やつざき 投稿者:某レミィファン
 ふふふ。
 このお話を、ひさびさのさん(仮名)に送ります。
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 いぐさの香り。そんな青い香りに混じって、赤い匂いがする。まるで、それ自体が熱
を帯びているように俺の身体にまとわりついてくる。
 ここちよい。ここちよい、暖かさだった。

「…んっ、あれっ、寝ちまってたのか」
 どうやら畳の上で、うつ伏せになって眠っていたらしい。身体を起こすと、背中を滑
っていくものがあった。…タオルケットだった。初音ちゃんだろうか?

 うーん、と伸びをして台所に向かう。微かに漂う香辛料の匂いに誘われるように。
「よっ、起きたんだ」
 そう言って俺を出迎えたのは、エプロン姿の梓だった。
「おう、梓か。あれ…初音ちゃんは? まだ、帰ってないのか?」
「えっ、初音? 一度戻って、もう先に行ったんじゃないの?」
 そう言いながら机の上の(おそらく下ごしらえされた)材料の上に、虫除けのカバーを
被せる梓。
「行くって、どこへ?」
 俺がそう言うと、梓はあからさまに呆れた顔で、
「家のお風呂が壊れたから今日は銭湯に行ってくれって、今朝千鶴姉が言ってたでしょ。
お忙しい大学生さまは、もう忘れたわけーー?」
 と言った。

 そうだった。あれって今朝のことだったっけ。
「へいへい、忘れてましたよ。で、梓。おまえは――あっ」
「なによぅ」
 赤い匂いだ。そうか、さっきのは…
「汗くさいぞ」
 みるみる赤くなる梓の顔。首のあたりまで真っ赤に染まっている。
「うっ、うっさいわねーーー。これから行くわよ!!」
 ドスン、ドスンと音を立てながら部屋を出ていこうとする。
「って、おいっ! ちょっと待てって!」
「なによーー」 とジト目。
「タオルケットありがとな」
 どうしていいかわからない顔で、あっ、あっ、と声にならない声を出して俯く梓。

「あ…あたし、これから銭湯に行ってくるね…」
 そう言いながらその場を動こうとしない。
 はは〜ん、さては…

 乳を揉んでほしいんだな。             (一緒に行ってほしいんだな)
 もみもみ。

「わっ! ……なにしとんじゃ〜〜!!」
 ガッ!(肝臓にジャブ) ドゴッ!(鳩尾に膝打ち) ドカドカドカドカッ!(もろもろ)

「ぐはっ、お〜い、梓。もうちょっとゆっくり歩いてくれよー」
 何故かご機嫌ナナメの梓は、銭湯に行く間ずっとむくれていた。いったい、どこで選
択肢を誤ってしまったのだろうか?
「…………じゃあ、帰るときは呼んでよね」
 振り返りもせずに、梓は女湯ののれんをくぐっていった。

 ざばぁ〜。
 うぐ…傷にお湯が染みる。梓のやつ、おちゃめさんだな。あんなに照れなくてもいい
のに。
『誰が、おちゃめさんだ!!』
 壁の向こうから天井に反響して、梓の声がする。…どうやら、声に出していたらしい。
「まーー、そう怒るなって! まともに胸があるのって、お前だけなんだからさ。自信
持っていいぜ」
『そんなこと、大声で言うなーーーー!! ……あぁっ!!」
「どーーしたーーー?」
 なんとなく『神田川』な雰囲気を楽しみつつ、梓の様子を伺う。

『こっ、耕一……胸が……小さい………のは……だめ…か?』

「ああ、だめだね」                   (「そんなことないさ」)

「俺はこう…揉みがいのあるくらいじゃないとな、へへっ……そんな洗濯板みたいのじ
ゃ、認められないね!」

『耕一ぃぃ……たすけ……ぐぼっ……ぶくぶくぶく』
「おっ、おい、梓! どうかしたのか!?」
 静まり返る浴場。
 いたずらにお湯の溢れる音だけが、タイルに囲まれた空間に木霊する。
 そして…

 ガラガラガラガラ…
 扉の開く音。誰かが入ってきたのか? それとも出て行くのか?
「耕一さん、お先に失礼します…早く戻ってらしてね…」
「こっ、耕一お兄ちゃん……先に帰ってるね……」
 カコーーン。俺の脳天に天井から、桶が降ってきた。これは無言の抗議か。

 うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!

 真っ白だ。

 頭の中が真っ白になっている。
 どうすればいいのか、わからなかった。このお湯はカルキ臭い。そんな関係のないこ
とばかりが頭に浮かんでいた。

 汗が吹き出てくる。
 そうだ…シャワーを浴びなきゃ。

 キュッキュッ。しかし、蛇口をひねっても一向にお湯の出る気配はなかった。そのか
わり…
『こう……い…ち…………こうい……ち……』
 うめくような声が聞こえてきた。
 にゅるにゅるにゅる…
 そして、本来お湯がでるはずの蛇口から、得体の知れないゼリー状の物体が吹き出し
はじめる。
「うっ、うわああああぁぁぁぁぁ!!!!」
 見るとゼリー状の物体が溢れているのは、俺のところだけではなかった。ありとあら
ゆる蛇口から、それは吹き出していた。

 やがて…そのドロドロとしたものは、集まり始め、8つの生命体となった。
「「「「「「「「耕一お兄ちゃん! あたし八つ裂きにされちゃった!」」」」」」」」
 8人の幼い梓がそこにいた。8等分されたので、かつての豊乳は他の姉妹よりさらに
なかった。というか、ほとんど犯罪レベルだ。

「「「「「「「「お兄ちゃん、一緒に帰ろう」」」」」」」」
 8人の梓ちゃんが擦り寄ってくる。そこはかとなく、ミルクの匂いがした。白い匂い
だ。どこか甘酸っぱい純白の香りが俺を取り囲んでいる。

 こういうときに言うセリフはそう…

「ビバッ! 貧乳!」
                                    おわり
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 オチは十兵衛ちゃんなのね…(謎笑)
 これで、あの幼稚園児好きの人も喜んでくれるだろう(遠い目)