芹香改造計画 投稿者:ギャラ

 「というわけで、あなた達に協力してもらいたいわけよ」
 「・・・いきなり「というわけで」とか言われてもワケわかんねーって」

 人を呼び出しておいていきなりワケの分からんことを言う綾香に俺はつっこんだ。
だが、彼女には効果なかったらしい。

 「まあまあ、男のくせに細かいこと気にしないの」
 「・・・」
 「どうしたの、姉さん? え? 全然細かくないって? う〜ん、しょうがない
  わね。姉さんがそう言うのなら・・・」

 綾香は何から話すべきかしばらく悩んだようだったが、すぐに顔を上げて、ここ
にいる一同の顔を見回した。
 あかり、志保、雅史、来栖川姉妹、そして俺、藤田浩之。
 それが、今この場にいる全員であった。

 「まず最初に確認しておくけど・・・「To Heart」がPSに移植される
  のは知ってるでしょうね?」
 「もちろん。僕としては、ほたーんに移植して、せがたさんにCMやってもらい
  たかったんだけどね」

 にこやかに濃い事をのたまう雅史。
 「ほたーん」って・・・お前はいったい何者だ。

 「・・・雅史。なんでそこでせがた三四郎が出てくんのよ」
 「え? だって、ほたーんのゲームの最大のウリって言えば、せがたさんのCM
  でしょ?」

 嫌なウリだな、おい。

 「じゃあ、何? やっぱりせがたが「あかりさ〜ん!」とか言って走ってくるわけ?」
 「え・・・わたし、それはちょっとヤだな」

 笑いながら言う綾香に、あかりがちょっと困ったような顔をした。

 「いや、僕としてはせがたさんが耳カバー付けてモップ持って、「ご主人様〜」
  って言うCMを・・・」



  滅殺。



 「・・・えーと、それで、どこまで話したっけ?」

 ボロ雑巾のようになった「さっきまで雅史だったモノ」がセバスチャンによって
回収されてから、綾香は何事もなかったかのように話を続けた。
 ・・・安らかに眠れ、雅史。

 「PSへの移植がどうとか・・・ってあたりまでだったと思うけどな」
 「あ、そうそう。それで、一つ問題がでてきたわけよ」
 「問題?」
 「そ」

 そう言って綾香は指を立ててみせた。
 PS移植での問題ねえ・・・?

 「んー、やっぱりアレ? 規制が厳しいってこと?」
 「まあ、それもないわけじゃないけど・・・」

 志保の言葉に、綾香は首を振った。

 「あとは何かあったっけ? あかり、あんた何か思いつく?」
 「え・・・うーん、声が付くかもしれないって事ぐらいかなあ?」
 「・・・」
 「え? それです・・・って、どういうことですか、来栖川先輩?」

 戸惑うあかりに、綾香が口を挟む。

 「だから、PSに移植されたら声が付くでしょう? それなのに、ウチ
  の姉さんときたら・・・」

 タメ息をつく綾香に、先輩が少し俯いて「ごめんなさい・・・」と
呟いた。
 それを聞いた綾香が少し慌てた様子で、

 「や、やーねえ、姉さんたら。しょうがないわよ、性格なんだから」

 ・・・なんのかの言いつつ、仲がいいんだからな、この姉妹も。
 なんとなく微笑ましい気分になった俺である。
 そんな事を考えていると、綾香が咳払いして、

 「まあ、そんなわけで、姉さんがちゃんと喋れるように特訓したいわけよ」

 と言った。
 なるほど。そーいうことか。まあ、たしかに先輩の台詞っていえば、「運命的?」
とアの時の声くらい・・・いや、PSではアのシーンはカットされるだろうから、
一言だけか(笑)

 「それは別にかまわねーけど、特訓たってどうやるんだ?」
 「だからぁ、それを考えてほしいのよ〜」

 いきなり甘えた口調になる綾香。
 ・・・要するに、何も考えてなかったってことかい。

 「ふふふ・・・」

 と、いきなり志保が不気味な笑いを始めた。そして、ぎょっとして振り向いた
俺たちに向かって、高らかに宣言する。

 「そーいうことなら、この志保ちゃんにおまかせよ!」


 30分後。俺たちはカラオケボックスにいた。


 「・・・で、カラオケで性格矯正ってかぁ? まったく安直と言うか何と
  言うか・・・」
 「うっさいわねぇ! 大声を出せるようにするには、これが一番なのよ!
  文句があるんなら、あんただけ帰んなさいよ!」
 「もう、二人とも・・・」

 6人用のボックスの中。
 あいかわらずの掛け合いをする俺たち3人をよそに、先輩はきょろきょろと
物珍しそうに室内を見回していた。
 ・・・まあ、綾香はともかく、先輩はこんなトコ来たこともねーんだろうな。
 綾香の方はと言えば、いつの間にやらちゃっかりと曲本をキープしている。
 ちなみに、カラオケはセガカラ。リーフファンのお約束だ。

 「で、カラオケで特訓はいいけど、何をかけるのよ?」
 「ふふふ・・・セガカラに来たからには、これしかないでしょ」

 志保が怪しい含み笑いをしながら、リモコンに曲番号を入力していく。
 ・・・曲本を見ずに入力とは、さすがにやるな。

 「さ、先輩。マイク持って」
 「・・・」

 先輩に2本あるマイクの1本を押しつけた志保は、もう1本を自分で
持ったまま、曲のスタートを待った。
 やがて、曲が流れはじめる。


         ばんばんばんばんばばんばーん・・・


 「なんで「ばんぺいくんRX」かぁぁぁぁぁ!!」

 俺のドロップキックが志保に炸裂した。
 派手に吹っ飛ぶ志保。

 「なんでもかんでも、セガカラと言ったらこれでしょ! それに、これは
  「ばんぺいくんRX」じゃなくて「9000系RX」よ!」

 派手な吹っ飛び方の割にはダメージは少なかったらしく、すぐに復活した
志保は、くそローカルな鉄道系替え歌の題名をほざいた。
 ・・・なんでお前はそんな阪神沿線の人間しか知らんような替え歌を知って
やがんだ?

