幻狼院リレーSS『隆山へ−KizuatoILLMINATION−』 投稿者: 幻狼院
前回までのあらすじ
手紙、届く。読む。
『会いたい』、隆山、四姉妹? 
即出発!
由美子さん同行。何故!?
大脱走、失敗。
関節、失敗。
当て身、ノーダメージ。
逆に捕縛、墓参り強制。
四姉妹とバッタリ。



隆山へ−KizuatoILLMINATION−


第四話   墓場にて


 俺の背中を占領している由美子さんは、次郎衛門の墓に手を合わせたり、石碑に
彫り込まれた文字など読んで機嫌がいい。
 その間、俺はしわの少ない脳味噌をフル回転させて、どうやってこの人を柏木家
から遠ざけるか必死に思索していた。
 下手をしたら、この隆山に血の雨が降る――そのうちの半分は、俺の血かもしれ
ない――焦る心を無理矢理抑えつけ、この土壇場をどう乗り切るか熟考する。
 ちょうどそんな時だった……耳に懐かしい声が聞こえてきたのは。

「お線香とお花は持った?」
「線香は楓が持ってるだろ」
「はい」
「お花は私が持ってるよ」

 ……さっきのは訂正だ。柏木家から遠ざけても仕方がない。

「この、声の主たちから遠ざけたかったんだよーーー!!」

 山の頂き、真っ赤な夕陽に向かって絶叫してみるが、状況が改善されるはずもな
い。
 遅かった……。
 まさか声の主たちの方からやってくるなんて……。
 これが俺の運命だとでもいうのか!?

 やばいって♪
 やば♪ やば♪ やばやばやば♪

 思わず、WAのおまけ曲の一節が頭の中に流れた。
 どうする、どうするよ、俺!?


1 由美子さんをおぶったまま、ごく自然に「やあ、奇遇だね」と挨拶する。
2 助けて、次郎衛門!
3 第4走者(貸借天さん)に託してみる。


 助けて、次郎衛門!
 いやマジで。
 この局面は俺の手に余るって。
「どうしたの、柏木くん? なんか顔色悪いわよ」
「え……? あ、いや、べつに」
「なにか悩み事? よかったら相談に乗るわよ。お姉さんに話してみなさい♪」
 そう言って、にっこり微笑む由美子さん。
「あ、それじゃあ、とっとと帰ってくれ」
 と言えたら、どんなに楽だろうな……。
 いや、負けるな柏木耕一。
 新しい展開には、いつだってリスクが付き物なんだ。
 耐えるんだ。
 頸動脈を絞められようが、チアノーゼになろうが、首の骨を折られようが、耐え
抜くんだ。生き抜くためにはそうするしかない。
 これは試練なんだ。
 よし、言うぞ。
「あ、それじゃあ――」
「なあに?」

 ぎりぎりぎり。

 くはっ……!
 なっ、なんて素早いチェックだ。
 まるで試合開始の笛とともに、翼くんに群がってゆく徹底マークのようだ。
 ていうか、俺まだ肝心なこと言ってないのに、なんで絞めてくるんだ由美子さん。
「な……なに、するんだよ、ゆみ……こさん……」
 息も絶え絶えそう訊くと、
「私はまだ帰らないわよ〜♪」
 涼やかに返してきた。
 くっ、くっそ。なんで俺の考えてることが……?
 ま、まさか、エルクゥ独自のテレパシー?
 ということは、由美子さんも実はエルクゥだったのか!?
 ……なんてことを考えるあたり、思考力が低下してきている証拠だな。
 グオオオオオオオオーーーーーーーーーーー!!!!!
 エルクゥパワー全開ーーーーーーーーーーー!!!!!
 負けるな、耕一!!
 これに耐えたらパラダイスだ。
 ハーレム状態なんだ。
 そうだ。
 ハイレグ着た千鶴さんが色っぽく迫り、梓が大きな扇で優しく風を送り、スクー
ル水着着た恥ずかしがる楓ちゃんをそっと抱き寄せ、初音ちゃんなんかはその幼い
顔に似合わず、いったいどこで覚えたのかあんなことやそんなことまで……。
 うおおおーー、男のロマン!! 負けるな、俺!!
「くっ……や、やるわね、柏木くん。まだ音を上げないなんて……でも、これなら
どう!?」
 ぬわっ!?
 な、なんだ!? 由美子さんが急に重く……!?
 こ、小泣きじじいか!?
 俺は耐えきれず、地面に突っ伏した。
 日に焼けた土の感触が、頬から伝わる。
「なっ……なんの、これしき……!!」
 酸欠で真っ赤になった顔で、弱々しく呟くと。
 ぐお!!
 由美子さんがさらに重くなった。
「……ゆ、ゆみ……こさ……ん」
「なあに?」
 彼女の返事は、憎らしいほどにあくまでも涼やかだ。
「……た、たいじゅう、なん、キロ……?」
 ぐおおお!!!
 由美子さんは答える代わりに、ますます重くなった。
 いまや、俺の身体の三分の一が地面に沈み込んでしまっている。
 こ、この人はいったい何者なんだぁ!?
 いまのはどう考えても、エルクゥの技(?)だぞ!!

