幻狼院リレーSS『隆山へ。−KizuatoILLMINA TION−』 投稿者: 幻狼院
   前回までのあらすじ
 なんか色々あったんですよ、ええ。
 会いたい。
 という、まあそういう手紙が隆山から届きましてな。そりゃもう四姉妹の内の誰かに
決まっているではないですか。ええ、もちろん隆山に直行ですよ!
 なぜか由美子さんがいるんですけどね。
 まあ、まこうとはしたんですが、この人がなかなかやるんです。

                                柏木耕一(談)



            隆山へ。−KizuatoILLMINATION−
                                   
             第三話   軋む音


 さて、捕まってしまった。
「行こうか、柏木くん」
 由美子さんがおれの半歩前を行く。
 さて、どうしようか。
 
 1.おとなしく柏木家の門をくぐる。
  2.とりあえず関節を極める。
  3.まあ、おれ(著者)に委ねてみろや。ん?

 おっ、なんか選択肢が出てきたぞ。
 っていうか、こんなもんが出てきたってことはそれ以外の行動ができないってことだ
よな。そう考えるとおれの人生ってなんなんだろうな。
 でも、そんな自己主張し始めると色々と崩壊していくもんがあるから、ここはおとな
しく選択肢を選ぶか。
 1 論外だな。やばいって。
 3 論外だな。こいつ、やばいって。
 てことは、2だな。
 おれの少し前に由美子さんというこの状況。
 よし、背後からチキン・ウイング・フェイスロックでキリキリっと極めて、そのまん
まチョークスリーパーに移行して落としてしまおう。
 落として……どっかその辺に転がしておけばいいや。案外逞しい人だからその場の環
境に適応して生きていくに違いない。
 よし、行くぞ。
 おれは左手を伸ばした。
「……」
 !!
 おれの左手が由美子さんの左手に触れた瞬間、由美子さんの体がふわりと前に進んで
その手を外していた。
「なによ、腕組みたいの?」
 そういって満更でも無さそうに笑う。
「いやぁ……」
 と、いいつつ、また手を伸ばす。
 とにかく手を取って捻ってしまおう。
「……」
 さっ、と由美子さんが動いた。
 むう……。
 やるな……。
 さっきから必要最小限の動きでおれの手から逃れている。
「てい!」
「おっと」
「おらっ!」
「えい」
「ぬあっ!」
「ほい」
「つあっ!」
「あ、惜しい」
 段々とムキになってきてしまった。
 由美子さんは余裕でおれの手をかわしている。
「ふっふっふ、そんな動きじゃ私は捕まえられないわよ」
「なにをう、絶対捕まえてやるぞ」
 ちょっと本気でそんな気持ちになってしまう。
「うふふ、捕まえられるかな?」
 そういうと、由美子さんは走り出した。
「くそ、待て、由美子さん」
 おれは思わず追い掛ける。
「柏木くん、こっちよこっちよ」
「待ってよ、由美子さん」
 ………………。
 ………………。
 ………………。
 待て待て待て待て!
 なんでおれが由美子さんを追っかけなきゃいけないんだよ!
 おれが逃げてんじゃないか。
 と、いうわけで本来の目的を遂行することにした。幸い、由美子さんは軽やかなステ
ップでだいぶ遠くまで行っている。
「……」
 おれは無言で由美子さんに背を向けて走り出した。
「あ、どうしたのー!」
「……」
 無言で走る。
「そっか、今度は私が柏木くんを捕まえるのね」
「……」
 とにかく、走る。
 二十秒ほど走っただろうか。
「おーい、柏木くーん」
 横から由美子さんの声がした。
 え! 嘘ぉ!!
 おれ、全力疾走してたんだぜ!
 おれは立ち止まって横を見た。
 紛れもない由美子さんがなぜか民家の屋根に立って手を振っていた。
 と、由美子さんが飛んだ。
「おお!」
 おれの口から思わず感嘆の声が漏れる。
 美しいフォームで彼女は飛んでいた。
「へぶっ!」
 膝が、おれの頭頂に落ちてきた。
「捕まえたわよ」
 さすが由美子さん、ルチャもできるのね。
 これは……もう……穏当にとか、怪我させないようにとか、だって女の子だし、とか
いってられる状況じゃないな。
「せいっ!」
 おれは、さすがに悪いとは思ったが、おれの頭の瘤を撫でている由美子さんの、がら
空きのボディーにパンチを見舞った。
「うっ……」
 と、呻いて、由美子さんは気を失った。
 よし、今だ。
 逃げる逃げる逃げる。
 おれは、柏木家の近くまで来て一息ついた。ここまで来ればもう大丈夫だろう。
 刹那。
 後ろに気配。
「ぬ!」
 おれが振り向く前に何か二本の長いものがおれの胴体に巻き付いた。
「うげっ!」
 それに気を取られた瞬間、首に同じく二本の長いものが巻き付いてくる。
「捕まえた!」
 胴体のは両足。首のは両腕だ。
「柏木くーん、女の子のお腹は大事なんだよぉ」
 と、いいながら由美子さんの右腕が首を前から押し、左手が後ろに回っておれの後頭
部を前に押し出している。
 みしっ。
  おれの首の骨が軋む音がした。
 胴締めスリーパーだ。
「もうあんなオイタしちゃ駄目だよお」
「はーい」
 と、おれは掠れた声でいった。
「じゃ、柏木くんの親戚の家に行こうか」
「はいぃぃぃ!?」
「隆山には柏木くんの親戚の家があるんでしょ、そこに行くんじゃないの?」
「いや、その」
「ずっとここに住んでる人なんでしょ、色々話聞きたいなあ」
「そ、そう?」
 そういえば、由美子さんはこの隆山に伝わる民話や伝説に興味を持っているんだった
っけか。
「じゃ、出発!」
「はーい」

