幻狼院リレーSS 『ボコ志保〜怒りの浩之〜』 最終話 投稿者: 幻狼院
これまでのあらすじ
 ある日のこと。
 藤田浩之は、幼なじみであり恋人でもある神岸あかりから、衝撃的な言葉を聞く。
「その……来ないの……」
「誰が?」
「……あれ……」
 しかしそれは、二人の共通の友人である長岡志保の入れ知恵による嘘であった。
 志保にきついお灸を据えてやろうと思った浩之であったが、志保が家に帰っていないこ
とを彼女の母から聞く。
 その頃、当の志保はひょんなことから本物の拳銃を手に入れてしまっていた。悩んだ末
に浩之の家に行った志保であったが、大騒ぎしているうちにあかりが病院に運ばれて事態
は悪化するばかり。
 病院でも騒ぎを起こした浩之と志保は、拳銃を取り引きしようとしていた組織のボスで
あり、凄腕の殺し屋でもある宮内レミィが待ち受けているとも知らずに建設途中のビルに
逃げ込んだ。狙われる二人。そして、来栖川にも動きが……。
 ビルに侵入したレミィは、病院で志保が起こした騒ぎを『出入り』だと思い込んだ東鳩
組の組員と交戦する。そして、その間に屋上へと辿り着いた浩之たち二人の前に、来栖川
のヘリが現れたのだった。

 彼らの運命は、いかに――



   最終話 My dear friends.



「あ、綾香!?」
「ずいぶんと格好いいじゃない、浩之」
 疲れた様子の浩之を見た綾香は、そう言ってクスクスと笑った。
「どうしてお前がここに?」
「仲間のピンチには必ず駆けつける。それがヒーローってもんでしょ?」
「……説明になってねーぞ」
「そんな話は後よ。ヘリに乗りなさい」
「お、おう」
 浩之と志保は、思わぬ救援の登場で『このバカ騒ぎもこれで終わりだ』と思った。
 思ったのだが……。

 バタンッ!!

 背後のドアが勢いよく開いた。東鳩組の組員を始末したレミィが、ようやくやってきた
らしい。
「狙った獲物は逃がさない!! それがこの、宮内レミィネ!!」
 レミィは弓に『矢』をつがえ、キリキリと引き絞る。
 そして……。

 ひゅんっ!!

 風を切って進む『矢』は、ヘリのローターのすぐ下に突き刺さった。
「しまった!! エンジンが!!」
 パイロットが叫ぶ。エンジンをやられたとはいえ、オートローテーションでゆっくりと
着陸することはできる。そのためか、パイロットの声に悲壮感はなかった。
「浩之!! 長岡さん!! 早く……早くっ!!」
 それとは対照的に、悲痛な声で叫んだのは綾香だった。浩之たちの方に精一杯手を伸ば
している。……が。
「届かねえっ……!!」
 一階から屋上まで全力で走ってきた浩之たちには、ヘリまでのたった5mすら駆け抜け
る体力は残っていない。
「くそっ!!」
 最後の力でヘリに飛びつく浩之と志保。だが、ようやく届いたのはヘリの足だった。
「セバス、手伝って!!」
「はっ!!」
 ヘリはゆっくりと降りていく。必死に手を伸ばす綾香とセバスチャンだったが、あと少
しというところで届かない。たった20cm、いや、10cmの距離が四人には無限の隔
たりに思えた。

 びゅうっ!!

 風に煽られてヘリが揺れる。
「しまっ……!!」
「きゃあっ!!」
 浩之と志保の体力は限界に来ていた。突然の横揺れに、つい手を離してしまう。
「浩之っ!!」
 水平に投げ出された二人は、ビルの中程の階に叩き付けられた。
 まだ窓にはガラスがはめられていない。それは幸運だったのだが……。
「く……ああっ!!」
「いたたた……ヒ、ヒロっ!?」
 浩之は、左肩と額から血を流していた。一方、志保の方は目立った外傷はない。
「ヒロ、あんた……あたしをかばって?」
「ハハ……いくらお前でも、死なれちゃ寝覚めがわりぃからな」

