狩る! 大捜査線 4 投稿者:グロCK
〜前回までのあらすじ〜
「はぁ〜い、日本の国民文化的アイドル志保ちゃんよぉ〜ん! 今日はみんなに、とってもびっくりまったりこってり
するようなニュースをお知らせするわぁ〜ん! まずは…」
………………
「…なのよ〜! それでさぁ〜…」
………………
「…だったワケ! そしたらさぁ〜…」
………………
「…なことになっちゃって! 笑っちゃうわよねぇ〜、きゃははははははは―――」
 …結局何が言いたいんだぁぁぁーーーーーーーーー! ちっともわからーーーん!
「……… クスッ」(楓)
(にやりんぐ)


――――――――――――――――――――――――――――――
なんとか梓をまいた俺は、俺を残して逃げ隠れた薄情者の所へ戻った。
「…耕一、何か言うことはないか…?」
 キッと睨んだ。
「す、すみません、でも、あいつの悪口を言ったのは柳川さんだけで、俺は一言も…」
 耕一が事実で弁解した。そんな事は百も承知だ。
 俺が言いたいのは、なぜ梓が近付いて来た時に、注意の一つもしてくれなかったのかということだ。
「まったく…」
 俺はそう呟くと、長瀬の方に歩み寄った。
「犯人の現在位置は判ってるんですか?」
「あ〜、まずはこの見取り図を見てくれ…」
 そう言うと、長瀬は持っていた紙を広げた。
「これはここの管理者に借りた物なんだが…」
 長瀬は指を差しながら、工場内(なか)の構造を説明し始めた…。


 長瀬の説明では、この工場は三つの棟に別れていて、どれも入り口は開いており、それぞれ渡り廊下でつなが
っているらしい。
 正面の棟が資材搬入庫、中央の棟が加工場、そして奥の棟が製品倉庫になっていたそうだ。
 そのうち、加工場には二階が、製品倉庫には地下があって、どうもこの二つが怪しいと、長瀬は目星を付けた。
「…ちなみに配置についてだが、一班が正面、二班、三班がそれぞれ中央、奥に置く事となった」
「我々は?」
「私が二班につく。申し訳ないが…柳川君、君はその二人を連れて三班についてくれ…」
「し、しかし、いくら私でも二人の身の安全は―――」
 と、言いかけてはっとなった。そう言えばこいつらも鬼だった…。
「あっ、いえ、分かりました、責任持って連れて行きます。でも、多分大丈夫でしょう」
「? まあよく分らんがよ・ろ・し・く」
 ニヤッと笑うと、長瀬は二班の方に去っていった。


「さてと…」
 俺は懐に備えてある拳銃を取り出して、弾の数を入念にチェックする。
―――実は、犯人が猟奇殺人者という事もあり、拳銃の使用許可が下りた。
 だが、俺にとってはあくまでコイツはかたちだけだ。
 俺には鬼―――エルクゥの力がある。
 それを解放すれば、犯人など一撃で…いや、今回はわからん…。
 それに三班の連中どもがいる。
 この二人はいいとして、他の連中の前でエルクゥの力を解放する訳にはいかない。
 まあ、俺が連中を狩って、犯人の仕業にするのが一番簡単なのだが…。
 そう考えている内に、拳銃の再確認が終わった。
―――ふと耕一達の事を思い出し、
「おい、お前達も…」
 と振り返ってぎょっとした。
「さぁて、このグロック22カスタマイズを使う時が来たか! こいつの弾は40S&Wだからな! そこらの38口径
と一緒にされちゃあ困るぜ! ドキューーーン! ドキューーーン!」
 おい、どこぞの探偵のパクリだ!
「あら、耕一さん、この対AT用大型拳銃、アーマ・マグナムがあれば一発ですわ!」
 こら、お前は装甲猟兵か! それにかなりネタが古いぞ! 一体、年はいくつだ?
「それなら千鶴さん、このロケットランチャーの方がすごいよ! YOU LOSE BIG GUY! な〜んちゃって」
「いい加減に…」
「ふふ、いざとなったら初音にヨークを呼んでもらって、主砲を撃ってもらいましょう」
「しろぉぉぉーーーーーーーーーっ!」
 俺は力の限り叫んだ。
 しかし、どこかの金貸し魔術師のように、魔術は発動しなかった…。

