セリオと雅史  投稿者:仮面慎太郎


 俺は久しぶりに雅史と二人きりで下校している。いつも会ってるくせに、下校
の時は、話したい事が山程出てくる。そんなわけで、俺達は異様に盛り上がりな
がら、家路についていた。しかし・・・
 「あれ・・・ 大変だ浩之、誰か、うずくまってる!」
 「ホントか? 雅史! どこだ?」
 見ると、前の方で苦しそうに地面に女性がうずくまっていた。
 「大丈夫ですか?」 
 雅史が走りより肩に手を置いた。俺も急いで駆け寄った。
 「え・・・ えぇ、大丈夫です」
 近づくたびに、嫌な予感がしていた。何故、あの人は寺女の制服を着ているん
だろう。何故、耳カバーが付いているんだろう。何故、うずくまっているのにニ
ヤニヤ笑っているのだろう・・・
 「う!」
 「どうしたんですか?」
 「お腹が痛いのです。摩ってくれませんか?」
 セリオだった。間違いない。こいつは敵だ!!
 「雅史、こいつだよ。俺が言ってた嫌みなメイドロボは」
 そう言った瞬間、セリオは軽く舌打ちをした。
 「そう・・・ だったんだ・・・ でも苦しそうだよ」
 「演技に決まってんだろ。アンドロイドが腹痛起こすか」
 「ううう、痛い」
 「うるさい!!」
 わざとらしく、棒読みで苦しがるセリオを一喝する。
 「いこうぜ、雅史」
 「うん・・・ でも・・・」
 「いいから」
 そう言うと、俺は強引に雅史の手を引っ張った。少し歩いて振り向くと、セリ
オは、何事も無かったの様にスタスタ歩いている。
 「なっ、言っただろ」
 「うん・・・ でも、なんにもなくてよかったね」
 でた、<雅史スマイル>だ。こいつのこの笑顔だけで、何人の女の子とホモS
S作家(俺の事じゃない・・・ ハズ)が恋の奴隷になったろう。暫く歩いてい
ると、急に雅史が立ち止まった。
 「ごめん、浩之。僕やっぱり気になるんだ」
 「? 何が」
 「セリオさん、足引きずってたみたいなんだ」
 「はぁ?」
 俺が困惑している中、ごめんねと言い残して、雅史はもと来た道をダッシュで
引き返した。



 雅史はすぐにセリオを見つけた。さっきと同じように道にうずくまっていた。
 「セリオさん」
 セリオは(珍しく)少し驚いたような表情をして、雅史の方を向いた。
 「あなたは・・・ 藤田様のお友達の・・・」
 「佐藤雅史だよ、セリオさん」
 セリオは一瞬後、すぐに、いつもの無表情に戻っていた。
 「佐藤様、何か御用でしょうか?」
 「うん・・・ ちょっとね。その・・・ 足、大丈夫?」
 今度ばかりは、セリオも驚愕した。今日は学校で、不意の事故により、足首を
怪我してしまったのだ。しかし、だからといって、「怪我をした」を理由に早退
など出来ない。、来栖川の信用を下げる事はできないのだ。だが、このままでは、
流石にいつも通りというわけにはいかない。一番いいのは、綾香の迎えの車に搭
乗して、研究所まで帰る・・・ という手だが、今日綾香は用事で休んでいる。
バスに乗るよりは、芹香の車に乗った方が安全なので、しかたなく、バレないよ
うに、細心の注意を払ってここまで来たのだ。それなのに、いきなり故障に気が
つかれたのだ。
 「・・・ なんの事です?」
 (こうなったら、この方の秘密を握って脅さなければ)
 「なんともないの? 大丈夫?」
 「いえ、しかし、またお腹が痛くなってきました。少し、摩って頂きたい」
 「えぇ、いいですよ」
 (かかった!!)
 セリオはそっと雅史の手を握ると、自分のお腹に当てた。
 「ふぅ・・・ あぁ・・・」
 わざと色っぽい声を出す。しかし、出しながらも、セリオは今見ている映像を
記録に残している。雅史が、女生徒を服の上から撫で回している事実を。
 「大丈夫ですか?」
 「・・・ すいません。もう少し上を・・・」
 「ここですか?」
 雅史は律義に少しだけ、上を撫でる。
 「もう少し」
 「ここですか?」
 「いいえ・・・ ここです」
 そう言うや否や、セリオは自分の胸に雅史の手を置いた。
 「あ、あのセリオさん」
 セリオは急に機械的な声を出して、
 「佐藤雅史様、あなたの今の行動は、私が映像として記録させて頂きました」
 「えっ!」
 「これをばら撒かれたくなければ、今後、私の言う事には従ってもらいます」
 雅史は立ち上がり、数歩後ずさった。
 「今までのは・・・」
 「全部嘘です」
 雅史は絶句した。
・
・
・
・
・
 「そうなんだ・・・ よかった」
 「えっ?」
 雅史の思わぬ発言に、セリオは思わず聞き返した。
 「僕、機械の事にあんまり詳しくないから、どうしようかと思っちゃった」
 「・ ・ ・」
 セリオは、ただ黙って聞いていた。
 「救急車は呼んでも無駄だったろうし、マルチちゃんはいないしね」
 「・・・」
 「でも、よかった。ホントに・・・ 心配しちゃった」
 雅史スマイルが発動した。
 「でも、私は・・・」
 「いいよ、いつもの冗談なんでしょ。気にしてないよ」
 「・・・」
 「でも、足も大丈夫なの? 立てる?」
 セリオは、この瞬間、記録を消去した。
 「・・・ よろしければ、手を貸していただきたいのですが・・・」
 「うん。はい」
 そう言って、雅史は手を差し伸べる。セリオは恐る恐る捕まると、立ち上が
った。
 「大丈夫? どこまで行くの?」
 「芹香様の所までです」
 「じゃあ一緒に付いて行くよ。僕も忘れ物してるしね」
 わかりやすい嘘だった。だが、セリオはその嘘に身を委ねた。
 「・・・ すいません」
 信じられないほど、か細い声が出た。
 「でも、私が故障した事は、どうぞ内密に・・・ 来栖川の信用に関わり
  ます」
 「うん、分かった。言わないよ」
 セリオは、その笑顔を脳裏に焼き付け、この青年を見続けた。つまり、デー
タ的には全くありえない事なのだが、彼に恋をしたのである。
 

                                     完