 ブルブルブルブルブルブルブルブル……。

「あ……」
「どうした?」
「電話……」
「オレのことはいいから出ろよ」
「うん……はい、もしもし?」
 志保の顔が見る見るうちに青ざめていく。
「おい、どうした?」
「あかりが……あかりの容態が悪化したって!! ヒロ、どうしよう!?」
「どうするって……」

 カンカンカンカンカンカンカンカン……。

 上の階から足音が響いてくる。レミィだ。
「志保、銃を出せ」
「え?」
「オレがあいつを引きつけている間にお前はあかりのところへ行くんだ」
「何言ってんのよ!! あんたが行かなくてどうするの!? あんたがあかりの一番大切
な人なんだからね!! わかってんの!? それに、あんたに死なれたりしたら、あたし
はあかりに一生……一生、顔向け出来ないじゃないのよぉ……」
「志保……」
 浩之は、志保が泣いているのを初めて見た。そしてこの少女が、周りに思われているよ
りもずっとずっと友達思いであることも改めて知った。
「……しょうがねえなあ。そのうち綾香が来るだろうから、それまでの辛抱だぞ」
「ほら、さっさと行きなさい。怪我がひどいんだから、ついでにあんたも入院しちゃいな
さいよ。あかりと一緒にね」
 浩之の言葉を聞いて、志保は涙を拭いながら言った。
「……一つだけ言っとくぞ。お前もあかりの『大切な人』の一人なんだからな。無事に帰
って来い。それこそ、あかりに顔向け出来ねぇからな」
「ヒロ。こんなことに巻き込んで、あたしも悪いと思ってるのよ。だから決着はこの手で
付けるわ。そして、絶対に無事に帰る。あんたたちのお見舞いに行かなくちゃいけないし
ね」
「お前まで入院しないようにな」
「あら、あたしはそんなに野暮じゃないわよ」
「あん?」
「二人の邪魔をするほど……ね」
 そう言った志保の横顔が、少し寂しそうに見えたことに浩之は気付いただろうか。

 カンカンカンカン……コツ、コツ、コツ、コツ……。

 絶え間なく響いていた足音が変わった。どうやら、レミィはこの階に着いたようだ。
「さあ、行きなさい!!」
「おう!!」
 志保が階段に向けて拳銃を構えると同時に、浩之が飛び出した。
「そこッ!!」
「させない!!」

 ドンッ、ドンッ。

 レミィが弓を浩之に向けると、志保は威嚇のために発砲した。
 とっさに飛び退くレミィ。
「よし、これで邪魔者はいない!!」
 浩之が階段へと飛び込む。
「シマッタ……。シホ、アタシはアナタを許さない……」
「許さなきゃどうだって言うのよ!! 関係ないわ。いい加減、あたしだって頭に来てる
んだからね!!」

 ドンッ、ドンッ。

 ビルに銃声が響く。その音を聞きながら、浩之は志保の無事を祈っていた。
「へへ……志保の無事を祈るなんて、一生に一度のことだな、こりゃ……」
 その時、誰かが下から駆け上がってきた。
「浩之!! その傷……待ってて、すぐ病院に連れていって……」
「綾香か。オレのことはいい。上で志保がレミィとやり合ってるから、助けてやってくれ」
「……もう、しょうがないわね。あなたも言い出したら聞かない方だから。うちのパイロ
ットが怪我をしたんでセバスが車を手配したわ。それに乗って病院に行くといいわ」
「すまねえな」
「いいのよ。後は任せておいて」
 体を引きずって階段を下りていく浩之を見ながら、綾香は呟いた。
「全く……。浩之と言い、姉さんと言い、セバスと言い、どうして私の周りにはこうも頑
固者が多いのかしら」

 ドンッ、ドンッ。

 さっきから何発も撃っているが、当たらない。志保自身、それは分かっていたことだっ
た。裏の世界を渡り歩いてきた人間を相手に、素人の自分がどんなに頑張ろうと勝ち目が
ないことぐらいは。
「来栖川さんはまだなのっ!?」
 結局は時間稼ぎなのだ。相手の攻撃の暇を与えないこと。それだけが、今の志保に出来
る最大の努力だった。しかし、いつかはそれすらも出来なくなる。

