みんなの支援でしえんです。 投稿者:くのひち・トム 投稿日:12月21日(金)01時12分
 まー、なんだ。
 披露宴なんてものは、お世辞と自慢話の集大成てなもんだとばっか思ってたけど、こ
うして自分が主役になってみると案外いいもんだな。なんつーか、みんなが祝ってくれ
るのが実感できてさ。ま、そりゃ確かに準備は大変だったけどな。と、言いつつもだ、
ホントはオレ、なんにもしてねーけどな。持つべきものは友というかなんてーか、雅史
を始めとするみんなが2次会だけじゃなく披露宴まで仕切ってくれたんだな、これが。
 会場もいわゆる結婚式場やホテルではなく、郊外のログハウスを貸し切りで使用して
いる。山の中にあるもんだから、最初はずいぶんと迷っちまったがその分集まった者た
ちに一体感がでているような気がするから結果オーライってか。
 そんなこんなで実にアットホームなカンジで宴は進行中であったりする。


「さて、お次はみなさんお待ちかね、友人代表の挨拶をうけたまわるわよっ!」

 馴れないケンジョー語が変な司会は、志保だ。長岡志保。ったく、だからこういうの
は委員長にまかしとけってーの。久しぶりに帰国したってのに、マトモに話す時間もな
いんだからな。もっとも、落ち着いてる志保なんて想像もできねーし、今みたいな活気
のある場所にいる方がアイツらしいし、合ってるんだろうな。

「ヒロユキ、ドレスがtightで料理が食べられないデス」
「我慢しろって。2次会でたらふく食おうぜ」
「ワカリマシタ。今はこのてーたらくで我慢しまス」
「てーたらく……って違うだろーが。それよりほら、スピーチが始まるみたいだぜ」

 レミィ…なんで食い気に走る?
 一生にたぶん一度のメモリアルイベントってやつじゃねーのか?
 いつもと違って髪を下ろした大人っぽい姿のレミィだったが、中身はいつものままの
よーだな。
 オレはついさっき家族になったばかりの彼女にあきれつつも、そんなマイペースなと
ころがまた好きだとか考えちまった。って、ノロケか?

「浩之くん、レミィさん、ご結婚おめでとうございます」

 オレたちが話してたうちにもプログラムは進んでいたようだ。オレは委員長に上半身
だけで会釈を返した。
 ――って、委員長!?
 新婦側じゃない…新郎側だよな? まあ、どっちが先でも別にかまやしねーが、それ
にしてもてっきり雅史が出てくるとばかり思ってたけどなぁ。あんまり、友人代表で異
性が出るっていうのも聞いたことねーし。

「さて、人生で大事にしなければいけない3つの袋というものがございます」
 またずいぶんとオーソドックスな話だな。委員長らしいと言えば、らしいけど。

「ひとつめは『紙袋』です」

 ――ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!

「最近ではあんまり見かけんようになりましたが、エチケット袋の代わりに使うと下の
方からジワジワと染み出してくるので気ぃつけんといけません」

 …………なんかおかしい。

「ふたつめは『ビニール袋』です。スーパーやコンビニでお馴染みの袋ですが、最近で
は燃やしても塩化水素なんかの有害ガスが出んように、ポリエチレン製のものが増えて
きています」

 ……はあ。

「みっつめは『メンフクロウ』です。顔面がハート型で、いかにもお面をつけているよ
うなのでこの名前がつきました。こんのフクロウは典型的な夜行性で、暗闇の中でも音
だけでハツカネズミ等の獲物を捕らえよるんです。そんなところで、うちからの祝辞に
代えさせていただきます」

 ――なんなんだ、なんなんだよ、おい。
 わけわかんねぇぞ、委員長。
 委員長の帰り際、一瞬目が合った。


 ――どや?


 そんな声が聞こえてきそうな表情だった。……つまり、アレか? イヤガラセか?
 そうか……そうなんだな!? わけのわからないこと言って『Youの友人はみんな
Otherプラネット出身デスカァ?』なんていう印象を植え付けようとしているって
か!?

「ヒロユキ…」
 目を大きく見開いたレミィが隣りに居る。
「あぁ…」
 曖昧に答える。レミィも何が何だかわからないのだろう。
「トモコはトテモ物知りダネッ! アタシも袋を大切にスルことにしたヨ」
 ――えぇぇぇぇ!?
「そ、そうだな…えらいぞ、レミィ!! 資源は大切にしないとな」
「エヘヘヘヘ」

「さて、お次は新郎の友人代表2人目の登場よっ!! それでは、姫川琴音さんどうぞ
ーーーーー」

 ――って、おいぃぃぃぃぃ!!
 なんで代表が2人も居んだよっ!!
 あ……そうか、そうなんだな。さっきの委員長はちょっとした余興ってヤツで、琴音
ちゃんのがホントのスピーチなんだな。

「藤田浩之さん、レミィさん本日はおめでとうございます。友人代表の挨拶という大役
を仰せつかりましたこと大変嬉しく思います」

 たのむっ!! マトモなことを喋ってくれぇぇぇ!!

