柳川で買おう!(前編) 投稿者:ギャラ 投稿日:11月13日(火)22時55分

 11月11日。
 普通の人にとっては「何となく語呂がよいよーな……」という程度の意味
しか持たないこの日付は、だが、リーフ信者にとっては大いなる意味を持つ
一日であった。
 とゆーのも、DC版こみパの新キャラ、すばるの誕生日なのである。
「というわけで――」
 その日、九品仏大志は、千堂家(ちなみにゲーム版準拠につき、一軒家で
はなくマンション)のテーブルの上に意味もなく立ちはだかって、高らかに
宣言した。
「――同人誌即売会に行くぞ、まいふれんど和樹!」

「ぱぎゅうううううううううううっ! すばるのお誕生日SSじゃないん
 ですのーーーっ!?」

 ……いや、だってDC版プレイしてないし。
 野外露出のないこみパなんてこみパとは認められません。ワタクシ的には。



「……まあ、それはいいんだが」
 片足をテーブルの上に乗せた、まるで自衛官募集ポスターのよーなポーズ
で何処とも知れない中空を指さす大志を見やって――和樹は、バナナで釘が
打てそーなくらい冷め切った目で呟いた。
 むしろバナナでトーンが削れそうなくらい、と言うべきなのかもしれない
が。同人作家としては。
「一応仮にも不本意ながら友人として言っておいてやると、次のこみパは
 まだ当分先の話だぞ」
「そのようなこと、百も承知ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 突き上げていた指を手刀の形に変えて――どーやらシュト○ハイムの真似
らしーが、ステキに似ていなかった――大志が叫ぶ。
「だがしかし、まいふれんどよっ! こみパにあらずんば即売会にあらず、
 とは傲慢甚だしい思考回路っ! そのよーな驕れる準備会は久しからず、
 いずれ西に追われた挙げ句壇ノ浦で最後のこみパを開いて滅亡するのが
 関の山と知れいッ!」
「……壇ノ浦?」
「うむ。なお、船上即売会は本を落とすと大変なことになるので悪しからず!
 搬入の台車でも転ばせよーものなら一生モノのトラウマになること間違い
 なしであり注意せよ! 一般参加者は艀から落ちないよーに一列にっ!」
 ――何か悪いモノでも食べたのか。
 そーツッコミを入れよーかと思った和樹だったが、何となくムダそーな気
がしたのでとりあえず黙っておくことにした。
 と、いきなり大志はトーンを落として、
「……ところで、あの辺りで穫れるヘイケガニは平家の怨霊が宿っている
 とか言われているそーだが、そーすると有明ではオタクガニとか穫れるの
 だろーか? なんとなく肥え太ってそーで、食いでがありそーなのはいい
 ことなのだが」
「いや、すまんが、何を言いたいのか全然分からん」
「案ずるな、吾輩にも分からん」
 あっさり言い切る大志。
「だが、まあ、言いたいことを一言でまとめてみるとこういうことになるな。
 ――イシャはどこだ!」
「いや、そのネタ最近の若い人には絶対通じないって」
「むぅ……究極超人あ○るでも使われていた有名なネタであるのに」
「さすがに時代がなぁ……っていうか、その辺りのネタといい、勝手○改蔵
 といい、サンデーって割とパロネタ好きだよな。小学館は規制うるさい
 くせに」
「…………。
 ……まいふれんど。それは追求しすぎると怖くなるので、この辺りで止めて
 おいた方がいいと思うが。吾輩としては」
「……そーだな」
 ちょっと暗くなった顔を見合わせて、二人が頷き合う。目と目で通じ合う、
なんだかステキなアイコンタクト。
 そ〜ゆ〜間になりたいの〜♪
 ……いや、ひたすらに意味はないが。
「で、話を戻すが……要するに、こみパ以外の即売会に行ってみんかね、
 まい同志よ?」
「こみパ以外の即売会?……そんなのあったのか?」
「オオゥ、シット!」
 和樹の素朴な疑問に、大志は仰向けた顔を手で覆って、悲嘆の声を上げた。
「何をおのぼりさんのよーなことを言っておるのだ、まい同志! 今や同人
 業界は安定政権の終焉を迎えて群雄割拠の戦国時代! 日本各地で毎日の
 よーに様々なイベントが開かれては潰し合い、天下統一を夢に激戦を繰り
 拡げている有様なのだぞッ!」
「……潰し合ってどーする」
「ちなみに戦国時代に喩えるならば我々ブラザー2は島津一族! 強大では
 あるがジャンル的に中心に遠いので天下を取るにはちと厳しい、油断なら
 ない情勢であるッ! エロに手を出せば武田レベルになるかもしれんが、
 こみパは何故かエロ禁止であるため以下省略ッ!」
「ほぅ、そーか……ちなみに聞くが、他のサークルはどうなんだ?」
 そう和樹が訊くと、大志は腕組みしてむぅ、と唸りつつ、
「まず、大庭嬢は三好長慶だろうな。最大勢力を誇りつつ、ある日突然没落
 しそーな雰囲気がぴったりであろうことかな。猪名川嬢は西で一定勢力を
 誇っているとゆーことで、大内辺りを押しておきたい。芳賀嬢はちと毛色
 が違うから、石山本願寺といったところか」
「彩ちゃんは?」
「姉小路」
 きっぱりはっきりと、大志は言い切った。
 ……ちなみに説明しておくと、姉小路とは『信長○野望』シリーズで史上
最弱の名を欲しいままにする弱小大名である。姉小路で半年滅亡しなければ
上出来だとか何とか。
「……せめて、里見くらいにしておかないか?」
 ちなみに説明しておくと、弱小ナンバー2である。
「いや、むしろ吾輩としては家老その1とかでないだけ甘くしたつもりなの
 だが」
「その気持ちは分からんでもないが、あんまり酷いこと言ってるとファンの
 人に怒られかねんしな」
「うむ……やむをえんか。では、シャグシャインにでもしておくということで」
「……誰だ、それ?」
「いや、アイヌの長老だが」
 ――冷酷。



