狩る!! 大捜査線 3 投稿者:グロCK
〜前回までのあらすじ〜
「ニャ〜」
 …か、楓ちゃん、 いつの間に?
「ウニャ〜」
 そう!それが言いたかったんだよ!
…何がじゃ〜!!!

 この事件の発端は、約二週間前にさかのぼる…。
 降山市内の公園で、若いカップルと思われる惨殺死体が発見された。
 『思われる』と引用したのは、何も男と女が一緒に殺されたので、二人をカップルだと決め付けたからではない。むしろさっき述べた説明の後半部分、『惨殺死体』に関係がある。
 その死体は…、外見だけでは身元が判別出来ないほど、無残にも切り裂かれていたからだ…。
 事件は、これだけでは終わらなかった…。
 なんと、同じような手口の犯行が、降山市内で次々と起こったのだ。
 被害者は、サラリーマンの男性、OL,大学生、女子高生などと様々だが、どれも、初めの犯行と同じで、メチャクチャに切り裂かれて、中には頭部を握り潰された(これはあくまで仮定とされた)者もいた。
 そして女性は、ほとんどの者が陵辱された後、殺害されている。
 所轄では、精神異常者の、猟奇的無差別殺人と見て、対策本部を設置、捜査していたわけだ。
 しかし、俺にはわかる…。この事件、おそらく……

「わぁ〜、覆面パトカーなんて初めてですよ〜」
 後部座席で、耕一が感嘆しているのを聞いて、俺は考えるのを止めた。
(この目で確かめればすむことだ)
 そう思うと、俺は少しづつ興奮してきた。犯人を狩ることに…。

「…さんっ」

 一体ヤツは、どんな炎を見せてくれるのだろうか…。

「…がわさんっ」

 楽しみだ。くっくっくっくっ………

「柳川さんっ、前っ、前っ!」
「…っくっくって、え? おわ〜!」
 キキ〜〜〜ッ!
「うわっ!」
「おおっ!」
「きゃっ!」
 …どうやら興奮しすぎて、前を見てなかったようだ。後少しで、ガードレールに激突する所だった…。
「…ふぅ、あぶない、あぶない。柳川君、現場に着く前に死にたくはないものだね」
 助手席の長瀬がぼやく。
「す、すみません、ついぼ〜っとして…」
 くっ、俺としたことが…。
「疲れているようだったら、運転代わろうかい?」
「えっ?、ええ…」
  …その方がいいだろう。興奮しながらの運転は危険だ。
「だったら、私が運転しま〜す」
 っ!! 誰がお前などに…
「あ、どうぞどうぞ」
 長瀬が調子良く了承した。
 おいっ! どうなってもしらんぞ!
 俺の心の叫びも届かぬまま、千鶴が運転することになった。

「ところでさぁ」
耕一が、ふと思い出したように尋ねた。
「千鶴さんて、免許持ってたっけ?」
「あら、免許がなくても、私、結構上手いんですよ」
「………………」
 サァァァーーー
 俺達の顔から血の気が引いた…
「止めんかぁ!この無免許女ぁ〜!」
「か、柏木さん、無免許はいけませんねぇ〜!」
「ち、千鶴さん、とにかく止まって!」
 俺達は死にもの狂いで説得(?)をした。
「んもう〜、わかりましたよ〜! え〜と、ブレーキはどっちだったかしら…… こっちかな?」
ギュルルルルルルル、ギュイイイーーーーーーーーーン
「「「そっちはアクセルだぁ〜〜〜っ!」」」
 その叫びにドップラー効果がついたことは、言うまでもない…。

柏木千鶴の、料理につぐ地獄のドライブを楽しんだ俺達は、なんとか現場に辿り着いた…。
「お、おえっ」
 まだ気分が悪い…。くそっ、あの女、いつか狩ってやる…。
 そう決意しながらも辺りを見た。錆びた鉄筋やドラム缶が目に映る。
 現場は廃屋工場。こんな所に逃げ込むとは… 愚かなヤツだ。
「…しかし、『SAT』まで呼んだのは、かえってやばいんじゃないんですか? ほら、野次馬が…」
 耕一が言うのも一理ある。相手は何人もの人を惨殺したヤツだ。万一、野次馬に被害が移ったらたまったもんじゃない。…まあ、俺は別に構わんがな…。
「大丈夫だ、降山署(うち)のミニパト連中が危険範囲外に押しやっている」
「え? 交通課が来てるんですか!?」
 耕一がやばいっ、と言うような顔をした。
「連中がどうかしたのか?」
「ええ…、じ、実は…」
 と、耕一が語ろうとした時、
「こらぁーーーっ! そこっ! 入って来るんじゃなーーーい!」
「…お願いですから、入らないで下さい…」
「みんな、危険だから下がって!」
「!」
 いつかどこかで聞いた声だ…。ま、まさか…
 おそるおそる振り返ると…、案の定、予感は的中した…。
 そこには、ミニスカの制服に身を包んだ、柏木家の残り三姉妹がいた。
 俺はなぜっ? と言う思考を振り払い、躊躇わず隣にいた耕一の襟を掴んだ。
「おい、貴様っ! これは一体どういうつもりだ?」
「ど、どうって聞かれても…、千鶴さんが婦警をしたいって言った時に、梓が、千鶴姉がするなら、あたし達もっ! って言うものですから、それじゃ、一緒にってことに…」
「じゃ、なぜ挨拶の時に、他の奴等はいなかったんだ?」
「刑事課は、俺と千鶴さんだけで、梓達は交通課がいいって…、だから…」
「納得いかーーーん! あいつら、学校はどうした! 未成年が公務員になれるものか! 無免許で交通整理するな! だいたい、あの次女は、ミニスカはいて、女らしくなりたいから交通課を選んだんだろ! いや、そうに決まっている! そもそもどうしてこんなことに………」
 ふと気付くと、襟を掴んでいる手に服の感触がなかった。
 はっきり言えば、耕一が目の前から消えている。
 不思議に思って辺りを見回すと、百メートル先のドラム缶の影に隠れていた。
「おいっ! 耕一っ! 話はまだ―――」
「柳川さぁ〜〜〜ん、どうかご無事でぇ〜〜〜」
「?」
 不審に思って、どういうことだ? と言い返そうとしたが、すぐにその理由が解った。
 後ろの方から冷たい空気が流れてきたのだ。

ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…

 これで、地球温暖化は…どうにもならんか…。
「だ・れ・が、な・ん・だ・っ・て?」
 ビクッ!
 柏木梓の、鬼気と怒気をはらんだ声が後ろから聞こえてきた。
 それにしても、この俺が臆するとは…。
「…な、なんのことかな?」
 しまった! 平静を装ったつもりが、動揺してしまった!
「声がどもっているわよ! やっぱあんたはここで狩る!」
「ちっ!」
 俺は…逃げた。くそっ、こんな屈辱は水門以来だ!
 だが、ヤツを狩る前に狩られるわけにはいかない…。
そう思いつつ、俺は本当の鬼ごっこを始めた……

 続く…