 カチッ、カチッ。

「弾切れ!? こんなことなら、あんなところで無駄弾を使うんじゃなかったわ……」
 志保の脳裏に、路地裏や病院でのことが甦る。
「これで終わりネ!!」
 レミィの弓が志保を捉える。終わった――志保がそう思ったとき。

 ドンッ。

 レミィの弓を銃弾が貫いた。
「誰!?」
「仲間のピンチには必ず駆けつける。それがヒーローだって言ったでしょ?」
 いまだ硝煙を引く銃を持った綾香がウインクした。
「まだ……まだ終わってないネ!!」
 レミィは志保に体当たりを仕掛ける。
「往生際が悪いわね。いい加減にしなさい!!」
 志保もレミィに向かって駆け出す。
「志保ちゃんキイイイイィィィィィーーーーーーック!!」
 カウンター気味にキックを食らったレミィはダウンした。
「これで一件落着、ね」
 綾香は安心したように呟いた。


 それから数十分後。
「やっと戻って来られたわ……」
 あかりの病室に辿り着いた志保が見たものは、あかりの手を握ったままベッドに倒れ込
んで眠る浩之の姿だった。
「……邪魔しちゃ悪いわね」
 志保はそう呟いて病室を後にした。


 その後、浩之は医師の治療を受けてあかりと同じ病室に入院した。
 そのせいかどうかは知らないが、あかりの容態も安定した。
 志保は、大した怪我もなかったので毎日浩之たちの病室に見舞いに来て二人をからかっ
ている。浩之に『邪魔しないって言ったくせに』とブツブツ文句を言われたりもするが。
 レミィは、来栖川に連れて行かれた。綾香によると、その戦闘力を見込んで黒服部隊に
スカウトしたかったのだという。

 平和な毎日が、戻ってきた。

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幻狼院リレーSS 『ボコ志保〜怒りの浩之〜』

Cast:

     藤田浩之
     神岸あかり

     長岡志保
     宮内レミィ
     来栖川綾香


     セバスチャン
     宮内シンディ


     志保の母
     レミィの父


     エキストラの皆さん




Staff:

    企画

       八塚崇乃


    メインタイトル

       紫炎
       くま


    脚本

     第一話 プロローグ
       vlad

     第二話 馬鹿が銃持ってやってきた
       紫炎

     第三話 金色の流れ星
       八塚崇乃

     第四話 獲物を追う者たち
       貸借天

     最終話 My dear friends.
       くま




Special thanks to:

    Leaf official HP  即興小説コーナー

    りーふ図書館            SS書き込み伝言板


    そして、読んで下さった全ての皆様へ



     1999      幻狼院

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 そして……。

「ねえ、浩之ちゃん。私ね……」
「あん?」
「嬉しかったんだよ、すごく……」
「……なにが?」
「『覚悟を決める』って言ってくれたとき、本当に嬉しかったんだよ……」



                                   終わり

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 ども。アンカーのくまです。

 第四話が発表される前に考えていたエピソードを無理矢理入れてます。少し強引かも知
れません。例えば、警察は来栖川から圧力がかかってて出動できなかったことにしてます
(第四話では警察が来るのも時間の問題と浩之が言ってましたが)。ただ、そのおかげで
全体のストーリーを組み立てるのは簡単でした。つじつまを合わせればいいだけですから。

 そうそう、文中で『矢』と書いてあるのは矢の代わりに何か建築資材を撃ってるってこ
とです。面倒なのでこれで統一しました。

 当初、アンカーなのでラストを2パターン作ろうかと思いましたが、大変なのでやめま
した。この話気に入ってますし。

 ちなみにあらすじやスタッフロールに、やけに力が入ってるように見えるのは気のせい
です。あらすじはほんの数分で書けましたし。スタッフロール、敬称略でごめんね。

 それでは、また。



http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5164/