「ふう……いい天気ねー。日焼け止めクリーム塗ってきて正解だったわ」
「なんだ。出てくるの遅いなと思ってたら、そんなの塗ってたのか千鶴姉」
「そうよ。梓には縁遠いものよねー」
「ふん。健康的な小麦色の肌ってのも、男にはポイント高いんだよ。それよりも、
うう、可哀想な千鶴姉。すっかりおばさん化が進んじゃって……」
「な、なんですってぇ〜!?」
「楓、日焼け止めなんて塗ってきた?」
「…………」
 ふるふる。
「初音は?」
「ううん」
「ほれ見ろ。海とかに行くならともかく、ただ外に出るだけなら、十代の若い肉体
にはそんなの必要ないんだよ」
「う……。ど、どーせ私は……」

 …………。
 ああっ、こんなコトしてる間に、みんなの声がすぐそこに!!
 早く、早く逃げなくては!!
 俺が必死にもがいていると、

「…………」
「どうしたの? 楓お姉ちゃん」
「耕一さんが……すぐ近くにいる」
「ええ!?」
「なんだって!?」
「耕一さんが!?」
「どこ!? どこにいるの、お姉ちゃん!?」
「…………」
 たたっ。
「あっ、待ってお姉ちゃん!」

 そんなこんなで、最初に現れたのは楓ちゃん。
 ついに、ごたーいめーん。
 ど、どうしよう。
 とりあえず、選択肢1をちょっと変更して、由美子さんにのし掛かられたまま、
ごく自然に「やあ、奇遇だね」と挨拶でもしてみようか……などと考えてると、
「大変です! 耕一さんが痴女に犯されそうになってます!!」
 楓ちゃんが振り返り、あとからやってきた三人にそんなことを言った。
「こ、耕一が!?」
「どこ!?」
「あっ、耕一お兄ちゃん!」
 そして、千鶴さん、梓、初音ちゃんともご対面。
「や、やあ奇遇だね」
 無理に笑顔を作り、軽く右手をあげる。
 もちろん、由美子さんに乗っかられて身体は地面にめり込んでるし、首は締め上
げられているので、酸欠のため顔は真っ赤だ。
 く、苦しひ。
「……ねえ、柏木くん。この場合、私が痴女ってことになるのかな?」
「そ、そうだろうね」

 ぎりぎりぎり。

「は、はがが……」
 な、なんで絞めるぅーー!?
「耕一さん、いま助けます! 楓キーーック! とうっ!!」
 高々と跳躍して跳び蹴りをかまそうとする楓ちゃん。スカートの中が丸見えだ。
「なんの!!」
 それに対し、由美子さんが俺の身体を反らせて、がっちりブロックする態勢を取
った。
 って、おい!?

