痛快!! 少年まさし 三部 第二話 投稿者:仮面慎太郎 投稿日:7月26日(水)23時13分
前回までのあらすじ・・・悪の組織<黄色い羽帽子>の幹部、髑髏(どくろ)博士は、たび
            重なる失敗のため、最後通達を受けてしまう。後のない博士は、
            幹部<ジェントル紫炎>から兵士を借り、最後の戦いを少年まさ
            しに挑む。少年まさしと出会った全ての場所近辺に、飛行船から
            紙切れをバラまく。その紙切れには一言、こう書かれていた。
          
               <次の日曜、初めて会ったあの場所へ来い。
                          待っているぞ。髑髏博士>

     痛快!! 少年まさし
        髑髏(どくろ)博士の最後の罠
          第二話「髑髏(どくろ)博士の最後(前編)」

 そして、日曜日。少年まさしはあの洞窟に来ていた。
 一度塞がっていたハズなのに、また開いている。薄暗い洞窟の奥、そこに髑髏(どくろ)
博士がいるのだ。
 (これで終わるんだよね・・・)
 あの紙切れの意味を理解した子供達は、今、秘密基地で身を寄せ合っている。
 「大丈夫だよ! きっと少年まさしが助けてくれる」
 浩之がそう言って、みんなを励ましていたっけ・・・ 僕は、みんなを助けなくちゃ。次
はきっと、顔を見たあかりちゃんを狙うに違いない。その次は学校の皆だ。そうはさせない。
 まだ暑い日差しの中、少年まさしは一歩ずつ暗い闇の中へと、消えていった。


 そして、日曜日。喫茶<持ち上げられた鎌首>のマスター、耕一は地下室にいた。
 この地下室は子供達も知らない。誰一人として、存在すら知らなかった。耕一は、一枚の
写真を眺めていた。古びれたセピア色の中には、五人の子供達が写っていた。そっと呟く。
 「どこにいるんだ・・・ かえ」
 「耕一さん」
 そっと写真を机の上に置くと、耕一は声の主へと振り向く。
 「はわわ、お邪魔でしたか〜」
 「いや、いいよ」
 そういって声の主に向かって手を振る。
 「もうそんな時間か・・・」
 耕一は虚空を見つめ、一瞬後、誰にともなく呼びかけた。
 「・・・レゼド・・・メタ・・・デ・・・」

  ・・・デ・・・リタ・・・ <ヨーク> ・・・


 気を抜くと吸い込まれそうになるほどの漆黒。洞窟内部は、昔とは様相を変えていた。見
られている。そんな感じがずっと付きまとう。顔の半分を隠すほどの黄色いマスクのおかげ
で、なんとか暗闇を見渡す事はできる。しかし、肌に張り付いた闇はじりじりと、少年まさ
しを圧迫していった。
 どれくらい走っただろう。少年まさしは立ち止まった。
 「おかしい」
 声に出して呟く。「もしかして、グルグル周ってるだけなんじゃ」そう続ける。
 サッとレーザー銃を取り出す。そして目の前の闇に向けて打ち放つ。
 バババババッ!!
 一条の輝きが闇を切り裂き、そして、ただの岩肌を少年まさしに照らし出す。
 「・・・あれ? おかしいな、普通の道だよね・・・」
 そう言ってレーザー銃出力を最大にして<真上に撃った>。
 バリバリバリッ!!
 光が天井を這う。
 ガガガッ・・・ ボンッ!
 視界がぶれる。と、同時に闇が晴れていく。そこは小さな部屋だった。壁は岩肌じゃない
なにか・・・ 髑髏(どくろ)博士の移動住居<せせらぎ荘>と同じだった。
 「僕はこんなところを・・・」
 天井にを見ると、漏電している壊れた機械がぶら下がっていた。
 「これで、暗闇を・・・」
 『おめでとう、少年まさし』
 「!?」
 くぐもった声。学校の放送のように、スピーカーを通しているのか。
 『まずは挨拶程度だ』
 ガコン!
 目の前の扉が開いた。
 『進みたまえ。君の健闘を祈ってやろう』
 「くっ、待っていろ! 髑髏(どくろ)博士」
 少年まさしは扉をくぐる・・・ 直前で、ジャンプして扉のさっしに立つ。
 『ちっ、運のいい』
 扉の前の床が外れる。後は奈落だった。
 「髑髏(どくろ)博士・・・」
 そして、少年まさしは走りだす。


 『大丈夫だろうな』
 「誰に言っている。俺は<神輿担ぎの男衆>の一人、コードC・クラドだぞ」
 『ふっ、期待しているぞ』
 「貴様の期待なぞ・・・ 俺に期待していいのはジェントル紫炎様だけだ」
 『・・・』
 「来たぜ・・・」
 そこは小さい体育館ほどの部屋だった。中心に一人の男が立っている。全身黒タイツとい
う、戦闘向きの服装だった。
 「あなたは?」
 「敵さ」
 そういいながら手の甲を見せる。大きくCと、赤い字で書いてある。
 「ジェントル紫炎様の私設軍隊<神輿担ぎの男衆>が一人、コードC・クラド!!」
 「僕の名前は少年まさし!!」
 対峙する、二人。
 (大きい!)
 そう、クラドの身長は、少年まさしの二倍はゆうにあった。だが、少年まさしは体の大き
さでは、ひるまない。
 「行くぜ、少年まさし!!」
 剛を煮やしたクラドが叫ぶ。そして、巨体がかき消える。
 (な!?)
 バックステップ! しかし!
 (うわっ)
 嫌な悪寒を感じた少年まさしは、着地後すぐに、後ろに転がる。

 ブォンッ!