「犯人を殺そうとするな! た・い・ほするんだ! だいたい、どこからそんな物を持って来たんだ! いったい、いつ
そんな発想を思い付いたんだ!」
「物はうちの蔵から…」(千鶴)
「発想は前々から…」(耕一)
「………はぁ」
 もういい。
 もう何が起きても驚かない。
 あいつらが、何をしようと気にしない。
 俺の知った事ではない。
「…いくぞ…」
 疲れきった体を動かし、奥の倉庫へと進んだ。


 ギィィィィィ―――
 扉の軋む音が鳴った。
「…暗いな…」
「そうですね…」
「私、暗いのはちょっと…」
 …誰もそんな事は聞いちゃいない。
―――俺達は、定番の…裏口から進入した。
 前からは三班の連中が進入している。
 中は真っ暗―――と言っても、裏口の辺りだけだが…。
「さて、行くか」
 俺は鬼の力をほんの少し解放し、地下への階段を探した。
「柳川さん、見つかった?」
 俺と同じように、力を解放した耕一が聞いてきた。
「いや」
「そうですか…」
 そう呟くと、他を探し始めた。
「お姉ちゃん、怖いよぉ〜」
「あんた、このくらい我慢しなさいよ」
「そうよ〜、お姉ちゃんだって怖いんだから」
「…嘘つけ…」
 ピクンッ
「…な、なんでもないです、お姉様…」

「?」
 …何か違和感が…気のせいか…?
 まあいい、それよりも、捜索、捜索。
 ………………
 思いのほか早く地下への階段は見つかった。
 他の刑事がちんたら探しているのをよそに、俺達で進むことにした。

 コツ、コツ、コツ、コツ…

 足音が一定のリズムで響く…。
 ライトが無限に続く闇を照らす…。
 また鬼の力を使えば、手っ取り早く進めるのだが、今度はそうもいかない…。
 力を解放すれば、こっちの存在がばれてしまう。
 そう、俺が言っていた『ヤツ』とは―――
「鬼です」
「そう、鬼だ…って、なに?」
 振り返ると、柏木楓がいた。
「貴様…、俺の心を読んだな…」
 俺は楓を睨み付け、それと同時に、さっきの違和感に見当が付いた。
「貴様がいるという事は…」
 楓の頭越しに後ろを見ると、案の定、暗いのに脅えている初音と、その初音にしがみつかれてため息を漏らして
いる梓がいた。
 違和感とは、コイツらが増えた事だったのだ。
「なんだよ〜、 別にいいだろう?」
「よくなーーーい! 何で持ち場を離れてここにい―――うぐっ」
 耕一が、俺の口を塞いだ。
「柳川さんっ、声が大き過ぎますよ。これじゃあ、鬼に見つかってしまう…」
「そうですよ、それに他の刑事さん達よりも、梓達の方がよっぽど役に立ちますって…」
 千鶴がニコッと笑って言った…。
 偽善スマイルはやめろ…。
「…わわっわ、うひいひお…」(分かった、好きにしろ)
 口を塞がれたまま答えた。
 …まあ、鬼が六人もいれば最強の戦力だな…。

―――エモノダ!―――

―――エモノノニオイガスル!―――

―――カリノジカンダ!―――


「ん? 終わりか…」
 階段を下り終えて、広い部屋に出た。
 手前の電灯がかろうじてついているが、それも微々たるものだ。
 やはり奥は真っ暗で見えない。
「!」
 突然、楓が止まった。
「どうかしたのか?」
「どうしたんだい? 楓ちゃん?」
「どうしたの? 楓?」
「おいっ、楓?」
「楓お姉ちゃん?」
 全員、楓の方を見た。
「…来ます!」
 その言葉を聞くや否や、俺と耕一は前に躍り出て、瞬時に力を解放した。

―――!!―――

―――コノカンジハ…ドウゾク?―――

 鬼―――エルクゥの力が体中にみなぎるのを感じると、すぐに目の前が見えるようになった。
 しかし、闇が見えるようになったのもつかの間、ヤツが風のような速さで襲ってきた。
 くっくっくっく、そうこなくては!
 俺はすぐさまヤツの爪をかわすと、空いた右脇に爪を打ち込んだ。

 ガキィィィィ

 しかし、ヤツの左の爪が、その行く手を遮った。
「ふっ、おもしろい」
 俺はそう叫ぶと、単身ヤツに斬り込んでいった。
 頭部を狙って、右爪を横から薙ごうとすると、ヤツが左爪で受け流そうと構えた。
 かかった!
 すぐさま俺は膝を曲げて、重心を低くした。
 フェイントだ。
 真の狙いはヤツの腹。
 俺はそのままヤツの腹に爪を突き刺した。