 「なお悪いわ!」

 もちろん速攻で却下する俺。
 と・・・

 ピピッ。

 「あれ? 今誰か何か入れた?」

 綾香が問いかけたが、俺たちはいっせいに首を横に振った。第一、誰もリモコンに
ふれていないはずだ。
 と、ドアが突然開かれ、何者かが部屋の中に入ってきた。

 「ふふふ・・・それは僕だよ」
 「誰だ!?」

 男はその問いには答えず、ゆっくりと懐からワイヤレスマイクを取り出した。
そして・・・


      電波で電波で電波で電波で GO!GO!GO!GO!・・・


 「それはセガカラじゃないでしょうがぁぁぁ!!」

 綾香の渾身のハイキックがその男・・・月島(兄)の顔面にめり込んだ。
そのまま、部屋の外まで吹っ飛ばされる月島(兄)。

 「はぁ、はぁ、まったくもう・・・」
 「・・・」
 「え? 乱暴はよくありません・・・って、いいのよ、ああいう電波変態
  に人権はないんだから」

 苛立っているせいか、結構ヒドい事を言う綾香。
 ・・・お前はどこぞの天才美少女魔導士か。

 「浩之ちゃ〜ん、来栖川せんぱ〜い、これなんかどうですか?」

 星になった月島(兄)の存在を完全に無視して、あかりが犬チックな微笑みを
浮かべて曲本を開いて見せた。
 ・・・こいつもなかなかいい根性してるよな・・・

 「この曲とか、先輩が好きなんじゃないかな、と思って・・・」
 「どれどれ・・・」

 そこにあった曲名は・・・

 「・・・絶対運命黙示録?」
 「ほぉう、あかりにしちゃ、いい曲を選んだじゃねーか。どう、先輩?」
 「・・・」
 「え? いい曲名ですね・・・って? よし、決まりだな。入力しろ、あかり」
 「うん!」

 あかりがリモコンに曲番号を入力する。
 間もなく、スピーカーから曲が流れてきた。


       ちゃっちゃ〜、ちゃっちゃ〜、ちゃら〜らちゃちゃ〜・・・


 「・・・」

 だが、先輩は困ったような表情でぼーっと立ちつくしている。
 ・・・これはひょっとして・・・

 「ねえ、先輩?」
 「・・・?」
 「先輩、ひょっとして、この曲知らないんじゃ・・・?」
 「・・・」(こくん)
 「だあぁぁぁ〜」

 俺たちは思わずテーブルに突っ伏した。
 そうだよなぁ。一見でこの曲歌える奴なんてまずいねーよなぁ。

 「それじゃ、姉さん。この中で知ってる曲ってない?」

 立ち直った綾香がそう言いながら曲本を先輩に手渡した。だが、先輩は
ぱらぱらとページを流し読みした後、申し訳なさそうに、ないみたいです
・・・と言った。

 「はぁ、まずったわねぇ。まさか、1曲も歌える曲がないなんて・・・」

 頭を抱える綾香。
 ・・・しっかし、「ドラOもん」すら知らねーってのは、さすがと言うか
何と言うか。
 と、志保が突然キレて叫び出した。

 「こうなったら、アカペラで歌うのよ! それしかないわ!」
 「そーだな。こうなったら、それしかねーか」

 俺は先輩にマイクを渡した。
 先輩は素直に受け取ったが、少し戸惑ったような表情をしていた。

 「先輩、ごめんだけど、曲なしで何か歌ってもらえねーかな?」
 「・・・」
 「え? 恥ずかしがることはねーって。誰も笑ったりしねーしさ」

 だが、先輩の表情は曇ったままだった。

 「・・・」
 「え? 私が歌うと迷惑がかかります・・・だって? 大丈夫大丈夫、
  そんなジャOアンじゃないんだからさ」
 「そうそう、歌っちゃいなさいよ、姉さん」
 「この志保ちゃんがレッスンしてあげるから大丈夫だって」
 「あの、わたしも、来栖川先輩の歌、聞いてみたいです」
 「みんなもこう言ってることだし・・・な、先輩?」

 先輩はそれでも迷っていたようだったが、やがて、こくり、と頷いた。

 「・・・」
 「え? 歌うって? やったぁ!」

 少し照れくさそうにしながら、先輩がゆっくりとマイクを口元に運ぶ。
そして、その口から鈴を転がすような綺麗な歌声が・・・


        いあ! いあ! はすたあ!・・・


 「こういうオチかああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 SAN(正気度)チェックに失敗して悶絶する俺たち。
その後ろで、「名状しがたいもの」の影がゆらゆらと揺れていた・・・