 全身で空気が引き裂かれるのを感じた。前方、つまりさっきまで自分のいた所に銃口を向
ける。しかし・・・
 (いない!)
 今度は前に向かって転がる。とにかく、体が動いた。
 
 ズドム!!

 振動。そして、体制を立て直さずに後ろに向けて銃を撃つ。
 ババババ!
 「!!!」
 真後ろにクラドがいた。
 (直撃した?)
 「あぶねぇあぶねぇ」
 遥か前方から声がする。
 「ちっ、右腕がおしゃかだぜ・・・ ちょこまかちょこまか動きやがって」
 「体が小さくたって負けないよ!」
 左手で右手の甲を触るクラド。
 「暫くしびれは取れねぇか・・・」
 ガコン! ・・・プシューッ!
 唐突に部屋の隅から、白い煙が吹き出る。
 『少年まさし、このしびれガス<君のいる窓辺>をプレゼントしよう』
 「なに!」
 『この<君のいる窓辺>は下に溜まる性質がある。貴様とクラド、どうあっても貴様の負
  けだ』  
 見ると、すでに大量のガスが溜まっている。
 「余計な事をっ!! ジェントル紫炎様なら、私の力を信用してくださるものを!」
 クラドが絶叫する。その間も、靜かにガスは溜まる。
 「一瞬だ。一瞬で勝負をつける」
 白い煙が舞う。
 (ショルダー・タックル!)
 正面からの攻撃。白煙がその軌跡を描く。
 ババババ!
 ブワッ・・・
 (次はジャンプだ。なら・・・)
 サイド・ステップ!
 真横に向かって銃を撃つ。だが、クラドは予想以上に滞空していた。着地と同時に突っ込
んでくる。
 ヒュンッ!
 クラドの動きが止まる。
 「麻酔銃だよ。レーザーの跡ばかり気にしてると、跡を残さない麻酔針にきがつかなく
  なるんだ」
 クラドがゆっくりとかたひざをつく。刹那、
 グンッ!
 腕が伸びてくる。不意をつかれた少年まさしは、そのまま持ち上げられる。
 「残念だったな。我等<神輿担ぎの男衆>、鍛え方が違うのよ」
 対角の壁に放り投げられる。
 「あああっ!!」  
 
 ダァァァン!!

 「ガスの海で眠れ・・・」
 ゆっくりと、少年まさしをガスの海が包み込む。クラドはそれを確認すると、クルリと
背を向け、扉に向かって歩きだした。
 「髑髏(どくろ)博士。仕留め・・・」
 瞬間。

 バリバリバリバリ・・・

 一房の光のたばが、クラドの背を焼く。クラドは驚愕の表情でゆっくり振り向く。
 「な・・・ ぜ・・・」
 白煙を撒きながら、クラドが、ガスの海に沈む・・・
 顔だけしか見えなくなった部屋から、悠然と扉をくぐったのは少年まさしだった。マフ
ラーを口にまきつけてある。
 「ごめんね、クラドさん。この服、特別なんだ・・・」
 しばらくすれば気が付くはずだ。それまでに、髑髏(どくろ)博士を更正させる。
 少年まさしは、再び走り出した。前に向かって。


 少年の消えた後、厳かに扉が閉まる。白い煙は、あたかも天に昇ることを拒むかの如く、
その身を地に横たえ続けた。
 「・・・」
 「・・・」
 「気づいてるんだろ? 俺が無事だって・・・」
 そう言ってガスの海から立ち上がったのクラドだった。ガスはすでに彼の胸元まできて
いた。
 「さすがにわかるか・・・」
 前方に、スッと人影が現れる。鬼の仮面に白装束、ジロエモ仮面だ。
 「ふっ・・・ 当然だろう」
 と、回復した右手を上げて、その甲を見せる。
 「ジェントル紫炎のおかかえだ・・・ だろ?」
 「そういうことだ」
 一拍おいて、ジロエモ仮面が口を開く。
 「あんたに聞きたいことがある」
 「俺もだよ」
 「・・・」
 「・・・」
 ガスはすでに首まできている。
 「ある女の子を捜している。名はか・・・」
 「おっと、そこまでだ。お互い聞きたいことがあるんだ、勝った方がって事にしようぜ」
 クラドは両肩を、おどけた仕草でひょいっと上げる。
 「・・・そうだな。でもいいのか?」
 「? なにがだ?」
 「そうなると・・・」
 ガスが、全てを包み込む。
 「そうなると、お前さん、勝ち目がないぜ」
 「・・・」
 「・・・」
 「言ってくれるな、鬼野郎」
 
 沈黙・・・ ・・・ ・・・ ・・・ クラドが動いた!!
 
 スピードをつけた、力任せの無骨なパンチ。白煙が舞い散る。
 直撃!! 
 「なっ?」
 声をあげたのはクラドだった。信じられない。確かに直撃した。その感触はあった。
 しかし・・・
 衝撃が跳ね返った・・・ というわけではない。むしろ、全て吸収された感もある。そ
れだけに、解せなかった。ゴムタイヤのような感触。それでいて、身じろぎ一つしないの
だ。
 「・・・ もう、勝ち目はねぇぜ・・・」

 ザワリ・・・

 クラドの肌に、重圧がかかる。心がざわめく。密室内だというのに、白煙が流れる。
 ・・・ まさか、恐怖?
 まさに、そう思った瞬間。
 「ゥルググオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッ!!!」


                          続く