ザシュゥゥゥゥ

 俺の腕がヤツの腹に吸い込まれていく。
 そのままヤツの体を貫いた。

―――グオオオオォォォォ―――

 ヤツが血を吐き出しながら咆哮をあげる…。
 くっくっく、いい炎だ…美しい…。
 勝利を確信したその時、
「柳川さんっ、 後ろっ!」
 耕一の叫びと同時に、背中に衝撃が走った。
「がはっ!」
 俺は五メートル程吹き飛び、壁に激突した。
「な、何が…」
 背中の激痛に耐えつつ、振り返ると、そこにはもう一体鬼がいた。
 そう、鬼は二体いたのだ。
「くそっ」
 耕一はそう呟くと、その鬼に向かって飛び出した。
 爪を振りかざしたが、鬼はやすやすと弾き返した。
 さすがに人間の状態を保ったままでは、俺も耕一も厳しいか…。
―――そう考えるうちに、事態はやばい方向に進む事となった。
 鬼と鬼との攻防が繰り広げられるその傍らで、さっき俺が致命傷を与えた鬼がもう動き出したのだ。
「くっ、もうか!」
 とどめを刺そうと立ち上がるが、背中の傷が思ったより深いらしく、まだうまく動けない。
 ちっ、俺とした事が…。
 肩で息をしながら、その鬼はもう一体の鬼と戦っている耕一の後ろに回った。
 背後から襲うつもりだ。
 やはりな…。
 仕方なく、無理にでも加勢しようとした時―――

 ビュゥゥゥゥ―――

 もの凄い疾風と共に、手負いの鬼の背中に亀裂が入った。

―――ギャァァァァ―――

 苦痛の叫びが部屋中に響く。
「耕一さんには指一本触れさせませんわ」
 覚醒した千鶴が、冷酷な目をしながらそこにいた。
 どうやら真空を起こしたようだ。
 鬼が仰け反るのもつかの間、

 ゲシャッ

 まるで空缶を真上から潰すかのように、鬼の頭がひっしゃげた。
 見ると、その上には拳が置かれてあった。
 梓の拳だ。
「へへっ、一丁上がり!」
 そう叫ぶと、さっと飛び降りた。
 …こいつはもうからかえんな…。
 俺は肝に銘じた…。


―――グォォォォォォ―――

 仲間が倒されたのを見ると、残った鬼はさらに雄たけびをあげた。
 どうやら怒り狂ったらしい。

―――キサマラ、スベテカッテヤル!―――

 鬼は、これまで以上のもの凄い速さで、耕一に襲いかかった。
「耕一さんっ、避けてっ!」
「耕一っ」
「危ないっ、耕一さんっ!」
「耕一お兄ちゃんっ」
 四人姉妹達が悲鳴を上げた。
 しかし、何故か耕一は構えたまま動かない。
「耕一っ、どうした! 早くよけ―――」
 俺が叫び終える間もなく、鬼が爪を振りかざした。
 その瞬間、耕一の眼がいっそう赤く光った。
―――信じられない事が起きた…。
 鬼が爪を振る以上の速さで、耕一が鬼の懐に入ったのだ。
 すぐさま耕一が、左の爪を鬼の腹にチョンッとつける。
 耕一が自分よりも速く、さらに、腹に爪を突き付けられた事で、鬼はやはり動揺し、急激に動きが鈍くなった。
 その一瞬を待っていたかのように、耕一の眼が大きく見開かれたその刹那―――

 ズドンッ

 火薬が爆発したような音が響いた。
 耕一が全力で地面を蹴ったのだ。
 まるで吸い込まれるかのように、鬼の体を貫き、そのまま壁に激突した。

―――ガァァァァァ―――

 断末魔が血と共に漏れる。
 鬼は、もがき、苦しみながら、貫いている耕一の腕を両手に掴み、

―――ナ…ナゼダァ…、ナゼドウゾクガ…ニ…ンゲンノ……ミ、ミカタヲ…スル…―――

「人間とエルクゥの共存…それを望むからだ…」

―――バ、バカナ…、ニンゲ…ンハ…エモノイガイノ…ナ、ナニモノデモ…ナイ…―――

「何故、お前達のような者達はそれしか考えられない! …それじゃあ、さっきの問い、お前等のような奴に判り易く
答え直してやるよ! お前達は人間を狩った…理由はそれで十分だ!」
 そう叫ぶと、耕一は空いた右手で鬼の首を掴んで、握り潰した。

