InAnyHearts(01) 投稿者:華月姫羅
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 このSSは、『雫』小説版EDからの物語です。
 パソコン版しか知らない読者には面白くないかもしれないので、注意して下さい。

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  【1】

  クスクス、クスクス……

 夢を見ていた。
 いつもと同じ夢。
 長い長い廊下を唯、歩き続けるだけの夢。
 そして、それが夢だと解っている、不思議な感覚。

  クスクス、クスクス……

 笑い声が聞こえる。
 女の子の声。
 初めて聞く声。
 けれど、懐かしい声。
 誰? どこに居る?

  クスクス、ここだよ……

 声は、後ろから聞こえた。
 「遠く」ではなく、今、通り過ぎたばかりのハズの「すぐ後ろ」から。
 振り向くと、そこには「扉」があった。
 今、通り過ぎたはずの空間にある「扉」。
 そのノブに、手を伸ばす。
 触れられる。
 何故?

  クスクス、さあ、扉を開けてよ……

 そこに答えはあるの?

  クスクス、ねえ、早く……

 その声は僕の問いに答えてはくれなかった。
 けれど、僕は解っていた。
 答えはソコにあるのだと。
 何故なのかは解らない。
 けれど、確かにその時、僕は全てを理解していた。
 ノブに手をかけ、回す。

  クスクス、さあ、扉を押して。
  ほんの少し、力を入れるだけ。
  さあ、早く……

 どこかで、開けてはならないと咎める声が聞こえた。
 けれど僕は、自分自身の好奇心と、その声の不思議な魅力に抗う事ができなかった。
 僕はそっと、「扉」を押した。

 そして僕は全てを理解した。
 歯車は「再び」回り出す。
 ……もう、止まらない……。


  【2】

「それでねそれでね」
 ここは学校の近くにあるファーストフード店。
 僕の目の前に座っている同じ学校の女子生徒――新城沙織ちゃんは、話し始めてから30
分近く、特に口を止める事もなく女子生徒達の噂話を喋り続けている。
 月島さんの『事件』から半年。
 あの事件に関係した人達は、全員が以前と同じ生活、とはいかないが、それなりに平穏
な毎日を送っているようだった。
 太田さんは奇跡的に容体が回復にむかったらしく、精神病院から総合病院へと戻された
らしい。
 瑞穂ちゃんは太田さんの容体を気にしつつも、生徒会で頑張っているようだ。
 桂木さんと吉田さんは生徒会役員の任期を終えてからは、ごく普通の日常を送っている。
 月島さんは大方の予想通りT大学へ進学。しかし、多少距離があるにもかかわらず家か
ら通学しているらしい。それは多分、瑠璃子さんのためなのだろうと僕は思う。
 瑠璃子さんは、元々の評判と月島さんの妹という事もあってか、なんと生徒会長に当選
した。『事件』以来、話をする事もなくなったが、その表情は明るい。
 そして、今、目の前にいる沙織ちゃんは、
「……ねぇ、聞いてるぅ?」
 ムッとした表情で問いかける沙織ちゃんに、僕はニッコリと笑顔を返した。
「聞いてるよ。バレー部の練習が長引いて……何?」
 見ると、沙織ちゃんがおかしそうに笑いをこらえてこちらを見ている。
「クスクス、ごめんごめん。だってさ、同じなんだもん、あの時と」
「あの時?」
「もう、覚えてないの? 祐くんが『探偵』してた時だよ。あの時も、ここでこーやって、
同じ事話してたんだよ、私達?」
 覚えている。『あのこと』はすべて。
 忘れる事なんてできはしない。
「ああ。あの、沙織ちゃんが体育館で熟睡してた事で幕を引いた、あの『事件』ね」
 感情を隠すためにわざと茶化してそう言う。
「んもぅ。それは言わない約束でしょ!」
 彼女は顔を真っ赤にして照れる。
 あの『事件』が終わってから、どちらから言い出したわけでもないが、僕達は付き合っ
ている。正確に言えば、周りがそう認知しているだけだが。
 だが僕としては、事件の関係者の事を知る事ができる情報網を持っている沙織ちゃんと
いる事は正直都合がよかったので、この関係を続けていた。
 でも、それももう潮時だな、と思っていた。
 みんなそれぞれの道を歩き始め、沙織ちゃん自身も、あの時の事が何かに影響する事も
ないだろう。
 しかし、正直、いつも明るい沙織ちゃんにひかれているのも事実ではある。
 けれど、同時に、僕は未だ瑠璃子さんへの想いを断ち切れないでいる。
 そんな気持ちで沙織ちゃんと付き合う訳にはいかない。
「どーしたの、祐くん?」
 沙織ちゃんが、不思議そうに顔を覗き込む。
 その瞳から逃げる様に、自分の瞳をそらす。
「いや……、沙織ちゃん。あの……」
「何?」
 言わなければならない。
 言わなければ、もっと、傷付けてしまうから。
「あの……」
――チリチリ、チリチリ……
 ……え?
 言葉を口に出そうとした瞬間、『粒』が、頭の中を横切った。
 視界がグニャリと歪み、そして元に戻る。
 ……間違い無い。『電波』だ。
 ……でも、誰が……?
 月島さんと瑠璃子さんからはそれに関する記憶は消去した。
 なら……また、なのか……?
 また、起こるのか……?
「ねえ、どうしたの、祐くん?」
 声は情報としてのみ、受け取られる。あの時と同じ。
「いや、別に。ごめん、用事を思いだした。今度、必ず穴埋めするから。じゃ、また電話
するね」
 そう言って代金を置き、店を出る。

