〜前回までのあらすじ〜 「ニャ〜」 …か、楓ちゃん、 いつの間に? 「ウニャ〜」 そう!それが言いたかったんだよ! …何がじゃ〜!!! この事件の発端は、約二週間前にさかのぼる…。 降山市内の公園で、若いカップルと思われる惨殺死体が発見された。 『思われる』と引用したのは、何も男と女が一緒に殺されたので、二人をカップルだと決め付けたからではない。むしろさっき述べた説明の後半部分、『惨殺死体』に関係がある。 その死体は…、外見だけでは身元が判別出来ないほど、無残にも切り裂かれていたからだ…。 事件は、これだけでは終わらなかった…。 なんと、同じような手口の犯行が、降山市内で次々と起こったのだ。 被害者は、サラリーマンの男性、OL,大学生、女子高生などと様々だが、どれも、初めの犯行と同じで、メチャクチャに切り裂かれて、中には頭部を握り潰された(これはあくまで仮定とされた)者もいた。 そして女性は、ほとんどの者が陵辱された後、殺害されている。 所轄では、精神異常者の、猟奇的無差別殺人と見て、対策本部を設置、捜査していたわけだ。 しかし、俺にはわかる…。この事件、おそらく…… 「わぁ〜、覆面パトカーなんて初めてですよ〜」 後部座席で、耕一が感嘆しているのを聞いて、俺は考えるのを止めた。 (この目で確かめればすむことだ) そう思うと、俺は少しづつ興奮してきた。犯人を狩ることに…。 「…さんっ」 一体ヤツは、どんな炎を見せてくれるのだろうか…。 「…がわさんっ」 楽しみだ。くっくっくっくっ……… 「柳川さんっ、前っ、前っ!」 「…っくっくって、え? おわ〜!」 キキ〜〜〜ッ! 「うわっ!」 「おおっ!」 「きゃっ!」 …どうやら興奮しすぎて、前を見てなかったようだ。後少しで、ガードレールに激突する所だった…。 「…ふぅ、あぶない、あぶない。柳川君、現場に着く前に死にたくはないものだね」 助手席の長瀬がぼやく。 「す、すみません、ついぼ〜っとして…」 くっ、俺としたことが…。 「疲れているようだったら、運転代わろうかい?」 「えっ?、ええ…」 …その方がいいだろう。興奮しながらの運転は危険だ。 「だったら、私が運転しま〜す」 っ!! 誰がお前などに… 「あ、どうぞどうぞ」 長瀬が調子良く了承した。 おいっ! どうなってもしらんぞ! 俺の心の叫びも届かぬまま、千鶴が運転することになった。 「ところでさぁ」 耕一が、ふと思い出したように尋ねた。 「千鶴さんて、免許持ってたっけ?」 「あら、免許がなくても、私、結構上手いんですよ」 「………………」 サァァァーーー 俺達の顔から血の気が引いた… 「止めんかぁ!この無免許女ぁ〜!」 「か、柏木さん、無免許はいけませんねぇ〜!」 「ち、千鶴さん、とにかく止まって!」 俺達は死にもの狂いで説得(?)をした。 「んもう〜、わかりましたよ〜! え〜と、ブレーキはどっちだったかしら…… こっちかな?」 ギュルルルルルルル、ギュイイイーーーーーーーーーン 「「「そっちはアクセルだぁ〜〜〜っ!」」」 その叫びにドップラー効果がついたことは、言うまでもない…。 柏木千鶴の、料理につぐ地獄のドライブを楽しんだ俺達は、なんとか現場に辿り着いた…。 「お、おえっ」 まだ気分が悪い…。くそっ、あの女、いつか狩ってやる…。 そう決意しながらも辺りを見た。錆びた鉄筋やドラム缶が目に映る。 現場は廃屋工場。こんな所に逃げ込むとは… 愚かなヤツだ。 「…しかし、『SAT』まで呼んだのは、かえってやばいんじゃないんですか? ほら、野次馬が…」 耕一が言うのも一理ある。相手は何人もの人を惨殺したヤツだ。万一、野次馬に被害が移ったらたまったもんじゃない。…まあ、俺は別に構わんがな…。 「大丈夫だ、降山署(うち)のミニパト連中が危険範囲外に押しやっている」 「え? 交通課が来てるんですか!?」 耕一がやばいっ、と言うような顔をした。 「連中がどうかしたのか?」 「ええ…、じ、実は…」 と、耕一が語ろうとした時、 「こらぁーーーっ! そこっ! 入って来るんじゃなーーーい!」 「…お願いですから、入らないで下さい…」 「みんな、危険だから下がって!」 「!」 いつかどこかで聞いた声だ…。ま、まさか… おそるおそる振り返ると…、案の定、予感は的中した…。 そこには、ミニスカの制服に身を包んだ、柏木家の残り三姉妹がいた。 俺はなぜっ? と言う思考を振り払い、躊躇わず隣にいた耕一の襟を掴んだ。 「おい、貴様っ! これは一体どういうつもりだ?」 「ど、どうって聞かれても…、千鶴さんが婦警をしたいって言った時に、梓が、千鶴姉がするなら、あたし達もっ! って言うものですから、それじゃ、一緒にってことに…」 「じゃ、なぜ挨拶の時に、他の奴等はいなかったんだ?」 「刑事課は、俺と千鶴さんだけで、梓達は交通課がいいって…、だから…」 「納得いかーーーん! あいつら、学校はどうした! 未成年が公務員になれるものか! 無免許で交通整理するな! だいたい、あの次女は、ミニスカはいて、女らしくなりたいから交通課を選んだんだろ! いや、そうに決まっている! そもそもどうしてこんなことに………」 ふと気付くと、襟を掴んでいる手に服の感触がなかった。 はっきり言えば、耕一が目の前から消えている。 不思議に思って辺りを見回すと、百メートル先のドラム缶の影に隠れていた。 「おいっ! 耕一っ! 話はまだ―――」 「柳川さぁ〜〜〜ん、どうかご無事でぇ〜〜〜」 「?」 不審に思って、どういうことだ? と言い返そうとしたが、すぐにその理由が解った。 後ろの方から冷たい空気が流れてきたのだ。 ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ… これで、地球温暖化は…どうにもならんか…。 「だ・れ・が、な・ん・だ・っ・て?」 ビクッ! 柏木梓の、鬼気と怒気をはらんだ声が後ろから聞こえてきた。 それにしても、この俺が臆するとは…。 「…な、なんのことかな?」 しまった! 平静を装ったつもりが、動揺してしまった! 「声がどもっているわよ! やっぱあんたはここで狩る!」 「ちっ!」 俺は…逃げた。くそっ、こんな屈辱は水門以来だ! だが、ヤツを狩る前に狩られるわけにはいかない…。 そう思いつつ、俺は本当の鬼ごっこを始めた…… 続く…