 げしぃっ。

「へぶっ!!」
 おおーーっと、柏木くんの顔面ブロックだぁーー!!
「だ、大丈夫かい柏木くん!?」
「へっ……翼にばかり、いいカッコさせてられないからな……」
「柏木くん……」
 俺は照れくさそうに、へへっと鼻の頭を指でこすった。
「だ、大丈夫ですか、耕一さん!?」
 なんだ、またか?
「へっ……翼にばかり――」
「す、すいません! あ、鼻血が……」
「……あれ?」
 どうやらさっきのは、酸欠によって引き起こされた妄想だったらしい。
 危ない、危ない。
 もう少しで、俺も電波少年少女隊の仲間入りをするところだった。
 現実世界では、目の前で心配そうな楓ちゃんがポケットをごそごそやっていた。
 そしてティッシュペーパーを取り出すと、キャメル・クラッチされたままの俺の
顔を丁寧に拭き、それを丸めて鼻に詰めてくれた。
 ……どうせなら、新しいのに変えて欲しかったな。
 いや、そもそもそんなコトする前に、由美子さんをどうにかしてくれ。
「ゆ、ゆみこ……さん……ギ、ギブギブ……!」
 頸動脈を締め上げる由美子さんの腕をぽんぽんと叩いてタップする。
「よし」
 首に絡み付いていた両腕がようやく外れた。
「……ぅっはぁーーーーっ」
 力尽きたようにべしゃっと地面にうつぶし、右の頬を土に付けた状態で大きく息
を吐き出す。アリが数匹、吹き飛んでいった。
「んーー、いい汗かいた♪」
 由美子さんは俺の上にまたがったままうーーんと伸びをし、柔軟体操なんかやっ
ていた。
 どうでもいいが、俺がもし仰向けになってたらすごくやばい態勢だぞ。
「あ、あの、耕一さん……」
 ふと気がつくと、困ったような顔の楓ちゃんがためらうように俺を呼んでいた。
「あ。や、やあ奇遇だね」
 軽く言ったつもりだが、頬が少しひきつっているのがわかった。
「……耕一。あんた、なにやってんの?」
「耕一お兄ちゃん……」
 見ると、いまにも額からニョキッと角でも生やしそうな雰囲気の梓と、この状況
を理解しかねるといった顔の初音ちゃんがいた。
「…………」
 千鶴さんにいたっては、エルクゥ化三十パーセントといったところだ。すでに足
もとが少し沈んでいる。
「え、えーと。そ、そうだ!!」
 俺は急にがばっと立ち上がった。
「きゃ」
 小さく悲鳴を上げつつも、背中から離れてくれない由美子さん。
 そのまま、俺の身体にギュウッとしがみついてきた。
 はたから見ていると、俺たちってイチャイチャして見えるのかもしれないな……
ああ、胸の感触が……。
 はっ!?
「…………」
 千鶴さん、エルクゥ化五十パーセント。
 この時点で、周囲の気温が一度下がった。
 い、いかんいかん。胸の感触を楽しんでいる場合ではない。
 いや、でも由美子さんて胸大きいなぁ……梓ほどではないにしろ、千鶴さんは軽
くちぎってるだろうな。
「…………!」
 千鶴さんのエルクゥ化が八十パーセントまで進んだ。
 な、なんでだ? なんで俺の考えてることがわかるんだ!
 楓ちゃんならいざ知らず、俺、千鶴さんとは精神がリンクしてないはずだぞ!?
 そ、それはともかく、いかーーん!!
 な、なにか喋らなくては!
「……ふっ! な、謎はすべて解けた!!」
 出し抜けの俺の台詞に、全員の目が点になった。

「「「「「は?」」」」」

 ……しまった。
 混乱してたのか、いきなり意味不明なことを口走ってしまった。
 いや、俺にとっては意味はある。しかし、いま言うべきことではなかったかもし
れない。
「耕一お兄ちゃん。謎が解けたって……なんのこと?」
 う。
 初音ちゃんの大きな瞳に見つめられ、俺は返事に詰まった。
 ええい、ままよ!
「え、えっと。実はさ、俺のところに手紙が来たんだ。差出人は不明。消印は隆山
になってた。で、肝心の中身は『会いたい』――ただ、これだけ」

 ぴく。

 俺の言葉に敏感に反応したのは、楓ちゃんだった。
 むむ、そうかそうか。ということは、あの手紙を出したのは楓ちゃんか……と思
ったのだが。
 よく見ると、他の三人もそれぞれ反応しているぞ?
 しかも、みんな恥ずかしそうに視線を宙に泳がせている。
 ど、どーいうことだ、こりゃ。
 なんで四人が四人とも反応するんだよ??
 わけがわからず沈思していると、背中の由美子さんの様子もおかしいことに気が
ついた。
 そうだ。
 そういえば、さっき手紙のことを話した時、身体を強張らせたようなかすかな身
じろぎが、確かに伝わってきたぞ。
 様子をうかがおうと、顔だけ肩越しに振り返ってみる。
 ……おいおいおい。
 由美子さんもほんのり頬を染めて、ややうつむき加減に下を向いていた。
 ふと、俺と目が合うと恥ずかしそうに視線をそらし、ますますギュッとしがみつ
いてくる。
 なんなんだーー!!
 あの手紙の差出人はいったい誰なんだよーー!!


1.よしっ、ここはこの金田一耕一が、すべての謎を解き明かしてやる!!
2.助けて、ダリエリ!(意味不明)
3.第五走者(仮面慎太郎さん)の手による、新たなる展開を望む。


*************************************
はい、貸借天です。
バトンを手渡された当初はスランプに陥ってて、やばいなぁと思ってたんですが、
なんとか書けました。
とはいえ「なんとか」書けた程度です。展開が急だし変です。終盤および選択肢は、
ラス2(次回、第五話)で書くべき内容かもしれません。
おまけに、この耕一もたぶん、いやかなり変です。
オレ、雫と痕のオンリーは一本も書いたことないんですよね。
まさか、リレーが最初になるとは。
雫もそうなったりして。

それはそれとして、今回、さらに難しい終わり方になってるかもしれない……。
すいません仮面さん(汗)
あと、よろしくお願いします。