「……で、三度話を戻すが、何の即売会なんだ?」
 何だかんだで時が過ぎて――とりあえず織田信長は南さん、とゆーことで
合意に至ってから――和樹は思いだしたように問いかけた。
 大志は、何のことだか分からない、というよーな顔を一瞬見せて、
「――おお! 言われてみれば、そんな話をしておったような気も!」
「気も、じゃねえええええええええええっ!」
 ――がらがっしゃーん!
 轟音とともに和樹の卓袱台返しが炸裂した。
 飛び散ったインクやらホワイトやらトーン糟やらが、大志の身体と、ついで
に周囲のカーペットに甚大な被害を及ぼす。
「あああああっ、俺の部屋がああああああっ!?」
「……人のことは言えんが、もーちょっと考えから行動した方がいいと思う
 ぞ、まいふれんど」
「あああああ、ピーチDVDの初回特典のポスターがぁぁぁ……」
 ……割とカーペットはどーでもよかったよーだが。
 まあ、オタクの思考回路ってこんなモノだとゆーことだろーか。筆者も
The ガッツ!の特典ボックスを凹ませた時には、この世の終わりかと思う
よーなショックを受けたものであるし。
「まあ、それはそれとして……この時期ならば当然キャラオンリーイベント
 イベントを狙っておるわけだが」
「キャラオンリー?」
 涙を流してポスターの染みをふき取りながら、和樹が訊く。
「うむ。つまり、キャラクターの一人を中心に据えて、そのキャラをメイン
 に据えた本を主に扱う即売会、ということだ」
「……へえ、そんなものがあったのか」
「うむ。吾輩の記憶する限り、千鶴嬢か楓嬢のイベントがゲーム系では最古
 であったと思うが……最近では色々あるからな。好みのキャラがいれば、
 オンリーイベントに期待してみるのも悪くあるまい。梓嬢は無理っぽいが」
 説明の振りをして、さり気なくムゴいことを口走る大志。
 ……まあ、ひょっとすると梓オンリーもあり得ないわけではないかもしれ
ないので、ファン諸氏には嘆願運動などなされてみるのもよろしーかと。
理論上は可能なんだし。
 いや、理論だけなら、The ガッツ!オンリーだって可能性0とは言い切れ
なかったりするが。
「なるほど……つまり、マルチオンリーならマルチ本ばっかりが出てるって
 わけか」
「うむ、そういうことだな。
 ……どうだ、まい同志? 同人誌という共通の趣味の中でも、さらにピン
 ポイントで同好の士ばかりが集まるナイスな世界。興味が湧いてこんか?」
 悪質な宗教団体のよーにねちっこい口調で、大志が勧誘の言葉を口にする。
「う、うむむ……」
 和樹はそれでもしばらく悩んでいたが、やがて――
「――よし、行くか!」
 そう言って、雄々しく立ち上がった。
 実は思いっ切り周りに流されているのだが、本人がまったく気づいていない
あたり、心底羨ましい性格ではある。いずれ塚本印刷の連帯保証人にされる
んじゃなかろーかと、他人事ながら心配だ。
 『おにいさん、ここにハンコ押してほしいです〜』とか言われたら何も
考えずにほいほい押しそーだし。
「おお、それでこそまい同志!」
 ぱちぱちぱち、と激しい拍手を大志が送る。
「貴様ならそう言ってくれると信じていたぞ! であるからして、会場パンフ
 も既にこのよーにッ!」
 ぱちんっ、と大志が指を鳴らした瞬間――
「――よう言うたで、和樹ーーーっ!」
 窓をぶち破って、何かが飛び込んできた。
