告白 投稿者:仮面慎太郎 投稿日:7月31日(月)20時00分
 さすがにする事が無くなった。 
 陵山に来て一週間。最初のうちは町をぶらついても、それなりの発見は
あった。それに、途中ちょっとした事件もあって、むしろ忙しいくらいだ
った。
 まぁ、その事件がもとで、俺が「ずっとここにいたい」と思っているの
も事実ではある。
 でも、言っちゃ悪いがここは田舎だ。あるのは温泉ぐらいのもの。三日
もいればたいてい飽きるし、いくらなんでも二十歳の男が、朝から晩まで
温泉つかって「はぁー、いい湯だなぁ」は枯れすぎだろう。

       ・・・暇すぎるなぁ・・・
 千鶴さんは仕事だし、千鶴さんは仕事だし、千鶴さんは仕事だし・・・

 そんな事を考えながら家の中をうろうろしていると、親父の書斎をの前
を通りかかった。そういえばここには最初の案内のとき以来、一度も入っ
ていない。
 まぁ、親父がどんな本を読んでいたのか気になるし、暇だから入ってみ
るか・・・
 書斎は綺麗に片づけられていた。書き机の上に本が数冊、そのままにな
ってはいたが、ほこりは積もっていなかった。多分、親父が生きていた時
のままにしておいて、軽い掃除をしているぐらい・・・ といった所だろ
う。
 さて、俺は本棚を軽く眺めた。なかなか面白そうな本がある。
 そこで俺は・・・

   1アルバムを見た
   2雫・痕設定原画集を手に取った
   3やはり机の上の本が気になる

 ・・・2だな。
 やはりお楽しみは初期設定や、ボツ原画だろう。日の目を見なかった俺
の知らない四人がいるのだ。期待するなってほうが無理だ。
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 おぉ、最初は姉妹全員が、初音ちゃんみたいに髪の毛がピンっと立って
いたのか。しかし・・・ 梓はともかく、千鶴さんと楓ちゃんは似合って
ないな。これは、<鬼>って事を表現したかったのかな? 
 俺は無粋な詮索をしたりしてみる。
 あっ、柳川がちょっとカッコイイ? むかつくなー。デコピンしてやれ。
   ペシッ
 ふっ、いい気味だ・・・ 何ぃっ!

 性格反転した楓ちゃんのイメージラフがある!!

 か、可愛すぎるぅぅ!! うーん、底抜けに明るい楓ちゃん。
 い、いいかも知れないぃぃぃ。
 そして、俺はあるページを見て驚愕した。そこには「チョキしか出せな
いんですぅ」とウィンクしながら言ってる可愛い千鶴さんと・・・
 
 ワイシャツに下着姿という千鶴さんがいた。

 
 夕食時。
 「耕一さん・・・ 元気ないみたいですけど、どうかしたんですか?」
 考え事をしていると、千鶴さんが声をかけてきた。
 「いや、なんでもないですよ」
 「さっきまでずっと寝てたから、まだ脳みそが起きてないんだよな」
 「梓! うるせっ」
 普段通りの夕食が終わり、各自がいつものように、バラバラと動き出す。
楓ちゃんは自室へ向かい、梓は後片づけ。初音ちゃんはお風呂に入って、
千鶴さんはTVを見る。来た当初は、客人である俺が一番風呂になるよう
にしてくれていたのだが、今ではそんな事もなくなった。
 とにかく、梓の片づけが終わるまでは、俺と千鶴さんの二人きりなのだ。
チラリと千鶴さんを見ると、熱心にTVに見入っている。俺の視線に気が
ついたのか、千鶴さんと目が合った。
 「あの、どうしたんですか?」
 初音ちゃんが天使の微笑みなら、千鶴さんは女神のそれだ。最大級の微
笑みで俺を迎えてくれる。
 「あの・・・ ・・・ ・・・ って言ってくれますか?」
 「え? すみません、よく聞こえなかったんですけど・・・」
 「・・・ チョキしかだせないんですぅ、って言ってくれませんか?」
 「・・・」
 「・・・」
 沈黙・・・
 「チ、チョキしかだせないんですぅ」
 「・・・」
 「・・・」
 か、可愛すぎる。俺は机の下でガッツポーズを決める。
 「千鶴さん」
 「は、はい」
 真剣な顔で呼びかける。千鶴さんもそれにならって、声のトーンを落と
す。
 「可愛いです」
 「え? やだっ、もぅ耕一さん。からかったんですか?」
 ちょっと怒った仕種をする千鶴さん。あ、やばい。がまん出来ない・・・
 「ふぅ、やっと終わった・・・」
 丁度その時、梓がやってきた。
 「おっ、何話してたんだ。二人とも」
 どっこいしょっと、おばはん臭い声を出して座る。
 「なんでもねぇよ」
 「あ、そうだ。聞いてくれよ二人とも。今日学校でさ・・・」
 他愛のない雑談を俺達は楽しんだ・・・

