痕拾遺録 第一話「鬼がきたりて」 投稿者:ギャラ
 真夜中。煌々と輝く月の光だけが辺りを照らしている。
 虫の声すら聞こえない、世界そのものが死にたえたかのような静寂の中を、数人の人影
だけが動いていた。
 「・・・どうだ?」
 「・・・ダメみたい・・・このヨーク、もう死んじゃってるよ・・・」
 男の声に、わずかに涙で湿った、幼い少女の声が答えた。
 「・・・ダリエリは行方知れず、かあ」
 「・・・どうなさいますの?」
 「このまま帰るわけにも参りますまいが・・・」
 順に三つの女性の声が響く。雰囲気こそ違えど、いずれも美しいと呼べる声だ。その
奥に何か危険なものを秘めている点も一致している。
 「おそらく、ヨーク及び洞穴の崩壊から脱出して、どこか近くに身を潜めているんじゃ
  ないでしょーか?」
 「けっ。ひょっとしたら、いっしょに埋まっちまってんじゃねーのか」
 「・・・ダリエリ殿はエルクゥ有数の実力者。その可能性は薄かろうて」
 今度の声は男が二人に少女が一人。だが、その中でもっとも老成した雰囲気を持って
いるのは、少女の声であった。まだかん高い声の奥に、老人特有の思慮深さと枯れた
雰囲気が隠されている。
 「・・・血。炎。死ぬ、死ぬ、エルクゥ。命の炎が燃え上がる。ぱっと散って残りは
  しない。重ねた時も、散ってゆく。この場にあらず、今にあらず。いつか、どこかで
  散ってゆく・・・」
 残った最後の影が、ゆらゆらと揺れながら、奇妙な節をつけて呟いた。
 いや。口ずさんだ、と言った方が適当か。
 ひどく不気味な内容でありながら、それを口ずさむ声には緊張感も哀しみも含まれて
いない。まるでそれが愛の詩であるかのように、愛おしさに満ちた声であった。
 「これ以上ここに留まっても、得るものはなさそうね。各自、数人ずつに分かれて狩猟
  に行っておきなさい。集合は明日、月が昇る時にまたここで。・・・ダリエリの
  報告によれば危険は少なそうだけど、不用意に騒ぎを起こさないように気をつけて」
 リーダー格らしい女性がそう告げると、それを合図に影たちはいっせいに姿を消し、
後には静寂だけが残った。
 そして、しばらくして再び虫たちが鳴き始めると、そこに九つの影がいたことを示す
ものは、何も残っていなかった・・・


  痕拾遺録    第一話「鬼がきたりて」


 「・・・ん?」
 柳川は、自分のマンションの前まで帰ってきた時、奇妙な違和感を覚えた。
 何かが違う。
 いつもとは、何かがずれている。
 程なく、違和感の正体に気づいた。
 ・・・血だ。
 ・・・血の匂いが、貴之の部屋からするのだ。
 「−−! 貴之っ!」
 柳川は部屋に飛び込んだ。
 そこで、彼の目に映ったものは・・・

 「た、たかゆきいいいぃぃぃぃぃっっっっっっっ!!!」

 ・・・彼の目に映ったものは、二人の男と一人の女。
 そして、その前に転がっている・・・血塗れの肉塊。
 その肉塊には、見覚えにあるシャツの切れ端が付着していた。

 「うわああああああああああああああっっっっっっっっっ!!!」

 ただただ、絶叫をあげ続ける柳川。
 その心は、ただ一つの言葉で埋めつくされていた。
 貴之。
 貴之。
 貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。
貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。貴之。

 ・・・コロス。コロシテヤル!!

 「うおおおおおおおっっっ!!!」
 柳川の絶叫が変化する。
 絶望と悲嘆の絶叫から、憤怒と殺意に満ちたものへと。
 柳川の身体が折れ、不気味な音とともに蠢きはじめた。
 だが、男たちはその変化に気づかない。
 二人いる男のうち一人が、叫び続ける柳川を見て眉をしかめた。
 「なんだ、こいつは? ・・・狩りの邪魔しやがって・・・てめぇも狩ってやるよ」
 そう言い放って、柳川の前に歩み出た。
 たしかに、その男ならば柳川の身体くらい素手で破壊できるかもしれない。身にまとって
いる、着物のような奇妙な衣装が張り裂けんばかりに鍛えあげられた肉体。
 そして・・・その腕に光る巨大な「爪」。
 「死ねや」
 「・・・ちょっと待っ・・・」
 女が声をかけようとするが、男の腕が振りおろされる方が早かった。
 ・・・そして、柳川の腕が跳ねあがるのは、更に早かった。

 ずしゃあっ!