 ……いや、今さら『何か』とか言ってもバレバレすぎるよーな気もするが。
なお、『何か』とは言ってもうにゅうリーナを連れたアレとは別物なので
要注意である。
 ついでに、ウチのマシンでは毒子さん重すぎて辛いです。いやマジで。
「アンタはいつか目覚めてくれると思とったで……! オンリーイベントの
 楽しさによーやっと気づいてくれたんやなぁ……あのまったりした空気!
 少人数ゆえのお客との触れ合い! 初心者スタッフが多いせいか頻発する
 トラブル! サークル数が少ないせいで目立つ遅刻サークル!
 あぁ……オンリーイベント、それは禁断の果実……」
 明らかにあっちの世界に踏み込んだ目で、祈るよーに口ずさむ由宇。
 ここ一年でめっきり電波慣れした和樹でさえ引かずにはいられない、何か
ステキにヤバげな電波を頭の三本アンテナから大量に放出していた。ペース
メーカー着用者の近くに寄ったら、エラいことになりそーだ。
「……何かあったのか、由宇?」
「いや、こみパ系オンリーイベントのチラシ登場率が低いのが不満らしーの
 だが」
 ちなみに、高いのは瑞希と南さんだったりする。(ワタクシ個人調べ)
千紗ちぃは限りなく低すぎて、本当にこみパキャラなのか時々疑いたくなった
りもするくらいだが。それに比べれば由宇も大分マシなのではなかろーか。
 しかし、やさぐれきった由宇にそのよーな慰めが通用するはずもなく。
「……あんな、黄色○ルチと比べられてもなぁ……」
「うわ、言ってはいけないことを」
「吾輩としては、いっそあと二色出してマルレンジャーとか名乗ってみた方
 がいいよーな気もするのだがどーだろーか。緑と青と黄色はいるから、
 あと黒とか赤とか」
「…………」
 和樹さん、ノーコメント。
 さすがはこみパの良心(除く性生活)である。
「まあ、そーゆー愚痴はとりあえず忘れるとして……ほな、いこか?
 そろそろ昼近いし、会場近くで昼にしてから覗いたらちょーどえー感じ
 やろ」
「うむ、そうだな。では同志和樹よ、急いで準備するがよい!……と言って
 も、今回は完全に買い手だから、さほど準備はいらんのだが」
「ああ、じゃあ財布とバッグと……あ」
 と財布をズボンのポケットに突っ込もうとして、和樹はふと動きを止めた。
「そう言えば、何のキャラのイベントなんだ? それによって持っていく
 万札の数が変わるんだけど」
「ふ……」
 和樹の無邪気な問いに、大志の顔に哀れむような笑みが浮かぶ。
「考えてみればすぐ分かることだろうに……よいか、同志和樹。今日は11月
 11日なのだぞ?」
「と言われても……すばるの誕生日くらいしか思いつかんぞ。でも、すばる
 オンリーイベントには早すぎるんじゃないか?」
「は、まだまだ甘ちゃんやな、和樹は」
 と、呆れたように首を左右に振る由宇。
「11月11日と言えば、『イイッ! イイッ!』の日……つまり」
 と、そこまで言ってから、彼女は一拍タメを入れて――
「今日は柳川さんオンリーイベントの日に決まっとるやろうがっっっ!」
「分かるかああああああああああああああああああああああああああっ!」
 ――本日二度目の卓袱台ダイナミックが、千堂家の狭苦しい室内で炸裂
した。
 ちなみに、何でこの日なのかはよく分かりません。
 偶然だとすれば、すばるが余りに報われないよーな気もしてみたり。