幻狼院リレーSS 『ボコ志保〜怒りの浩之〜』 第一話 プロローグ 投稿者:幻狼院


「っだぁぁぁぁっっっ!!」
 浩之は激怒の真っ最中であった。
「のぉぉぉぉぉぉっっっ!!」
 怒っていた。
「うがあああああっっっ!!」
 血管が浮いていた。
「おるああああああっっっ!!」
 庭に出て、壁を殴った。
「しゃぁぁぁっっっ!!」
 木を蹴った。
「浩之ちゃん……」
「おら! おら! おらぁぁぁっ!」
 地面を転がった。
「あの、浩之ちゃん、ごめんね」
「くそ! くそ!」
 受け身をとりまくった。
「ごめんね、私、浩之ちゃんのこと考えないであんなことを……」
「畜生っ! 志保の野郎っっっ!!」
 でんぐり返った。
「ごめんね、ごめんね」
「ええい! あかりは悪くねえ、諸悪の根源はあの馬鹿だ!」
 浩之は立ち上がり、荒い呼吸を整え、心を落ち着かせた。
 心が落ち着くと、浩之はバツの悪そうな顔で家の中に入った。
 現在、時刻は午後10時、今の叫喚は思い切り近所迷惑だった。
「畜生っ!」
 しかし、まだ怒りが冷めやらぬといった感じで浩之は吐き捨てた。あかりがなす術な
くそれを見ている。
 ことの起こりは10分前。あかりが夕食を作りに来てくれて、それを平らげて二人で
テレビを見ていた時だった。
「浩之ちゃん……」
「なんだよ?」
「その……来ないの……」
「誰が?」
「……あれ……」
「どれ?」
「その……」
「……ちょっと待て、あかり」
「うん」
 浩之は深呼吸をした。
「来ないのか?」
 真剣な顔で聞いた。
「うん」
「どうする?」
「どうするって?……」
「お前が産みたいっていうなら、産んでいいぞ」
「浩之ちゃん……」
「まだ高校生だから色々と面倒なことがあるから、おれは産まない方がいいと思うけど
……お前がそうしたいなら、おれも覚悟を決める」
「浩之ちゃん……」
「父親になる覚悟をな」
 ぽん、とあかりの頭の上に手を置いて、浩之は、はっきりといった。
「そして、お前の夫になる覚悟だ」
「あの……浩之ちゃん……」
 あかりが上目遣いで浩之を見ている。
「ん?」
 浩之が優しい笑顔をあかりに向けている。
 だから、それをいうのをあかりは躊躇った。しかし、ここでいっておかねば取り返し
のつかないことになると思った。
「ええっと……嘘……」
「嘘じゃねえさ」
「その……違うの……」
「あん? 何が?」
「その……あのね……うんとね……」
「あかりぃ……」
 浩之の表情と声に険しさが宿った。
「あのね……そのね……ごめんね」
「あかりぃぃぃぃぃぃ」
 険しさがさらに増す。
「まさかとは思うけどよ……」
「たぶん……そのまさか……」
「あかりぃぃぃぃ、いつから男の純情もてあそぶ子になったんだ!?」
「そ、そんなもてあそぶだなんて……」
「わかった! ようくわかった! あかりがそんな悪女だとは思わんかった!」
 浩之は、裟な身振りをつけながら叫んだ。
「しかし……どういうつもりでそんな心臓に悪い嘘つきやがったんだ?」
「えっと……その……それは……」
「単純で純朴なお前がそんなタチの悪ぃ嘘を自分で考えたとは思えねえ、さあ、誰が入
れ知恵しやがった! 吐けぃ!」
「……」
「……っていっても、大体予想はついてんだ」
「……」
「……志保だろ」
 あかりが、頷いた。

「あかり、浩之とつきあい始めてもう半年でしょ、あの馬鹿浮気なんかしてないでしょ
うねえ、あいつはちょっと女ったらしなとこあるからね、気をつけておかないと駄目よ。
あ、そうだそうだ! 浩之の愛を確かめるいい方法教えたげる」

「志保ぉぉぉぉぉっ!」
 浩之が叫んで庭に飛び出て……後は御存知の通り。

「畜生、志保の野郎、今すぐ一言いわにゃ気がすまねえ」
 壁をぶん殴って傷めた拳をさすりながら浩之は電話のある玄関へと向かった。
「浩之ちゃん……」
 あかりが心配そうな顔してついてくる。
「馬鹿正直なあかりに変な知恵つけやがって」
 浩之はズンズン進む。
「待って、浩之ちゃん、私が悪いの、志保はきっとちょっとした冗談のつもりだったん
だよ」
「あのアマ、どうしてくれよう」
「浩之ちゃん、志保は悪くないよ、悪いのは私なの」
 浩之が振り返ると、あかりが潤んだ目で自分を見つめていた。右腕の袖をしっかりと
両手で掴んで、あかりは小刻みに震えていた。
「うむ」
 浩之が頷く。
「確かに、馬鹿正直に志保のくだらん入れ知恵を実行したお前も悪いな」
「う、うん」
 なんだか、浩之の表情に、昔自分をよくいじめていた時の雰囲気が蘇ったような気が
して、あかりは不安そうな顔で頷いた。
「ツラ出せ、デコピンの刑に処す!」
「ええっ!」
「早く! オモテを出せぃ!」
「う、うん……」
 あかりは今にも泣き出しそうな顔を、浩之に向けて突き出した。
「両手は腰ぃ! んじゃ行くぞぉ」

 ばちん。

「んんんんっ!」」
「さてと」
 浩之は「んーっ、んーっ」と唸っているあかりを尻目に電話から受話器を取り上げよ
とした。
 すると、その寸前、電話が鳴った。
 仕方ないので受話器を取る。
「もしもし、藤田です」
「あ、藤田くん?」
 どこかで聞いたような女性の声だ。歳がけっこう行っているようなので、学校の同級
生ではないだろう。
「えっと……志保のおばさん……ですか?」
 浩之は、以前その女性に何度か会ったことがあった。
 果たして、受話器の向こうの女性は志保の母親であった。
「なんすか? 志保は来てませんけど」
 むしろ、こっちが奴に用があるのだが……。
「志保が帰ってないのよ」
 なんじゃかんじゃで時刻は10時半。
「あの子、10時より遅くなる時は絶対家に連絡を入れるのに……」
 夜な夜な自由奔放に遊び回っているようでいて、親には心配かけないように一応、気
をつかってはいるらしい。
「ああ、はい、そんじゃ、なんかわかったら電話します。はい」
 浩之は受話器を置いて、それから手を離した。
「志保の家に電話するんじゃないの?」
 まだ痛いのか、おでこを押さえながらあかりがいった。
「今の、志保のおばさんからだった。あいつ、まだ帰ってねえらしい」
「え……」
「もう10時半だってのに……何やってんだかな」
 浩之は、呆れたようにいおうとして、失敗していた。
 12時になると同時にあかりは家に帰った。

 翌朝。
 志保の家に電話をすると、志保はまだ帰っていないとのことだった。

                                     続く

     どうもvladです。
     幻狼院っていうのは、このリレーSSを書くにあたって定められた
     私と、それから数人の方の共通HNです。
     これは、一部のSS作家の吹き溜まりになっていた紫炎さんの
     HPの掲示板で「このメンツがいれば、リレーSSができる」
     と、八塚崇乃さんかどなたかが発言したのをきっかけにズ
     ルズルと企画が立ち、ダラダラと計画が進んで、やっと今、この
     ように第一話が日の目を見ることになったものです。

     では、第二話担当の紫炎さん、あとはよろしく。