―――ハガァァァッ!―――

 鬼の炎は、その瞬間散った…。
「…馬鹿野郎…」
 朽ちていく鬼を見ながら、 耕一がそう呟いたように聞こえた…。


 戦いは終わった…。
 だが、俺はこの惨状の始末に悩まされた…。
 犯人が鬼だったので、やむ終えず殺害しました……なんてことは言える訳がない。
 途方に暮れていると、
「えーーーーっ! なんですってぇぇぇーーーっ!」
 千鶴の大声が聞こえた。
「は、初音…、今なんて…」
「だ、だからね…、あの時耕一お兄ちゃんが危ないって思ったから、ヨークに意識を飛ばしたの…その…なんでも
いいから助けてって…」
「…………」
 そう言えば、何か上が騒がしい…。
 …イヤな予感がする…。
「おいっ、耕一っ!」
「は、はいっ!」
「逃げるぞっ!」
 俺は全速力で階段を駆け上がった。
 耕一も、俺の言う意味が分かったらしく、四姉妹を連れて上がって来た。
「お前等ぁーーー、よりにもよってぇぇぇ、よくもヨークなんぞぉぉぉ! 後で覚えておけぇーーー!」
「俺は違いますよぉぉぉ!」
「私も関係ないですぅぅぅ!」
「あたしじゃなぁぁぁい!」
「…じゃあ梓姉さん、初音のせいって言うの?…」
「ちっがぁぁぁーーーう、もそんな事言ってなぁぁぁい!」
「大丈夫だよぉぉぉ、ヨークにはちゃんと手加減してってお願いしといたからぁぁぁ!」
「そういう問題じゃなぁぁぁい!」


「な、長瀬さんっ、あれ何ですか…?」
「あ〜、UFO…じゃないのかぁ?」
「うわっ、何か光ってますよ!」
「こりゃぁ、やばいかなぁ…よし、全員下がらせろ」


 ヨークから、今まさに主砲が撃たれようとした瞬間、俺達は倉庫から脱出した。

ピカァァァ

 辺りは光に包まれた…。
 光が収まり、工場を見てみると…、
「ない、どこにもない!」
 工場…らしき物があった場所には、さっきの地下室ぐらいまで深さがある、穴が開いていた…。
 これの何処が手加減だ…。
 あきれて一層疲れてきた…。
「やりましたね、柳川さん」
 耕一がニコニコしながらやって来た。
「どこがだ!」
「いやあ、ヨークのおかげで死体消えちゃったし…」
「う…、ま、まあその事についてはいいが…」
「そうでしょう?」
「しかし、腕を上げたな、耕一。鬼に変化しなくとも、あそこまでやるとは…」
「ええ、厳しい修行でしたよ。」
「ところで、最後の技は何て言うやつだ?」
「ああ、あれは『寸打』と言って―――」
「ちょっとまてぇぇぇーーー! これ以上パクリを入れるなぁぁぁーーー!」
「わ、分かりましたよ…」
「分かったならよし!」
「あ〜あ」
 耕一が残念そうに呟く。
「くっくっ、まあそう嘆くな」
「耕一、お前は見所がある。お前は現場で狩れ! 俺は上で狩る!」
「上でって…まさか」
「そうだ、実は今度『警視』に昇格するから、刑事課にはそうちょくちょく来れんかもしれない」
―――ちなみに、俺はキャリア組だったので、今は『警部補』だ。
「ほっ、なんだ、俺はてっきり上層部のお偉方を狩るのかと…」
「そう言う解釈を取るな!…まあ、腐りきった連中だからいずれ狩るかもな…」
「えっ?」
「まあ気にするな」
「はあ〜、チョーさん(長瀬のこと)も来月、定年退職って言っていたし、なんだか寂しくなるなぁ〜」
「あらぁ、耕一さん、私がいるじゃありませんかぁ〜」
 いきなり話に割り込むな!
「そ、そうだね…」
「そうですよ」
 耕一は、あからさまに声が浮付いている。
「ふふ、耕一、苦労するなぁ」
「ええ、…って!」
 ピクンッ
「…耕一さん、…それってどういう意味?」
「い、いや、別に深い意味は……それじゃ」
 ダァァァーーーシュと、言わんばかりに耕一は逃げ出した。
「耕一さん、待ってください! 話はまだ終わってませんよ!」
 千鶴がそれを追い駆けて行く…。
「まったく…」
 騒がしい奴等だ…。
 そういう俺の顔には、何故だか笑みがこぼれていた…。
 …俺らしくもない…。