「高校時代にわたしは3回教室でHしました」

 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーー。
 なななな、なんてこと言うんだ、琴音ちゃんっ!!
 ……や、やべぇ、会場がざわめきはじめた……シンディなんて眉間にしわを寄せて、
あきらかに訝しんでるぞ。

「教室でHするのはいいですね。いつ誰が入ってくるかわからないという緊張感が、い
つもよりたくさんわたしを濡らしました。自分にマゾの気もあるのではないかと思った
のはそのときでした。学校というものが個人の可能性を拓くって本当だったのですね」

 や、やめろ。やめてくれ、琴音ちゃんっ!!
 おい、誰か止めさせろっ! 志保、なに大ウケしてんだよっ!!
 …オレが止めさせるか?
 いや、それはマズい。あからさまにオレが相手だって言うようなモンじゃねーか。

「それと、開放的なのも教室でHする魅力のひとつですね。そんなことがあってからと
いうもの、教室に入るたびに子宮の下のあたりがジンジンして困りました。そのうち、
わたしはパンティを穿くのをやめました。スカートに染みがついたらどうしようか、と
か、それを誰かに見つけられたらどうしようかなんて考えているとますます濡れてきて
どうしようもなく身体が火照ったのもいまではいい思い出です。そんなわたしの可能性
を拓いてくれたあの人に感謝しつつ、お二人への祝辞に代えさせていただきます」

 その瞬間、会場は静まりかえっていた。さっきまで散発的に聞こえていた子供の声も、
親に連れていかれたのか姿が見えない。そんな中を琴音ちゃんは何事もなかったように
自席へと歩いていった。
 琴音ちゃん……なんかオレに怨みが…………いや、あるのか。
 やべぇ、やべーぜ。シンディなんかワインを水のように飲み始めてるしよー。
 いったい雅史もなんのつもりでって……そういや今日雅史見てねーよな……なんで気
がつかなかったよ、オレ。雅史がオレの結婚式をバックレるなんてありえねぇし…なん
かあったのか?
 ……いや、今ここでいったい何が行われてるんだ!?

 会場がこれ以上ないくらいに騒がしくなってきていた。シンディなんかは既に目がす
わっていて、何もない空間を口元を緩ませながら睨み付けている。

「ヒロユキ…」
 レミィが神妙な顔でオレを見る。
「な、なんだ?」
 ちょっとドモってしまった。…動揺してるのか、浩之?
「コトネって………」
「お、おぅ」
「コトネって大胆ダネッ!! アハハハハ」
「そ、そうだな、びっくりするよなぁ、まったくよー」
 レミィがおおらかな性格でよかった……。
 サンキュ、レミィ……オレは心の中で花嫁に感謝した。
「ダイジョブデス、ヒロユキ。アタシ気にしてマセン」
「えっ?」

 会場のざわめきは最高潮に達していた。もう、各々の会話の内容が聞き取れないくら
いに…。
そうだ、これでこのまま中止ってことになったほうがいいような気がする。オレの沽券
とか身の安全とかを考えると。
 うん、そうだ、それがいい。ここはオレは一発中止の宣言を――

「みなさん、静かにしてくださいっ!!」

 声が響いた。オレではない声が。
 あかりだ。会場の真ん中で1人立ち上がっている。
 そうだ、あかりがいた。アイツならオレの味方をしてくれるだろう。何せ、藤田浩之
研究家だからな。今、オレが何を考えていて、何を望んでいるか、あかりならわかるは
ずだ。
 あかりに注目が集まるにつれ、だんだんと会場は静かになってきた。
 さあっ! さあっ!! はやくこのおかしな宴を終わりにしてくれ。

「さあ、続きをはじめましょう」

 そう言ってあかりは席についた。座るとき微かにあかりが笑ったのをオレは見逃さな
かった。つき合いの長いオレだからこそわかるくらいの微笑み。

 ――アイツが首謀者だっ!!

 オレは確信した。
 そして何故、披露宴がこの街里離れた山小屋で開かれているのかも理解した。
 優秀なハンターである狼の群は、徐々に獲物を弱らせていくという…。

 あかり…今日のオマエは、狼チックだよ。
 今のオレにはそう呟くことしか出来なかった。
 オレに……勝ち目は………あるのか?

 その後、友人代表の挨拶は延々と5時間程続いた。既に、2次会の時間に差し掛かっ
ている。いつもまにやら人は少なくなっていて、残っているのはレミィの家族とオレの
『知り合い』だけだった。

「ヒロユキ、お腹が空きマシタ…」
「ああ、レミィ。家帰ってからたらふく食べような」

 ――ここを生きて出られたら。

 その言葉をぐっと飲み込んで。

 新たな宴の予感をオレは感じていた――