痛快!! 少年まさし 三部 一話  投稿者:仮面慎太郎


 痛快!! 少年まさし   
    髑髏(どくろ)博士の最後の罠 第一話
          「髑髏(どくろ)博士と組織の掟」


 暗く揺れる大きな部屋。闇色のスープを流し込んだ様な部屋に、かすかに
ロウソクの灯火が存在する。しかし、その明かりは太陽の光の様な希望には
満ちておらず、あくまで闇の中の光だった。
 部屋の中央に一人の男がかしずいている。その顔は恐怖ともう一つの決定
的な何かの感情に支配され、小さく震えていた。突然、男が声を出す。
 「も・・・ 申し訳あ・・・ りません」  
 声は震え、目には涙すら溜まっていた。恐怖。絶望。そして・・・
 「髑髏(どくろ)博士・・・」
 部屋の中を満たしている闇よりもなお暗く、そして重い声が闇に溶ける。
前方のレリーフが赤く光り、声に合わせて点滅する。
 「少年まさしは厄介だ。早々に始末しろと言っておいたはずだ・・・」
 ビクッ、と髑髏(どくろ)博士の身体が震える。溢れ出す恐怖。しかし、
レリーフは全く関心を寄せず続ける。
 「次は無いぞ・・・」
 そう言うと、レリーフは静かに闇に消え、後ろの扉が開いた。顔を上げて
髑髏(どくろ)博士は立ち去ろうと、扉をくぐった。
 「災難だったな・・・ 髑髏(どくろ)博士」
 廊下の暗がりから、タキシードの男が出てきた。格好は髑髏(どくろ)博
士に酷似していたが、男は若かった。そして、手にはステッキではなく剣を
持っていた。
 「ジェントル紫炎・・・」
 髑髏(どくろ)博士は吐き捨てる様に言った。
 「おやおや・・・ そんなに恐い声を出さないでくれたまえ。クックック
  ッ・・・ しかし、まだ生きている所を見るとこれが最後のチャンスの
  ようだな、髑髏(どくろ)博士」
 俯いて黙ってしまった髑髏(どくろ)博士を見て、満足そうに頷いた。
 「いい話を持って来てやったよ。クックックッ・・・ 私の駒を貸して
  やろう。我が兵団<御輿担ぎの男衆>(みこしかつぎのおとこしゅう)
  の中でも特に使える奴だ。コードC、C−クラド」
 パチンと指を鳴らす。それを合図に大柄な黒ずくめが天井から降り立つ。
 「代わりといっては何だが、君の研究データを少しもらうよ。勿論、断る
  事はできない。わかっているね。クックックックック・・・私は君が嫌
  いではないのだよ・・・ クックックッ、ハァッーハッハッハッハッ」

 
 「今日も雨か・・・」
 あかりが溜め息まじりに呟いた。ここは喫茶<持ち上げられた鎌首>の窓
側のテーブル。窓に当たり不器用に流れる水滴を見ながら、ミックスジュー
スを口にしている。向かいの席には浩之が座っていて、あかりを見ている。
 「ん、何? 浩之ちゃん」 
 「え、あ、いや、べつに・・・」
 狼狽した浩之は窓をじっ・・・と、睨んだ。 
 「どうしたの、浩之」
 雅史が鉛筆を置いて聞いてくる。
 「あ、いや、ここの問題が・・・」
 「宿題は、はかどってるかい?」
 お菓子のタネの余りで作ったクッキーを持って、マスターがやってきた。
 「このページで終わりです」
 そう言って、あかりは浩之のドリルを指でさした。浩之はマスターに笑い
掛けて、また鉛筆を走らせる。
 「そうだ。終ったらエディフィル探偵の話しをしてあげるよ」
 「ホント? やったぁー。浩之ちゃん、ガンバって」
 「おおっ!」
 マスターは・・・ 耕一は、ただ静かに子供達をみていた。この光景の向
こうの昔の自分達の姿と写しあわせて・・・
・
・
・
・
・
 「こういちお兄ちゃーん」
 「ははは、危ないよ、初音ちゃん」
 「初音ぇ、そんなに走るとまぁた転んで泣いちゃうぜぇ」
 「もぅ、梓お姉ちゃん。初音泣き虫じゃないもん」
 「耕一さん」
 「千鶴さん・・・ その袴(はかま)は?」
 「・・・ あの、似合ってますか?」
 「え、ええ」
 「よかったぁ、耕一さんに似合ってないって言われたらどうしようかと思
  っていたんですよ」
 「ははは、そんな事ないですよ、よく似合ってます。天女みたいですよ」
 「まぁ。ふふふ・・・ あ、初音、梓二人とも待ってぇ」
 「久しぶりだね。こうして五人で遊ぶの。ねぇ、かえ「マスターー!!」
・
・
・
・
・
 「マスターってば!!」   
 はっとして辺りを見回す。
 「マスター、宿題終ったよ。エディフィル探偵聞かせてよ」
 声の主は浩之だった。こちらを見上げて笑っている。見ると、あかりも雅
史も期待の目で見ていた。
 「よし、そうだね。じゃあ今日は・・・」
 他愛も無い時間は過ぎて行く。子供達にとって、時とは重い足枷ではなく、
前へ進む為の、翼を持った靴なのだ。雨は何時の間にかあがっていた・・・
 
 
 静かにクラシックが流れる中、ジェントル紫炎は一人の男と対峙していた。
その男の名はコードD・デロイ。背が高く、それでいてしっかりと肉がつい
ている、いかにも強そうないでたちである。
 「コードBの行方はどうか」
 ジェントル紫炎が言葉を発した。その声は、髑髏(どくろ)博士の時とは
違い、冷酷な重みがあった。
 「目下、捜索中であります」
 デロイが、事務的に答える。デロイはこの上司が好きではなかった。嫌悪
しているわけではないが、どうも正攻法を使わない彼を好きにはなれなかっ
た。
 「髑髏(どくろ)博士の方は」
 暗い部屋に、剣の装飾がいやに目立つ。
 「は、少年まさしの行動パターンを分析し、おびき寄せる作戦を展開中で
  す。なお、コードCは作戦任務中です」
 「よろしい。さがれ」
 言うや否や、音も立てずにデロイは消えた。
 「ふんっ。髑髏(どくろ)博士も終わりだな・・・」


 その日、雅史達の通う学校の周辺を飛行船が飛んだ。飛行船は、教科書程
度の大きさの紙をばら撒いて、何処へともなく去って行った。
 その紙には、たった一言、こう書かれてあった。

   <次の日曜、初めて会ったあの場所へ来い。待っているぞ。髑髏博士>

 その言葉の意味を理解できた者は少なかった。
 だが、その意味を理解した少年達は動き出した。
 


 そして、今だ少年のままであり続け「なければならない」人間も・・・


                            つづく