・・、
「あっそれよりさ、話ってなんなの?・・・こんなに急に?」と切り出してくる。
 いつも由綺の心配事を受け止めて応援してくれる冬弥くん、今回もいつもと同じ
ように笑って安心させてくれるだろう。
 そのことを当たり前にしか感じなくなっている自分に腹立ちすら感じる時もあ
る、しかし今回は何にしても頼りたかった。自分一人で決めたくないから・・・。
心に戸惑いを感じながら、由綺は話しだす。
「うん・・・。あのね・・・」
 だが、そこで言葉が途切れる。
「どうした?」
 優しく相づちを打つ冬弥。それに勇気づけられ由綺は言葉を続ける。
「・・・あの、私ね、デビューすることになったんだ・・・」
「え・・・?」
「緒方英二さんって知ってるでしょ?緒方プロダクションの、緒方理奈さんを
デビューさせた」
「う、うん」
「そこから、緒方さんのプロデュースでデビューすることに決まったんだ・・・」
 しばらく、2人の間に時間が流れる。一方は不思議そうに、もう一方は心配そう
にして・・・。
「ほんとに・・・?」
「うん・・・」
 冬弥の顔が鳩が豆鉄砲を食らったような驚いた表情から、嬉しそうな表情に変わ
る。
「すごい・・・すごいじゃない由綺!!」
 冬弥は、由綺の手を握って喜んでくれる。まるで自分が成し遂げたかのように・
・・。由綺が小さい賞を取った時でも喜んでくれた、つき合う前から繰り返されて
いる光景だ。こういう時、由綺は凄く嬉しく感じる。
 ただ、今回はすぐに心配そうな顔に戻ってしまう。デビューするということは、
一緒にいられる時間がいままでと比較にならないくらい少なくなるのだ。
 由綺が心配そうにしているのを見て、冬弥の顔が喜ぶ表情から少し寂しそうな
表情に変わっていく。
「あ・・・一緒にいられる時間、少なくなるな」
「うん・・・」
 暫く、お互い見つめ合いながら時間が過ぎ去る。公園の周りから入り込んだのだ
ろう、少し冷たい風が由綺の髪を揺らす。少しぶるっと体を震わす由綺。それが収
まりかけた頃、冬弥の口から言葉が漏れた。
「・・・ちょっと、寂しいな」
「うん・・・」
 この時、由綺はアイドルになるなよと言われる事を望んでいたのかもしれない。
そんなことで辞めるなんて、と他人は言うかも知れないけれど、この瞬間、冬弥と
の関係が今まで通り続くか心配でたまらなくなって・・・でも冬弥は、
「だけど、おめでとう、由綺。・・・ちょっと寂しいけど、でも、やったな」と励
ましてくれた。
 そうなんだ、冬弥くんが私の未来を切るようなこと言うはずない、言うはずない
んだ。そう考えると由綺には少し嬉しくも、悲しくもあった。
「いいよ。・・・会える。時間があったら、できるだけ会うことにしようよ。・・・
・・・会えない時は・・・お互い、精いっぱい・・・頑張ろうよ」
 その後、悲しそうな表情をしていた由綺に冬弥が励ましの言葉をかけてくれる、
それを聞きながら、そうだ、がんばらなくちゃ冬弥くんに励まされているだけじゃ
駄目。自分から歩む力も持たなくちゃと決意を固めて、由綺は嬉しそうな表情で
「う、うん!」と答えた。
 その時、東に見える太陽の光がまるでスポットライトのように由綺の体を包む。
 照らされた由綺に周りにいた数人の人々の目が奪われた。
 それは一瞬であったが、一時代を変えるアイドルの到来を予感させるような光景
であった。

(つづく)

第一章、読んでくれた人ありがとう!
じゃ、ここからは会話形式で・・・。

冬弥:なんで俺は主人公じゃないんだー。
由綺:今回は、私のサクセスストーリーだからなんだって。
冬弥:じゃ、俺は脇役君その1か?
由綺:・・・そんなこと・・・ないと思うよ
冬弥:一瞬途切れただろ、実はそうと思っているんじゃー。
由綺:違うって、あっ皆さんこれからもよろしくお願いします。(ぺこ)
冬弥:ところで由綺、何にデビューしたんだ・・・AV?
由綺:違います、アイドルだって・・・冬弥くん、本編と違って私に冷たくない?
冬弥:いいんだー、俺は美咲さん一筋なんだから。
由綺:それじゃー、私のストーリーにならないでしょ!(がしっ)
冬弥:す、すびばでん。(あえて何が起こったか言わないでおこう)