 風呂から出ると、俺は千鶴さんに「お風呂、出ました」と伝えた。そし
て、自分の部屋に戻ると、五分ぐらいしてからまた、風呂場へと出向いた。
 脱衣所に入ると、千鶴さんの脱いだ服があった。
 「千鶴さん・・・」
 そう呼びかける。
 「耕一さん? 何かあったんですか?」
 すりガラスの向こうからくぐもった声がする。
 「あの・・・ 疲れてますか?」
 「えっ、いえ、その・・・ 何か?」
 千鶴さんは困惑している。まぁ無理もないかな。
 「実はですね・・・ その、お風呂からでたら、俺の部屋にきてほしい
  んです」
 「はい、それはいいですけど・・・」
 「あの、体、よく洗っておいて・・・ 下さい」
 「・・・」
 「・・・」
 さすがの千鶴さんも、俺が何を言いたいのかわかったらしい。
 「・・・」
 「・・・ はい」
 か細い声が聞こえてきた。

 「あの・・・ お待たせしました」
 純白のバスローブ姿の千鶴さんは、まるでこの世の者じゃないみたいに
綺麗で、そして儚げだった。
 少し照れた顔。湯上がりの濡れた髪。目を合わせると、顔を赤くして下
を向く。それだけで、俺は千鶴さんを抱きしめたくなった。
 しかし、俺にはやらなければならない事がある。
 「千鶴さん」
 「! ・・・はい」
 潤んだ瞳でこちらを見据える。バスローブの隙間から、ピンク色の可愛
い下着が見える。ブラジャーは付けてないようだ。白い胸元が月明かりに
映える。そして・・・
 「千鶴さん。何も言わずにこれを着て」
 そう言って俺は、夕方急いで買いに行ったワイシャツを差し出した。
 「あの・・・ これは?」
 「お願い、千鶴さん。何も言わずに・・・ 俺、むこう向いてるから」
 「は、はい・・・」
 千鶴さんは、少々面食らってはいたが、素直に着てくれた。
 「・・・ どうですか」
 袖から半分だけ出た指。見えそうで見えない胸元。下着が見えてる裾。
その全てが予想以上の可愛らしさだった。
 「ねぇ、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも・・・」
 千鶴さんが冗談めかして言う。
 「それとも・・・ わ・たキャッ」
 俺は最後まで聞けなかった。ワイシャツ姿の千鶴さんを押し倒して、
首筋に口付けをする。
 「こ、耕一さん。乱暴にしないで・・・」
 するはずがない。俺の大切な女性なんだから。俺は唇を、首筋から胸元
へと滑らせて行った・・・
・
・
・
 裸の千鶴さんを膝の上に座らせて、俺は障子の隙間から庭を見ていた。
千鶴さんは少し眠そうな目をしていて、ギュッと強く抱きしめた俺は優し
く、彼女の髪を撫でた。汗でお互いの肌がくっついて、それが妙に心地よ
かった。
 「千鶴さん」
 「・・・ はい」
 「俺、その、千鶴さんの・・・」
 「はい?」
 子供みたいに首をかしげる。
 「苦労してきた千鶴さんが、その、幸せになってもいいと思うんだ」
 「? はい」
 千鶴さんはまだキョトンとしている。
 「それで・・・ 俺、その手伝いをしたいんだ」
 「私の、お手伝い・・・ ですか?」
 まだわかってないらしい。俺はそれが可愛くてしかたなかった。
 「うん。千鶴さんが幸せになるお手伝い。今はまだキチンと言えないけ
  ど、大学でたら、その・・・ ちゃんと言うから」
 これでも一世一代のつもりだった。心臓がバクバクいってる。なんだか
恥ずかしくて千鶴さんを直視できない。・・・俺は続けた。
 「わかんなかったら、多分起きてると思うから、梓あたりに聞いてみて」
 「はい」
 しばらくして、千鶴さんは自分の部屋に戻っていった。別れ際にも「幸
せになる手伝い、わかんなかったら梓に聞いてみて」と言った。梓ならわ
かるだろう。これが、遠回しな・・・
 
   遠回しな<プロポーズ>と言う事が。

 五分ぐらいだったろうか、千鶴さんの素っ頓狂な声が柏木の屋敷中に響
いたのは。



  あれだけの大声だ。きっと、親父のところにも届いただろう・・・



                       完