 とりあえず、おれはかなり遠回りな道を選んで柏木家に向かった。
 逃げようにも、由美子さんはおれの背中にへばりついたまんまである。まあ、早い話
がおんぶの体勢になっている。少しでもおかしな動きをすれば腕が頸動脈を絞めに来る
だろう。
 背中に由美子さんの、決して小さくはない胸が押し付けられているのがよいといえば
よい。
「あ、柏木くーん」
 くいっくいっ、と右の耳たぶを引っ張られた。右折の合図だ。
「どうしたの?」
 と、いいながら、おれはすぐ前の角を右に曲がった。
「こっちに次郎衛門の墓があるお寺があるんでしょ」
 そういや、そうだった。
「私、この前来た時は時間が無くて見れなかったのよ、そっちに先に寄っていかない?」
「ああ、いいよいいよ」
 そういうことなら大歓迎である。とにかく時間稼ぎになる。
 その浮いた時間で何かいい対策を練らねば。
「じゃ、行こう」
 と、由美子さんがおれの頭を撫でた。頑張ってスピードアップしてね、の合図だ。
「はーい」
 おれは、小走りになって寺にと向かった。
 その寺は柏木家の菩提寺で、おれの親父や、千鶴さんの両親や、爺さんが眠っている
ところなので、何度か行ったことがあった。
 由美子さんはそこで次郎衛門の墓を見て、手を合わせて、墓の隣の石碑に彫ってある
文字など読んで機嫌が良さそうだ。
 おれが無い智恵絞って考え事をしていると、声が聞こえてきた。
 あの声は忘れもしない。

「お線香とお花は持った?」
「線香は楓が持ってるだろ」
「はい」
「お花は私が持ってるよ」

 どうしましょ?

 1 由美子さんをおぶったまま、ごく自然に「やあ、奇遇だね」と挨拶する。
 2 助けて、次郎衛門!
 3 第4走者(貸借天さん)に託してみる。

                                    続く


     あー、どうもどうも、第3走者のvladでした。
     なんか難しいとこで貸借天さんに渡しちゃったかなあ(笑)
     なお、作中に出てくる「ルチャ」というのはメキシコプロレスの
     呼び名みたいなもんです。とにかく、飛びまくる空中戦の多いス
     タイルなので、空中殺法の俗称として使われることもよくありま
          す。(好き者ですんません)                                                           

     第2走者のくまさん。
  >次回、第三走者はvladさんです。
    >おそらく投げや関節が飛び交うお話になることでしょう。ね、vladさん?
    >(注・多分なりません)
      なりました(笑)