InAnyHearts(02) 投稿者:華月姫羅
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 このSSは、『雫』小説版EDからの物語です。
 パソコン版しか知らない読者には面白くないかもしれないので、注意して下さい。

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  【3】

 あの時から3日間。
 『発信源』に辿り着く事はできなかった。
 街を歩けば必ず『粒』にぶつかった。
 けれど、その『粒』を辿って行くと、いつもどこかでプツリと途切れているのだ。
 時には何もないタダの空間で。時には『電波』に犯された形跡が無い人間の中で。
 どういう事なのか、まったく解らなかった。
 しかもその『粒』は僕の『電波集積能力』をもってしてもピクリとも動かなかったのだ。
『電波』の『粒』である事は間違いないというのに。
 けれど、いくつか解った事もある。
 まず、相手はおそらく『電波』を使い始めてまだ日が浅いだろうという事。僕自身、月
島さんや瑠璃子さんに比べれば、その経験は大した物ではないだろう。
 しかし、その僕でさえ『電波』の危険性を知っている。だからその『力』を無意味に放
出したりはしない。もしそんな事をすれば、ある程度感応力のある人間がいたなら、その
人間は『電波』の『発信源』の影響を受ける。下手をすれば発狂する。
 あの月島さんですら、日常生活の中ではその『力』を制御していた。僕が受け取ったの
は、制御しきれなかった月島さんの思考に過ぎなかった。
 けれどこの『電波』は違う。何の命令も受けていない。空中に漂うだけのただの『粒』。
 そしてこの『粒』から、その『発信源』を推測する事もできた。その力量はおそらく瑠
璃子さんと同等、もしくはそれ以下のレベル。力量だけで言えば、抵抗力のない一般の人
間の思考に多少影響を与えるくらいしかできないだろう。
 けれど、量が多すぎる。放出している『粒』の量が。
 『粒』を放出するには、まず空中に浮遊しているそれを集めなければならない。そして
その集積能力=『電波』を扱う力量なのだ。
 力量に伴わない集積能力。わからない。得体の知れない不安が、心を包み込む。
――グニャリ
 不意に、視界が歪む。
 ……またか。
 何の命令も帯びていないとはいえ、これだけの量が固まっている所にいれば、僕にとっ
ても多少の影響はあった。
「さすがに鬱陶しいな……」
 呟くのと同時に空間に漂っている他の『粒』を集め、放つ。命令は『相殺』。
――パシンッ
 そんな音が聞こえた気がした。そして漂う『粒』と僕が放った『粒』がぶつかりあい、
消滅する。
 できるだけこの『力』は使いたくなかったが、これ以上は行動に支障が出る。
――グニャリ
 また視界が歪む。『粒』だ。きりがない。
「今日はもう限界かな」
 仕方なく、もと来た道を戻り出す。
 不意に、ある言葉が頭をかすめる。よく晴れたあの日、屋上で聞いたあの言葉。
『晴れた日は、よく届くから』
 ため息を一つついて、空を見上げる。
「本当だね、瑠璃子さん」
 空は、よく晴れていた。


  §@§

「だぁ〜〜〜」
 大きく息を吐きながら机に突っ伏す。全身の力が抜けて机からはみ出した部分が重力に
従って落下する。
(ねむ……)
 欲求に身を委ねようとしたその時、頬にひんやりとした感触が伝わってくる。
「ん」
 だるいので体は起こさずに顔だけをそちらに向ける。
「疲れてるね。大丈夫?」
 そう言いながら両手に持った缶ジュースの1本を差し出してきたのは、同じ部活のクラ
ブメート、山下恵だった。
「ん〜、全然大丈夫じゃない」
 缶ジュースを受け取りながら言う私。
「それで、何か解ったの?」
 なんとか体を起こしながら尋ねる。
 彼女は『女子トイレネットワーク』の情報網の一人で、今、祐くんの事に関して調べて
くれるよう頼んである。
「うん。別にたいした事じゃないんだけど、この前の日曜、街で長瀬くん見かけたってコ
がいたよ。何か探してるみたいで、何か一人で呟いてたって」
 この前の日曜……。
 『あの日』だ。
 あの日、結局私は祐くんを見つける事はできなかったのだ。
「うん、ありがと。助かった」
「ま、別にいいけどねこれくらい。でも熱いねー。そんなにくたくたになるまで『祐くん』
のために走り回るなんてさ。あ、でもそれってひょっとして……二人の危機?」
 そんな事を言いながら騒ぐ恵の顔は、何故かとても嬉々としていた。とても不安を誘う
顔で。
「ち、違うわよ。その顔、一体なに考えてんの!?」
「別にー。あ、用事思い出したから。じゃ」
 そう言って軽い足取りで扉に向かう恵の足が、その寸前でぴたりと止まる。
「……そー言えばもう一つ。昨日の放課後、生徒会室の方見てたって。陸上部のコが……」
――シィン……
 『生徒会』、その単語を聞いた途端、私の周りの空気が変わる。私の周りで喋っていた
女子達がサッと遠のく。
 恵もいつの間にか教室から消えていた。
 けど、今の私にはそんな事全然気にならなかった。
「ふーん。生徒会、ねぇ……」
 今度は男子が遠のく。
「ふーん……」
――キィーンコォーンカァーンコォーン……

 授業の開始を告げるチャイムだけが、教室に静かに響き渡る……。


                                     98/12/18 TextUp.
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≪あとがき・そして原作者はのたもうた≫

 こんにちは。華月姫羅です。
 読んでくださった方、イイ人だぁ(涙)。
 実は今回出したのって、去年、書いてたモノなんですけど……時間経ってますね。
 【InAnyHearts】もそろそろ佳境です。この話、展開が早いですから次は
結構すぐ出せると思います。八塚先輩が(笑)。
 今回、中編という事もありショボイですが、感想貰えると嬉しいです。
 でわっ!

  クスクスクス……