 胸の悪くなるような音があがり、血しぶきが飛び散る。
 そして、一瞬遅れて。
 「うぎゃあああぁぁぁっ!?」
 腕を斬り落とされた男の苦鳴があがった。
 「やはり、エルクゥ!?」
 鬼と化した柳川を見た女が、驚愕の声をあげる。
 そして、その声が消えるより速く、柳川の身体が女に跳びかかっていた。

 がきいっ!

 だが、その爪は女に届く前に、もう一人の男によって止められた。
 鉄をも切り裂く爪を止めたのは、一本の棒。
 いや、棒状の何か、と言うべきだろう。得体の知れない金属でできたそれは、柳川の、
鬼の爪を受けて傷一つついていないのだから。
 男が、その外見からは想像もつかない力で柳川の腕を跳ねのけた。
 柳川はその動きに逆らわず、そのままの勢いで蹴りを放つ。
 「うわっ!」
 男がそれを避けて跳び退った。
 ・・・コノオトコモドウゾクダ。
 その動きを見て、柳川は確信した。
 鬼の気配こそ隠しているが、彼の爪を止めた力といい、今の蹴りをかわした動きと
いい、人間にできるものではない。
 柳川の心の奥で、憎悪とは別の感情が生まれる。
 歓喜。
 ・・・コイツノイノチハ、ウツクシイニチガイナイ。
 柳川は、憤怒と歓喜の入りまじった咆吼をあげると、二人に向かって襲いかかった。

 「くっ! おっ! ととっ! どーします!? なにやら怒り狂っちゃってますよ、
  このエルクゥ!」
 「仕方ありま、きゃっ! せんわね! 一旦逃げますわよ!」
 棒を持った男と女は、次々に繰り出される柳川の攻撃を辛うじてかわしていた。
 とは言え、いかに二人がかりでも、鬼の攻撃を人間の姿でかわし続けることは、けっして
楽なことではない。二人の身体には、幾つもの傷が刻まれていた。
 その顔には、明らかな戸惑いがあった。
 何故、柳川が殺意を覚えているのか分からない。
 そんな表情であった。
 「グオオオオッ!」
 柳川が吼える。
 その瞬間、わずかな隙を見つけた男が動いた。
 手にした棒の先端を柳川に向ける。
 刹那。

 ばぁんっ!

 硬い物どうしをぶつけたような音があがり、鬼の巨体が吹き飛ばされた。
 「ウオオッ!?」
 咄嗟のことに反応しきれず、柳川の身体が部屋の壁に叩きつけられる。
 その隙に、棒を持った男が、片腕をなくして倒れていた男を担ぎあげた。
 女はその間に部屋の窓を開け放っている。
 「申し訳ありませんけれど、今日はこれで退散いたしますわ。貴方の獲物のお詫びは
  いずれいたしますから・・・」
 そう言い置いて、女は夜空に飛び出した。
 「どーも、すみませんでした。今のは訓練弾ですんで勘弁してください」
 「・・・てめぇ、覚えてやがれ・・・」
 男二人もそれに続いて飛び出す。
 しばらくして柳川が動けるようになった時、既に三人の姿は夜の闇に溶けこみ、、
どこにも見あたらなくなっていた・・・

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ギ「というわけで、初の長編で緊張しまくっているギャラでございます。
  なんとなく、既にどなたかがやっていそうな初音EDネタですが・・・ちょっと
  ひねるつもりで、エルクゥ側重視でやってみたいなー、とか思っています」
棒男「・・・エルクゥ側重視で、とか言っているわりに、私らの扱いがぞんざいな
   よーな気が・・・」
女「そもそも、名前も出ていませんものねぇ」
ギ「いや、だって、知り合いどうしで名前呼びあいまくるのって不自然じゃないですか。
  そのうち、機会を見て出そうかと・・・」
女「で、本音は?」(にっこり)
ギ「エルクゥ風の名前が思いつかんのです(笑) いや、割とマジで」
棒男「なるほど・・・じゃ、まあ、ちょっと体育館の裏にでも行きましょーか」
女「基本的なロケーションですわね」
ギ「え・・・いや、ちょっと・・・」(ずるずる)

   惨殺。

女「狩猟の後はご飯も美味しい! というわけで(どんなわけ?)ここから感想ですわ」