 ――また、始まるのか……?


  §@§

 最近、祐くんの様子がおかしかった。何をしてもうわの空だし。
 どこか――女の第6感ってゆうのかなー、何か隠し事しているようだった。
 もしかして、嫌われてるのかな? そう思う事もあった。
 けど、違った。
 今、「用事を思い出した」と言って店を飛び出していった祐くんの瞳。あの時の、『探
偵』をしていた時のあの『瞳』だ。
 きっと、また何かあったんだ。
 前回のも、祐くんは「何もなかった」と言ったけど、きっと何かあったんだ。
 その事と今回の事とが、関係があるのかどうかは解らない。
 けど、「おいてけぼり」は嫌だ。
 私は『自称』祐くんの助手で、祐くんの彼女なんだ。何を調べていたとしても、必ず追
いついてみせる。
 胸がドキドキする。
 やっぱり、私は好きなんだ。こーゆーのが。
 あの『瞳』が。
「逃がさないよ」
 食べかけのハンバーガーを口に押し込んで、ジュースで流し込む。
 そして急いで祐くんの歩いて行った方へ、走り出す。
「絶対に、追いついてみせるんだから!」

 あなたが、好きだから!


   ※

 頭の中を粒が走る。
 僕の中で、世界が反転する。
 ひっくり返った『おもちゃ箱』の中から『おもちゃ』がばらまかれる。
 『おもちゃ』の1つに意識を向ける。
 ただ、それだけで、その『おもちゃ』の全てが解る。
 思考の構造、心の色。全てを読む事ができる。
 その『おもちゃ』の色は……黒ずんだ桃色。
「汚いな」
 きれいにしよう。
 そう思った瞬間、それは終わる。
 変わる。
 うすく、きれいな、純粋な桃色に。
「うん、きれいだな」

  クスクス……

「楽しいね」

  クスクス……でしょ?

「もっと色々、遊びたいな」

  クスクス、じゃ、行こ……

「どこに?」

  クスクス、もっと楽しいトコだよ……

「へぇ……じゃあ、行こ」

  クスクス、うん、行こ……

 世界は僕の『おもちゃ箱』だから。
 もっと遊ぼう。

 世界が反転する……。


                                     98/11/10 TextUp.
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≪あとがき・そして原作者はのたもうた≫

 こんにちははじめまして。華月 姫羅(かげつ きら)と申します。
 一応、同人やってる人ですが、リーフ系は初めてです。今度イラストも描こっかな?
 実は自分、ゲームやったことないんです(汗)。小説only。その中では、やはり
『雫』。瑠璃子さんLove! あの人の為に全てを! もしくは『ToHeart』
の来栖川先輩。小説に出そうかと思った。フフ。ま、始まったばかりですし。
 では八塚先輩、入力がんばって下さい。
 瑠璃子さんFanの方、出します。意地で。
 でわ!

  クスクスクス……

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